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北京冬季五輪ボイコット論争、中国の人権弾圧で東京五輪に続いて波乱含み

2021 3/24 06:00田村崇仁
北京冬季五輪の会場Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

少数民族への弾圧や香港での統制強化に対して欧米中心に圧力

新型コロナウイルスの変異株拡大で今夏に延期された東京五輪の開催可否がいまなお不透明な中、その半年後となる2022年2月開幕の北京冬季五輪は人権問題で新たな火種を抱えており、欧米を中心にボイコットや開催地の変更を求める圧力が強まっている。大混乱の東京五輪に続き、東アジアで開催の祭典は早くも波乱含みの様相だ。

問題視されているのは中国政府による新疆ウイグルやチベットの自治区での少数民族に対する弾圧、香港での統制強化。国際人権団体は公式ツイッターで「ウイグル族へのジェノサイド(民族大量虐殺)を止めよう」と訴え、中国の人権弾圧を理由に北京五輪の開催地変更を国際オリンピック委員会(IOC)に要求して選手団をボイコットするよう呼び掛けている。

IOCバッハ会長はボイコットに反論

1976年モントリオール五輪フェンシング団体金メダリストであるIOCのバッハ会長はこうした動きに反論する。「IOCの政治的中立な立場」を強調した上で、自らの選手時代に旧ソ連のアフガニスタン侵攻を理由に1980年モスクワ五輪がボイコットされた当時、政府の方針と闘った苦い経験を引き合いに出した。

「人々は歴史から学ぶべきだ。ソ連の撤退はボイコットから9年後。五輪をボイコットしても何も達成できていない。アスリートが犠牲になるだけだ」と主張。「これは各国政府が責任を果たすべき問題」との見解を改めて示した。

モスクワ五輪は西側諸国が泥沼のボイコット

1896年アテネ大会で始まった近代五輪を振り返ると、五輪は「平和の祭典」を掲げながら時代背景を色濃く反映し、回を重ねるごとに世界規模となった巨大イベントが国際政治に翻弄されてきた歴史でもある。自国の主張をアピールしたり、開催国に打撃を与えたりする手段としてボイコットが使われてきた。

1980年モスクワ五輪は東西冷戦下で開催された共産圏初の大会だったが、1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻。米国が制裁としてボイコットを呼び掛け、日本を含む多くの西側諸国が応じた。

日本でも柔道の山下泰裕やレスリングの高田裕司らアスリートが参加を涙ながらに訴えたが、今も深い悔恨を残す「幻のモスクワ代表」となった。「スポーツ界が政治に屈した日」として苦い教訓を残し、後にスポーツ界の自立が叫ばれる契機ともなった。モスクワ大会の参加国・地域は約80にとどまっている。

ロス五輪は東側諸国が報復ボイコット

ちなみにこの時代、英国は「鉄の女」サッチャー政権の圧力に屈せず、国内オリンピック委員会が独力でモスクワ五輪に派遣した。このときアスリートの先頭に立って活動したのが陸上男子1500メートルでモスクワ、1984年ロサンゼルス五輪と2連覇した元スター選手のセバスチャン・コー氏。引退後は政界に転じて国会議員を務め、2012年ロンドン五輪では大会組織委員会会長として成功に導いた。

モスクワ大会から4年後の1984年ロサンゼルス大会は、ソ連や東ドイツなどの東側諸国が泥沼の報復ボイコット。1988年ソウル大会で3大会ぶりに「東西両陣営」がそろったが、北朝鮮が南北共催を巡る対立で不参加を決めた。

初のボイコットは1956年メルボルン大会

五輪初のボイコットは1956年メルボルン大会。民主化を求めるハンガリーにソ連軍が侵入して弾圧したハンガリー動乱や、スエズ運河国有化を巡ってイスラエルがエジプトに侵攻し英仏両国が軍事介入したスエズ動乱が発生し、オランダやスイス、エジプト、イラクなどが参加を見送った。

1976年モントリオール大会では、南アフリカの人種隔離政策に反対するアフリカ諸国が大会直前に参加を辞退し、タンザニア主導で20カ国以上がボイコット。人種隔離政策を採る南アフリカにラグビー遠征したニュージーランドの参加に対する抗議だった。

1949年に成立した現在の中国は1952年ヘルシンキ大会に選手を派遣したが、台湾も「国」として扱う「二つの中国」容認に反発し、メルボルン大会からモスクワ大会まで参加しなかった。

戦火で中止は5度

五輪の中止は過去に5度あり、全て戦争が理由だった。

1916年ベルリン大会は第1次世界大戦で中止。1940年東京大会は日中戦争が激化したことで日本政府が開催返上を決定し、ヘルシンキが代替開催地となったが、結局は第2次世界大戦の影響で中止に。続く1944年ロンドン五輪も含めて中止となった。

冬季五輪は1940年札幌大会と1944年コルティナダンペッツォ大会が同じ戦火を理由にそれぞれ開催できなかった。

北京五輪は「経済・外交ボイコット」を

2022年北京五輪を巡っては中国と敵対したトランプ氏を引き継いだバイデン米政権も米国の参加を「最終決定していない」と慎重な姿勢だ。

最近はアルペンスキーで冬季五輪2個の金メダルを獲得しているミカエラ・シフリン(米国)が海外メディアに「一部の五輪開催地で誰もが人権やモラルと、仕事をできるかどうかの間で選択を求められる立場に置かれたくない」と指摘し、複雑な胸中を明かすアスリートも出てきている。

2002年ソルトレークシティー冬季五輪の大会組織委員会会長を務めた米上院のミット・ロムニー議員(共和党)は3月15日付ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で北京冬季五輪について米国選手の派遣を取りやめるのではなく「経済・外交ボイコット」を展開すべきだと主張。「選手を派遣しないのは安易だが間違ったやり方」と指摘し、海外から観客として中国に行かず経済的利益を与えないようにする「経済ボイコット」、開閉会式などに外交団を送らない「外交ボイコット」を「正しいやり方だ」と独自の見解を唱えた。

現代は感染症リスク、スポーツDX時代に

北京のボイコット論争の一方で、現在は戦争や国際政治に翻弄されるのではなく、まさしく東京五輪が直面するように感染症のリスクが五輪の最大のハードルとなっている。

2016年リオデジャネイロ五輪ではブラジルで流行していたジカ熱が懸念され、ゴルフなどで複数の有力選手が出場を相次いで辞退。しかし感染は拡大せず、大会は何とか無事に開催された。

戦争や政治とは異なる要因は不可抗力とはいえ、平和の祭典として行われてきた五輪は東京大会で海外からの観客を断念し、新たな形で歴史が刻まれようとしている。

こうした局面に入ったスポーツ界で鍵を握るのが「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の世界。コロナ禍で一気に普及したクラウドファンディング、投げ銭などのギフティングサービスもスポーツ界での導入が一層期待される。自宅などで中継を見ながら現場に声援を届ける新技術「リモート(遠隔)応援システム」も実用化が進んでいる。

高速大容量や多数接続が可能な第5世代(5G)移動通信システム整備に向けた新法が成立し、今後は世界でスポーツの新しい在り方が長期的に問われる時代に入りそうだ。

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