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巨人と阪神「禁断のトレード史」、江川卓と小林繁から山本泰寛まで

2021 7/11 06:00勝田聡
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初のトレードは江川卓と小林繁

日本プロ野球界で最も古い歴史を持つ巨人と、それに次ぐ阪神。1リーグ時代からライバルとして覇を競い、2リーグ分立後も同じセ・リーグで東西の人気球団として戦ってきた。

従って両球団間の移籍は禁断のトレードとされ、過去をさかのぼっても極めて少ない。トレード以外を含めても、巨人と阪神両方のユニフォームを着た選手はごく少数だ。

巨人と阪神のトレード


そんな禁断のトレードが初めてあったのが1979年だった。作新学院高のエースとして甲子園を席捲した1973年は阪急の1位指名を拒否し、通算47勝を挙げた法政大時代はクラウンライターの1位指名を拒否した江川卓が、1年間のアメリカ野球留学を経て念願の巨人と契約を交わしたのが、ドラフト前日の1978年11月21日。野球協約の盲点をついた電撃契約だった。

しかし、この契約を無効とされた巨人が翌日のドラフトをボイコット。江川を1位指名したのが阪神だったのだ。

憧れの球団入りを熱望する若者と、エース候補を獲得したい球団同士の言い分は平行線を辿り、日本中を巻き込む大騒動に発展。解決の糸口さえ見えないまま年を越したが、最後は阪神がコミッショナーの「強い要望」を受け入れ、禁断の交換トレードが成立した。

キャンプイン前日の1979年1月31日。巨人のサブマリン・小林繁は宮崎行きの飛行機に乗る直前に球団から呼び出され、とんぼ返りで記者会見に出席した。俗に言う「空白の一日」による騒動は、急転決着を見たのだ。

プロで1試合も登板せずに形式上、阪神から巨人へのトレードとなった江川は、1年目から先発ローテーションに入って9勝(10敗)をマーク。2年目には16勝(12敗)、219奪三振で最多勝と最多奪三振のタイトルを獲得する。以降も、巨人のエースとして引退する1987年まで135勝(72敗)をマークした。

一方の小林は移籍初年度に22勝9敗、防御率2.89、200奪三振の快投を見せ、自身2度目の沢村賞を受賞した。プライドをにじませた巨人戦8連勝は今も語り草だ。その後も1983年の現役引退まで5年連続で2桁勝利を記録。阪神へ移籍後に挙げた77勝(56敗)は巨人時代の62勝(39敗)を上回っている。

すれ違った二人の野球人生は“移籍先”でさらに輝いたと言える。その背景はさておき、成績面だけを見れば両チームとも獲得した選手が結果を残した良トレードだった。

甲子園を沸かせた太田幸司もトレード

巨人と阪神における2例目のトレードもネームバリュー抜群の選手が絡んでいた。三沢高を甲子園準優勝に導いた太田幸司である。太田は1969年に近鉄へ入団し、1983年3月に金銭トレードで巨人に移籍した。しかし、巨人では一軍出場機会がなく、同年オフに阪神の鈴木弘規と交換トレードされた。

大田は阪神でも登板機会はなく、1984年限りで現役を引退。一方の鈴木は巨人に2年間在籍したが、6試合の登板で未勝利に終わっている。結果的には両チームとも戦力アップにつながらなかった。

3例目は1990年オフに行われた巨人・石井雅博と阪神・鶴見信彦のトレードだった。しかし、2人とも移籍後に一軍での出場機会はなく、ともに移籍後わずか1年で現役を引退している。

21世紀に入ってからは金銭トレードのみ

21世紀に入ってから行われた巨人と阪神間のトレードはこれまで2件ある。1件目が2004年の開幕前に行われた阪神・カツノリの金銭トレードだ。

ヤクルトから父・野村克也監督の率いる阪神に金銭トレードで移籍したのが2000年。星野仙一監督になって出番が減り、2003年は一軍での出場がなかった。自身2度目の金銭トレードで巨人入りしたカツノリは、移籍後3試合に出場したが目立った成績を残すことはできず、同年オフに戦力外通告を受け退団。トライアウトを経て翌年から新規参入球団の楽天に移籍した。

最近になって行われたのが2020年オフ、巨人・山本泰寛の金銭トレードだ。巨人で過ごした最後のシーズンとなった2020年は1試合も一軍出場がなかったが、阪神移籍後は重用され、内野の複数ポジションを守れるユーティリティープレーヤーとして活躍している。山本はまだ27歳と若く、今後さらに成績を残す可能性は十分にありそうだ。

巨人と阪神のトレードは5件あったが、移籍後の成績を見ると特殊なケースである小林と江川を除き、一軍で戦力となった事例はほとんどない。唯一の現役選手である山本に前例を覆す活躍を期待したい。

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