女性蔑視騒動で開会式統括役が辞任
東京五輪・パラリンピックの目玉となる開閉会式の企画演出で統括役を担ってきたクリエーティブディレクターの佐々木宏氏(66)が3月18日、引責辞任した。
式典に出演予定だった女性タレントの渡辺直美さん(33)の容姿を動物に例えて侮辱する内容の演出を関係者に提案していたことが発覚し、国内外に広がる騒動に発展。大会組織委員会は女性蔑視発言で森喜朗前会長が2月に引責辞任したばかりで、開幕まで約4カ月で開催機運の一層の低下が懸念される混迷に陥っている。
世界で数億人がテレビ視聴するとされる五輪の開会式。しかし国際交流やスポーツを通じた平和運動である「平和の祭典」に込めた大会の理念やメッセージを披露する象徴的な式典の歴史を振り返ると、過剰な演出やアクシデントで物議を醸したシーンも少なくない。
北京五輪は9歳の「口パク」少女が話題
巨大国家の威信を懸けた2008年北京五輪の開会式は花火の合成映像、少女の歌の「口パク」など偽装が話題となった。
中国国旗が五輪メイン会場の国家体育場(愛称・鳥の巣)に入る際、9歳の少女が革命歌曲を歌う場面が、実際は別の7歳の少女が歌った「口パク」だったことが判明。当時の中国メディアによると、音楽を担当した中国の著名作曲家、陳其鋼氏は「対外的な印象を考えた。国家利益のためだ」と説明したが、国内からも批判の声が出た。
式で打ち上げられた花火で描いた「巨人の足形映像」もコンピューターグラフィックス(CG)による合成映像が使われたことも後に明らかになった。
ソウル五輪では平和の象徴ハトが焼死の悲劇
五輪の開会式では「平和の象徴」としてのハトの放鳥も知られてきた。戦後の1964年東京五輪では約8千羽が舞い、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が青空に5色の煙で五輪マークを描いた場面がハイライトの一つだった。
しかし1998年ソウル五輪では思わぬ悲劇が起きた。聖火台の火でハトが焼け死んでしまい、動物愛護団体が抗議する騒動となったのだ。その後の五輪は本物のハトではなく、風船などを代用した演出が行われている。
ソチ冬季五輪は「四輪」となるトラブルも
2014年ソチ冬季五輪開会式では「ロシアの夢」をテーマに、大国が歩んだ激動の歴史を紹介。ただクライマックスで会場につるされた巨大な五つの雪の結晶が五輪マークに変わる演出で、一つの結晶が輪にならず「四輪」となるトラブルもあった。
しかしロシア国内向けの映像では失敗部分がリハーサルの成功映像に差し替えられたことも物議を醸した。
一方、閉会式では五輪マークが「四輪」になった開会式のハプニングを取り込む粋な演出を実施。序盤の演目で700人の出演者が人文字で四つの輪をつくった上で右上の輪が開かない状況を再現し、五つ目の輪を完成させて喝采を誘った。
当時の総合監督は「開会式でうまくいかなかったことをユーモアにした。『四輪』がソチ五輪の非公式ブランドになるのでは」と得意満面だった。
矢を放って点火、ロケットマン登場も
五輪開会式のハイライトは豪華な演出ばかりでなく、聖火リレーの最終ランナーによる聖火台への点火でもある。
1992年バルセロナ五輪では障害のあるアーチェリー選手が夜空に火の付いた矢を放って聖火台に火をともし、劇的な演出が喝采を浴びた。
1996年アトランタ五輪ではボクシング元世界王者でパーキンソン病だったムハマド・アリさんが最終走者を務め、震える手でトーチを握った。
1984年ロサンゼルス五輪の開会式は背中にジェット噴射装置を付けた「ロケットマン」が空中遊泳する姿が世界の話題を呼んだ。五輪が「商業主義路線」へと舵を切り、開会式のショーアップ化を加速させた歴史的なシーンでもあった。
ロンドン五輪はユーモアあふれる粋な演出
2012年ロンドン五輪はユーモアあふれる粋な演出が話題を呼んだ。
映画監督のダニー・ボイル氏が芸術監督を務め、エリザベス女王と人気映画「007」の主人公ジェームズ・ボンド役の俳優ダニエル・クレイグさんがメイン会場の上空から一緒にパラシュートで飛び降りる映像が流れ、開会式のハイライトとして語り継がれる場面に。
英国の大衆文化や音楽を前面に押し出し、国を代表するコメディアン、ミスター・ビーンが名作映画「炎のランナー」をパロディーにしてロンドン交響楽団と共に演奏しながら世界の笑いを誘った。
東京五輪の入場行進は史上初の五十音順
五輪の開会式は派手な演出とともにさまざまなルールもあり、選手団の入場行進は1908年の第4回ロンドン五輪から各国・地域がその旗を先頭にして順番に進む今の形式となった。
行進順は最初が五輪発祥国のギリシャ、最後が開催国となり、その間は開催国の言語で英語のアルファベット順に相当するものに従うのがこれまでの慣例だったが、今夏の東京五輪は日本語で国・地域名を表記した五十音(あいうえお)順で初めて実施する。
日本で1964年に開催された東京五輪、1972年札幌、1998年長野の両冬季五輪は、国際的な分かりやすさを重視して英語表記のアルファベット順で実施してきたが、今回は日本固有の文化を発信する狙いでもある。
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