大橋秀行から井上拓真まで世界王者65人
平成から令和に元号が変わるのを機に、改めて平成の日本ボクシング界を振り返ってみたい。
平成と一口に言っても、バブル最盛期の平成元年はまだ20世紀。スマホで動画を見ることもできず、当時のボクシングファンが海外のビッグマッチを観るには、テレビ東京の衛星中継か、リング・ジャパンのビデオテープを購入するしかなかった。海外の試合動画を無料で観られる現代とは隔世の感がある。
話を戻そう。日本で平成最初に世界チャンピオンになったのは「150年に1人の天才」と呼ばれた大橋秀行。崔漸煥を左ボディで倒して後楽園ホールが割れんばかりの大歓声に包まれたのが平成2年2月だった。
世界王者が7人もいる今では意外な気もするが、当時の日本ボクシング界は冬の時代で、日本のジム所属選手の世界挑戦はなんと21連続失敗中。まさに「最後の切り札」としてリングに上がったのが大橋だった。
その後、平成時代に初めて世界王座を獲得した日本のジム所属の男子ボクサーは、昨年12月にWBCバンタム級暫定王座に就いた井上拓真まで計65人。多士済々、個性あふれる世界王者を順に振り返っていく。
日本中を熱狂させた辰吉vs薬師寺
冬の時代を乗り越えた日本ボクシング界には次々にニュースターが出現した。「平成三羽烏」と呼ばれたのが辰吉丈一郎、鬼塚勝也、ピューマ渡久地の3人。辰吉はWBCバンタム級、鬼塚はWBAスーパーフライ級タイトルを獲得し、渡久地は世界挑戦したものの勇利アルバチャコフに敗れた。
眼疾から復帰して暫定王者となった辰吉が、正規王者・薬師寺保栄に挑んだのが平成6年のWBCバンタム級王座統一戦。日本中の注目を集めた一戦は、フルラウンドの激闘の末、薬師寺に軍配が上がった。平均視聴率は関東で39.4%、関西で43.8%、薬師寺の地元・名古屋では52.2%という驚異的な数字をマークした。
その後、王座復帰した辰吉を2度も倒したウィラポンからWBCバンタム級のベルトを奪回したのが長谷川穂積。10度防衛した後、3階級制覇まで達成する名王者となった。
平成23年には山中慎介がその後継王者となり、具志堅用高の日本記録にあと1と迫る12度の防衛を果たした。
日本初の統一王者となった井岡一翔
日本人王者同士が初めて統一戦を行ったのがWBCミニマム級王者・井岡一翔とWBA同級王者・八重樫東の一戦だった。平成24年6月、激しいどつき合いの末、井岡が日本人初の統一王者となった。井岡はその後、フライ級まで上げて3階級制覇。一度引退したものの現役復帰し、現在はスーパーフライ級で4階級制覇を狙っている。
また、フライ級前後の階級では多くの世界王者が誕生した。その中で、良くも悪くも話題を集めたのが亀田三兄弟。父・史郎氏の言動も含めて賛否両論あり、次男・大毅と内藤大助のWBCフライ級タイトルマッチでは大騒動を巻き起こした。それでも三兄弟とも複数階級制覇するなど歴代世界王者の中でも輝かしい実績を残し、記録にも記憶にも残るボクサーとなった。
世界的に評価の高い井上尚弥
平成末期になると世界的に高い評価を受けるボクサーが続出した。その代表格が井上尚弥。井岡一翔の7戦目を上回る、当時国内最短記録の6戦目でWBCライトフライ級王座を奪うと、平成26年にはWBOスーパーフライ級も制して世界最速8戦目で2階級制覇を達成した。現在は3階級目のWBAバンタム級王者としてWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)に出場しており、5月18日にイギリスでIBF同級王者のエマヌエル・ロドリゲスと対戦する。世界でも屈指の実力を誇る井上には4階級、5階級制覇の期待がかかる。
また、井上を上回るわずか5戦目でWBOミニマム級王座に就いたのが田中恒成。3階級制覇を達成し、3月16日には田口良一を破ってWBOフライ級王座の初防衛に成功した。
他にも日本人として初めてオリンピックの金メダリストからプロの世界チャンピオンになった村田諒太やラスベガスで年間最高試合の激闘を演じた三浦隆司、37年ぶりに米国で世界王座を奪取した伊藤雅雪など、最近は日本人ボクサーの海外での活躍が目立つ。伊藤は5月25日に米国で2度目の防衛戦を予定しており、世界最強と言われるワシル・ロマチェンコとの将来的な対戦を熱望している。
パウンド・フォー・パウンド平成最強ランキング
では、「平成最強」の日本人ボクサーは誰だろうか。同じ平成でも時の流れとともに技術は飛躍的に進歩しているし、トレーニング環境や設備も違うが、あくまで同じ時代、同じ階級と仮定して、独断と偏見でランキングを作成してみた。日本特有の元号である「平成」のランキングのため、日本のジム所属の外国人選手、ホルヘ・リナレスや勇利アルバチャコフらは対象外とした。
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1位はスピード、パワー、実績とも申し分のない井上尚弥。世界のパウンド・フォー・パウンドランキングにも名を連ねるほどの実力者なので異論はないだろう。
2位には長谷川穂積を選んだ。元々テクニシャンだったが、防衛を重ねるうちに力強さを増し、バンタム級の6度目から9度目の防衛戦まで2R、2R、1R、1Rと前半でノックアウトした頃の強さは圧巻だった。
3位は内山高志。24勝中20KOのパワーで日本歴代3位の11度防衛。WBAからスーパー王者にも認定された。
4位は山中慎介。左ストレートの切れは抜群で、歴代2位の12度防衛に成功。長谷川、内山とも甲乙付け難いが、キャリア終盤ではたびたびダウンするなど打たれ脆さを露呈したため4位にとどめた。
5位は井岡一翔。引退するまでは完璧なテクニックを見せていたが、昨年大晦日のニエテス戦(判定負け)の内容が乏しかったため評価を下げた。
以下、6位はラスベガスで防衛に成功するなど本場・米国でも評価された西岡利晃、7位は華麗なディフェンス技術で世界王座を6度防衛した川島郭志、8位は無敗で3階級制覇した田中恒成、9位にレジェンド、辰吉丈一郎、10位は坂本博之との死闘を制した畑山隆則とした。
異論はあると思うが、複数階級制覇や防衛回数などの実績だけでなく、ファンに与えた印象や全盛期に直接戦えばどちらが勝つかもイメージして決めた。令和時代はどんなスターボクサーが出てくるだろうか。楽しみでならない。