広島の中心打者へと成長した坂倉
プロ野球もいよいよ終盤にさしかかってきた。現在広島の中軸を担う坂倉将吾は、日大三出身の選手である。
『コロナに翻弄された甲子園』の著者である小山宣宏氏が、『一生懸命の教え方』(日本実業出版社)で小倉全由監督にインタビューした際、坂倉がここまでプロで活躍している理由について尋ねた。
プロ野球もいよいよ終盤にさしかかってきた。現在広島の中軸を担う坂倉将吾は、日大三出身の選手である。
『コロナに翻弄された甲子園』の著者である小山宣宏氏が、『一生懸命の教え方』(日本実業出版社)で小倉全由監督にインタビューした際、坂倉がここまでプロで活躍している理由について尋ねた。
1つの目標をクリアしたら、次もさらなる高みを目指した目標を設定する。それを繰り返していくことで、一流、さらには超一流へと到達することができるのだと、私は考えています。
16年に広島に入団した坂倉将吾は、私にとって忘れられない選手の1人です。彼は千葉の八千代中央シニアで全国優勝を成し遂げ、三高の野球部に入部してきたのですが、その頃から、「将来はプロに行きたいです」と発言していました。キャッチャーとして強肩で観察眼に優れ、キャッチングがうまく、ピッチャーのよさを引き出す配球にも目を見張るものがありました。
残念ながら坂倉が在籍した3年間は、春夏ともに甲子園に出場することができませんでしたが、16年のドラフト会議で広島から4位指名を受け、念願叶ってプロ野球選手になることができたのです。
ただし、プロの本当の勝負はそこからスタートします。プロ野球選手になれた時点で満足しているようでは、間違いなくその後に成功をおさめることはありません。ましてやキャッチャーというポジションは、ピッチャーと信頼関係を築き上げていくのはもちろんのこと、チームの全員から信頼されることも必要となるのです。
けれどもそうした不安は杞憂に終わりました。二軍で実績を積みながらルーキーイヤーから一軍の試合に3試合出場、翌年以降は9試合、51試合、81試合と年々出場試合数が増えていきました。とくに4年目となった20年シーズンは、打率2割8分7厘、本塁打3本、打点26をマークし、自分の地位を確立しつつあるところまで成長したのです。
そんな彼が、シーズンオフに三高の合宿所に顔を見せたとき、広島の話をいろいろ聞きました。プロの世界の練習の厳しいことや、一軍の試合で結果を残さなければ、二軍に落とされてしまうこと、たとえ一軍に上がっても慢心することなく、日々の努力を怠っていないことなど、余すことなく話してくれたのですが、なかでも私が感心したのは、「ピッチャー陣と普段からコミュニケーションを取り続けていること」でした。
ピッチャーがどんな球種を持っているのか。ウイニングショットはどれなのか。そうした話をしていくなかで、「坂倉というキャッチャーは、こういう考えを持ったキャッチャーなんですよ」ということを、個々のピッチャーに伝えていく。
入団当初は高卒ということもあって、ベテランのピッチャーから子ども扱いされたこともあったかもしれません。けれども彼は、自分の考えというものを、きちんと先輩たちに伝えていくことができた。そうした日々のコミュニケーションを積み重ねていったことで、ピッチャーから信頼されるようになり、一軍のピッチャーはもちろんのこと、首脳陣からも認めてもらえたのではないかと考えているのです。
また、20年限りで引退した石原慶幸さんからは、
「打たれようが、抑えようが、一喜一憂せずに常に考えてリードしなさい」
ということを日頃からアドバイスされていたそうです。こうした教えを守っていたことも、彼が信頼される要因の1つとなったことは間違いありません。
一軍で実績を残した先輩ピッチャーたちに、臆することなく普段からいろいろな話をしていることや、先輩の教えを守って試合でリードをしているという話を、坂倉本人から直接聞いたとき、「このまま行けば、広島の正捕手だって夢じゃないぞ」と思いました。
広島には16年から18年までのセ・リーグ3連覇に貢献した曾澤翼選手という、たいへんレベルの高いレギュラーキャッチャーがいます。そのうえ19年に開催された第2回プレミア12では、レギュラー捕手として日本の世界一にも貢献しました。坂倉にとって曾澤選手を超えることは容易ではありません。
けれども彼の野球に真摯に取り組む姿勢を見るにつけ、「一流のプロ野球選手になるには、飽くなき向上心と先輩からのアドバイスを素直に聞き入れる謙虚な心が大事なことなんだな」ということを、教え子である坂倉の姿勢から学んだ気がしています。
21年シーズン以降、坂倉は高い打撃力を買われて、ファーストやサードで起用されることが多くなりました。どこのポジションであれ、これまで以上にスケールの大きな選手になってほしいと期待するばかりです。
Ⓒ双葉社
Ⓒ日本実業出版社
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