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【スポーツ×スタジアム】第3回 新スタジアムの考察②

2018 11/23 15:00藤本倫史
パナソニックスタジアム吹田
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複合化をどう考えるか

前回、パナソニックスタジアム吹田の現状について述べた。

新しいスタジアムによる集客効果は大きいが、それを継続していくかが、難しい。私は継続するポイントととしては、複合化ではないかと考える。

確かに、スタジアム自体の機能も大切である。ショッピング、ホテル、飲食店など、スタジアム内に入れることは素晴らしい。しかし、その地域に愛され、周辺地域と連携し、そのスタジアムが有機的につながり複合化をしていかなければ、人は来ないと考える。

また、周辺地域のことを考えず、スタジアムだけが儲かっても本当の意味での地域活性化にはならない。その部分がこのスタジアムも課題ではないか。実際に昨年、ガンバのクラブスタッフにインタビューし、スタジアム見学もした。それらを含めて、継続性をキーワードに今回は考察を行いたい。

まず、このスタジアムの課題として、駅とスタジアムが遠いことが挙げられる。特に夏になると、スタジアムまでのアクセスと到着してからの暑さ対策は昨今の異常気象を考えれば、注意喚起が必要であり、大型扇風機を設置するなどでクラブは対策を始めている。

このようなスタジアムは公共交通機関での来場を呼びかけることが普通であり、この暑さ対策、さらにはスタジアムまでの道のりでどう楽しく足を運んでもらうかは非常に大きな課題だ。

浦和レッズの埼玉スタジアムなども駅からスタジアムまで遠いが、屋台などがあり、道のりが非常に充実している。無論、最寄りの駅などからスタジアムが近いことは良いことだが、そうでない場合は考えなければならない。

スタジアムを建設しただけでは、儲からない

そして、もう一つ大きな課題が、周辺施設の回遊性と連携である。

このスタジアムは万博記念公園にあり、大阪万博のレガシーや博物館等があり、非常に周辺地域は充実しており、中でも2015年に開場した大型複合施設のエキスポシティとの連携に注目された。ただ、開設当初は別々に集客をしており、あまり連携する動きは見られなかった。

これではあまりにももったいない。当然、どちらとも客商売であり、競合相手であるが、長期的な視点に立つと、周辺地域の経済効果が上がることにより、地域活性化が可能となる。実際に、スタジアム開設1年目は試合が始まってからの再入場はできなったが、2年目からはできるようになり、施設同士の企画も始まっている。

また、パナソニックスタジアム吹田は大阪の経済界や府民、サポーターが寄付したスタジアムであり、公共財としての意義も多分にある。本拠地を置く吹田市もこの一帯を単なる商業施設として捉えるのではなく、積極的に関わっていくことで、地域の観光資源として有効活用できる。

実際に、大阪を訪れるアジア人観光客は、エキスポシティを多く訪れている。そこにスポーツツーリズムの要素を入れ、応援ツアーやスポーツ体験プログラムなど企画をし、パナソニックスタジアム吹田を戦略的にPRして、吹田市の売りにしていくこともできるだろう。

税金を使わないスタジアムの意義

このスタジアムはほぼ税金が使われていないスタジアムとして、様々なスポーツビジネスの新しい事例に出てきている。だが、逆に行政側としては、このような事例は少なく、正直、どのように関与すればいいのか戸惑っている感じが見受けられる。今まで、日本では税金で造られたスタジアムがほとんどである。行政側もどこまでコミットすればいいか悩んでいるのではないか。

しかし、私は逆に積極的に関わっていくことが必要ではないかと考える。それは上から目線ではなく、フラットな立場で行政側もガンバやスポーツ界と連携し、スタジアムに出てくる課題を解決していくべきだろう。

それは寄付から造られたスタジアムであるからだ。経済界も市民もガンバの活性化だけでなく、大阪府や吹田市を盛り上げてほしいという意図も寄付には含まれると推測できる。それでなければ、140億円も集まらない。だからこそ、地域として、このスタジアムを地域資源として捉えていき、行政も積極的に関わっていくことがこれからのスタジアム運営には必要である。

これまで、日本では税金を多額に出動させ、スポーツをする視点で造られてきたのが当たり前だった。だが、今の時代は違う。あらゆる知恵をだし、費用対効果を考え、地域全体でスタジアムを造り、マネジメントを考え、動かしていくのが新しい形である。

クラブ単体や自治体単位で考えるのではなく、幾多のステークホルダーが相互作用し、連動して運営していかなければ、赤字だらけのスタジアムになってしまう。それでは結果的に造らなければよかったという結論になる。

前回、示した「継続性」というキーワードだが、スタジアム建設前から地域に本当に必要なのか、何のために造るのかを考え、ビジョンとスキームを示し、地域全体で運営していくことがこれから必要になってくるのではないかと考える。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。