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日大三・小倉全由監督が考える「大舞台で勝つために必要な選手」とは

2022 9/12 06:00SPAIA編集部
日大三の小倉全由監督,Ⓒ上野裕二
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Ⓒ上野裕二

U-18ベースボールワールドカップ開幕

第30回WBSC U-18ベースボールワールドカップが9月9日からアメリカで始まった。今年の夏の甲子園で活躍した選手を中心に日本代表が選ばれたが、甲子園や世界の大舞台で活躍する選手はどういった特長を持っているのか。

『コロナに翻弄された甲子園』の著者である小山宣宏氏が、10年前、日本代表監督としてチームを指揮した日大三の小倉全由監督に聞いた。

どれだけ「泥臭い野球」ができるか

甲子園や世界大会など、大舞台で勝つために必要な選手とは――。あえて言うならば、「泥臭いプレーのできる選手」「大舞台にも動じない、強い心を持った選手」の2つを挙げます。

関東一高の監督になって2年目に、東洋大姫路と練習試合を行ったときのこと。私はランナーが出ればとにかく打たせ続けたのですが、相手の梅谷馨監督は、ランナーが出ればすぐに送りバントを決めさせ、そしてランナーが三塁まで行くと強打ではなく、スクイズばかりさせていたのです。結局、試合は1点差で東洋大姫路が逃げ切って勝ったのですが、試合後に東洋大姫路の梅谷監督に呼ばれると、こんな話をし始めたのです。

「小倉君、関東の学校は格好いい野球をしようとするけど、関西は泥臭い野球をするんだ」

梅谷監督は77年夏の甲子園で松本正志投手を率いて同校を初優勝に導きました。梅谷監督はこの年阪急にドラフト1位で指名された松本投手をはじめ、豊田次郎、長谷川滋利(いずれも後にオリックス)といった好投手を育てて、守り抜いて勝つチームを作り上げることに定評がありました。

そこには梅谷監督が目標とした、同じ兵庫の「打倒・報徳学園」というのが念頭にあったからです。報徳を倒さなければ甲子園には行けない――。その思いが堅実に攻撃していくことにつながっていったのです。

今の野球はどちらかというと強打を前面に出した学校が多く、大阪桐蔭や東海大相模といった強豪は、チャンスの場面でタイムリーヒットを打つ場面が多く見られます。けれども18年夏の甲子園で金足農業が9回裏ノーアウト満塁の場面で2ランスクイズを決めて近江を破ったシーンに象徴されるように、大事な場面で効果を発揮する作戦として、今でも広く使われています。

強打とバントを巧みに使い分けて攻撃を仕掛けていくことも、全国を勝ち抜くには必要であると、梅谷監督の言葉から学び取りました。

「うまい選手より、気持ちの強い選手」を起用せよ

12年に世界選手権大会の日本代表監督を務めたとき、当時横浜高校の監督だった渡辺元智さんからは、国際試合で通用する選手について、教えていただいたことがあります。それは、「うまい選手ではなく、気持ちの強い選手であること」でした。

当時の日本代表には、花巻東の大谷翔平、大阪桐蔭の藤浪晋太郎(現阪神)、森友哉(西武)、八戸学院光星の北条史也(現阪神)、田村龍弘(現ロッテ)ら、今やメジャーや日本のプロ野球で活躍する才能豊かな選手たちが集まっていました。

ところが結果は残念なものになってしまいました。第一ラウンドは2位通過したものの、第2ラウンドでコロンビア、アメリカに負けて5・6位決定戦に回り、迎えた韓国戦では1点も奪えずに0対3の完封負けで、日本は6位という結果に終わったのです。

このとき日本代表に帯同していただいた渡辺さんが仰いました。

「世界でトップクラスが集う大会になったら、技術の高い、うまい選手はいらないんです。技術が高いだけではなく、ハートの強い選手が集まっているチームは強い。メンタルは大切ですよ」

たしかにそうだなと思いました。日本代表チームは春と夏の甲子園で活躍した選手を中心に集めるのですが、大事な場面でエラーをする選手、チャンスの場面で凡打を繰り返す選手など、世界各国の選手と比べるとここ一番で能力を発揮できずに終わってしまった。

甲子園ではあれだけ活躍していたにもかかわらず、国際大会で初めて対戦するバッターやピッチャーには思い切って攻めることができなかった。そう考えると気持ちの部分は大切になるなと采配を振るっていて実感したのです。

渡辺さんは松坂大輔投手を擁して98年の甲子園で春夏連覇を果たしたのを筆頭に、春3度、夏2度甲子園を制している一方、甲子園に出場してもなかなか勝てずにいた時期もありました。それだけに「大舞台で活躍する選手の身抜き方」というのも選手選びのポイントに挙げられていたのだと思います。

梅谷監督がおっしゃっていた「泥臭いプレーのできる選手」、渡辺さんがおっしゃっていた「大舞台にも動じない、強い心を持った選手」は、三高の選手たちをそうやって育てていきたい――。そんな願いを持ちながら、今日も選手たちと一緒にグラウンドで汗を流しているのです。

コロナに翻弄された甲子園

Ⓒ双葉社


「一生懸命」の教え方

Ⓒ日本実業出版社


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