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【スポーツ×スタジアム】 第3回 新スタジアムの考察①

2018 11/16 15:00藤本倫史
吹田スタジアム,ガンバ大阪
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パナソニックスタジアム吹田の現状

前回は広島市の事例について述べた。今回は、Jリーグが推進する多機能複合型のスタジアム事例として、ガンバ大阪の本拠地、パナソニックスタジアム吹田について考察したい。

パナソニックスタジアム吹田は、寄付金で造った国内初のスタジアムである。総事業費は約140億円。その内訳は法人の寄付が99億円、個人の寄付が約6億円、残りが助成金で約35億円となっている。このスタジアムの最大の魅力はその臨場感。観客席とピッチの距離が7メートルと、同規模のスタジアムとしては国内で最も近くなっているのだ。

最前列とピッチレベルの高低差も1.5メートルしかなく、目の前で選手の白熱したプレーを堪能できる。ベンチがスタンドの一部に組み込まれているのも特徴で、観客の視界を遮らないよう工夫している。

入り口の階段を上り、観客席のある3階フロアにたどり着くと、ピッチが前面に広がる。この光景は熱狂的なサポーターだけではなく、初心者も感動するのではないか。

外周部分にはバラエティーに富んだ売店が並ぶ。その数は29店舗。3階のフロアは仕切りがなく回遊可能で、反対側のスタンドにある売店にも行くことが可能。また、トイレは一つ下の2階にまとめ、動線が重ならないよう工夫が施されている。

クラブの運営としては観客に対してだけではなく、芝の扶養を助けるため、ピッチレベルに自然の風を取り入れる通風口が設けられている。

このような観る環境作りは非常に大切で、前回述べた広島の事例などもそうだが、陸上兼用や老朽化が進むとなかなか観客を呼ぶことが難しくなる。無論、マンチェスター・ユナイテッドのオールド・トラッフォード、野球でいうと、阪神甲子園球場やボストンレッドソックスのフェンウェイパークなど、歴史ある球場で集客に成功しているスタジアムもある。ただ、歴史は簡単に作れるものではない。やはり、観戦環境を良くすることが、集客の重要な部分を占めているといえる。

防災とスポーツホスピタリティ

さらに、このスタジアムは競技面だけではなく、防災としての機能も備わっている。大規模災害時に避難場所となり、防災拠点としての機能も併せ持つことは、近年の大規模災害を見るとどれだけ大切かすぐに理解できるだろう。

このために取り入れたのが、大規模スタジアムとしては日本初となる屋根免震構造である。観客席を覆う屋根と、スタジアム本体との間に免震装置を設けることで、地震時に屋根の揺れを減らして落下を防ぐ。それとともに、屋根を支える柱のスリム化にもつながる。また、同時期にエキスポランド跡地に誕生した大型複合施設エキスポシティと、一括受電するシステムも導入しているのは重要なポイントだ。

もう一つ重要なポイントととして挙げられるのが、スポーツホスピタリティとしての機能だ。これは、スポーツツーリズムの章でも述べたが、VIPの接待やビジネスの商談時に特別な空間を設けることはスタジアムの機能と格を上げる。

パナソニックスタジアム吹田は、4階席からピッチ全体が見渡せる約300席のVIPシートがあり、本格的なフレンチを楽しむことができる。このシートは2016年の稼働率が約30%、2017年は約50%とまだまだ活用が進んでいない。スポーツホスピタリティの文化はまだまだ日本に根付いていないが、世界や国内の富裕層に対して、今後どれだけPRできるかが鍵だといえる。このようなVIPやビジネスの商談で使うシートはこれからより研究されなければならないだろう。

スタジアム建設後の効果

この他にも全面LED照明を使用し、ランニングコストや営業費用を抑える等、環境への意識も高い。また、このスタジアムが多くの寄付金のもとに完成したことから、5万円以上寄付した方の名前が刻まれたネームプレートを設置しているのも特徴的だ。

吹田スタジアム

ⒸSPAIA

スタジアム建設後の目に見える効果として入場者数の増加がある。2016年の年間入場者数は158,822人増、平均入場者数としては9,342人の増加で、増加率は158%となった。

ただ、新設時は観客がご祝儀で入ってくれることが多く、大切なのは2年目以降である。現に2017年のホーム平均観客動員数は24,277人と微減しており、継続することの難しさが垣間見える。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。