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帝京高・前田三夫名誉監督が見抜いた阪神・原口文仁の「捕手適性」

2022 9/9 06:00小山宣宏
帝京高校の前田三夫名誉監督,Ⓒ上野裕二
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Ⓒ上野裕二

代打の切り札として活躍する原口

今年7月に『いいところをどんどん伸ばす』(日本実業出版社)を上梓した帝京の前田三夫氏が、プロで活躍する選手の特徴として、現在阪神で活躍している原口文仁について語っている。

捕手として、投手とより多くのコミュニケーションをとることを心掛けていた

選手を適材適所のポジションで生かすこと。指導者として最も大切にしなければならない考え方です。

野球には投手、捕手、内野手、外野手と9つのポジションに分かれていますが、私は技術だけでなく性格も含めてその選手の適したポジションに配置していました。

現在、阪神で活躍している原口文仁がそうでした。彼は入学当初は内野手だったのですが、その動きからして内野に適正があると思えませんでした。そこで外野を守らせてみたのですがそれも今一つで、肩が強いことを評価して一時は投手もやらせてみたのですが、これもうまくいかなかったのです。

ただし、彼は性格的に真面目で、先輩後輩を問わず、誰からも信頼されていたという長所がありました。そこで私は原口本人と話をして、「捕手をやってみないか」と提案したのです。彼自身、「捕手をやったのは小学生のときだけだった」と言っていました。

そこで「もう一度、一からキャッチャーのイロハを学ぶところから始めたっていいじゃないか」と言ってマスクをかぶらせたのです。

すると肩がそこそこよく、「これはハマったかもしれないな」と期待させてくれました。それ以上に感心させられたのが、「投手全員とコミュニケーションをとっていること」でした。投手だって人間ですから、自分と合うタイプと合わないタイプは絶対にいるものです。けれども彼は、投手との付き合いを好き嫌いで分けるようなことはしませんでした。それどころか、先輩、後輩とにかかわらず、いろいろなシチュエーションを想定しながら、投手と多くの会話を交わしていたのです。

「ピンチになったときに、一番投げたい球種は何か?」

「相手打者を追い込んだとき、ウイニングショットで使いたい球種は何か?」

「ボールカウントが悪くなったときに、どの球種でストライクを取りにいきたいのか?」

こうしたことを聞いて、それを自分が捕手を務めたときの参考にしていたのです。これまでも帝京にはいろいろなタイプの捕手がいましたが、原口のように投手にどん欲に質問をぶつけるようなタイプはこれまでいなかったように記憶しています。

原口のこの点は、打撃で思い切り生かされました。それまでもシュアなスイングをして右に左に長打をかっ飛ばしていたのですが、イニング別、カウント別に投手の心理を読みながら、狙い球を張ることもマスターしていました。結果、外野にいい当たりをポンポン飛ばすのが当たり前のようになっていたのです。

指導者の気質を持ち合わせている原口

原口のこうした姿勢を評価されたのが、彼が3年生の最後の夏の甲子園大会終了後に選ばれた日本代表でのことでした。帝京と同じように、代表に選ばれた投手1人1人のところを回り、全員の特徴をつかもうと常にコミュニケーションをとっていたと、当時の関係者から聞きました。投手たちも原口とバッテリーを組むときには、「自分のことをすべて話して理解してくれているので、安心して投げられるんですよ」と言って信頼を得ていたそうです。

また原口にはこんな面もありました。彼はオフになると帝京のグラウンドに来て、後輩たちの練習を見守ってくれていたこともしばしばあったのですが、走り込みのきつい練習のときには、

「いい走りだ!ここからもっと行けるよ!」

「頑張れ!あと1周だ。ここが踏ん張りどころだぞ」

「まだまだ力を出し惜しみしている!こんなもんじゃないだろう」

などと必ずと言っていいほど後輩たちを励ましていたのです。普通であれば、ただひたすら見ているだけで終わるところなのでしょうが、相手をよく見てハードな練習に褒めながら頑張らせようとしているのです。

私はこの光景を見たとき、「彼は捕手だけではなく、指導者にも向いているんじゃないか」と評価していました。

誰でも彼でも目配り、気配りが利くというわけではありません。原口は、その点については他の誰よりも長けていました。彼は今、阪神では代打の切り札的な起用法が増えていますが、それが可能なのも、投手心理を見抜いたうえでの「読み」が素晴らしいからだと思っています。

原口は19年1月に大腸がんを患っていたことを告白し、多くのファンから励ましを受け、無事復帰しました。私も心配して彼とは電話で話しましたが、「チームが必要としている限り、現役選手にこだわり続けます」と力強い言葉を聞いて安心したのをよく覚えています。これから先もチームの勝利に貢献するプレーをし続け、1日でも長く現役選手でいてくれたらと願うばかりです。

いいところをとことん伸ばす

Ⓒ日本実業出版社


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