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【スポーツ×スタジアム】第4回 地方都市の新スタジアムの考察①

2018 11/30 15:00藤本倫史
地方スタジアム@Shutterstock.com
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先進的な北九州の事例

前回は、大阪府吹田市にあるパナソニック・スタジアム吹田を事例に考察を行った。ただ、大阪府という3大都市圏に所在しているので、今回は都市規模がそれよりも小さな地方都市の考察を行い、スタジアムの可能性について述べていきたい。

まず、今回、取り上げるのは、福岡県北九州市をホームタウンとするJ3ギラヴァンツ北九州の本拠地「ミクニワールドスタジアム北九州」である。

私が前述した広島や大阪とともに、このスタジアムも共同研究を行うために、開設前の視察や開設年度のギラヴァンツ開幕戦にも伺った経緯がある。

このスタジアムの特徴はサッカーとラグビーの兼用スタジアムになっている(サッカーとラグビーのフィールドは非常に似通っており、観戦者の臨場感などに問題はない)。サッカーだけでなく、ラグビーの活用もアクティブに動いており、2017年2月18日には、スタジアムのこけら落としで「サンウルブズvsジャパンラグビートップリーグオールスター」が行われ、女子のラグビー7人制の国際大会「ワールドセブンス」のシリーズも行われた。

まちなか、海近型のスタジアム

立地としては、JR小倉駅から徒歩7分の場所に位置しており、まさに「まちなかスタジアム」と言える。ゆえに、アクセスも当然、優れており、北九州空港からもノンストップ便で最短33分になっている。

スタジアムの設備も充実しており、「ゼロタッチ」と呼ばれる最前列とタッチラインの距離は8mで、高低差も65cmとなっている。観客にとって「みるスポーツ」としての環境は優れており、席の勾配は最大傾斜37度で国内最大級であり、前席と後席の高低差も確保されている。

これに加えて、環境にも配慮したスタジアムで、メインスタンド屋根に太陽光発電設備、高効率LEDナイター照明、雨水の洗浄水利用なども整備されている。

施設の設備も特徴があり、地域密着型になっている。地元にゆかりのあるTOTOが多機能トイレ、東邦チタニウムがチタン銘板などを寄贈。その縁で、「街かどショールーム」と銘打ち、スタジアム内で地元製品をPRするコーナーを作っている。

そして、最大の特徴が「海近」である。スタジアムが海に隣接しており、隣接している部分の座席数を少なくし、海が見える構造になっている。これを見るとMLBサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地AT&Tパークを思い出すのではないか。バリー・ボンズがライト方向に特大ホームランを打ち、そのボールを捕るためにカヌーで浮かびながら待っている人たちの光景は日本でも紹介された。このスタジアムもそのような遊び心を持っている。

まちづくりの視点で創られたスタジアム

また、スタジアムへの道は小倉駅北口から行くのだが、南口に比べ、商業施設も少なく、人通りも少ない。この街の課題をスポーツによって解決するべく、北口の回遊性を活発化しようとまちづくりの視点からスタジアム建設をしているのが素晴らしい。

北九州は製造業が主な産業であり、観光開発が遅れている。そこで、マンガとスポーツに注目し、行政側もこのスタジアムを積極的に推進し、クラブと協議を進め、時間がかかったが、合意形成のプロセスをしっかりと踏んできた。

そして、スタジアムをただ建設するだけでなく、スタジアムの向かいには広場やバスケットボールのハーフコート、そして、周りのコンベンションセンターやホテルなどと連携し、スポーツを核としたまちづくりを進めている。

私もこのスタジアム建設に関わった共同研究者の先生に色々とお話を聞き、まちなか型としては非常に理想的な建設過程を辿ったのではないかと感じている。

しかし、建設後の課題も出てきている。ギラヴァンツがJ3に降格後、なかなか浮上できず、市が想定していた集客数よりも下回った(2017年ホームの総観客動員数95,023人)。マスメディアもこの低迷や年間の維持費1億5千万円が赤字になることについて報じている。

だが、よく考えるとプロスポーツクラブ経営の根底は「勝敗に左右されない経営」である。北九州の事例は非常に先進的なものであり、短期的な結果より長期的な視点で物事を判断するべきである。だからこそ、このミクニワールドスタジアム北九州の今後の運営と北九州のまちづくりをしっかりと見ていきたいと考えている。

是非、皆さんも一度訪れてみてはどうか。

次回は愛媛県今治市のスタジアム建設について述べていく。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。