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花咲徳栄・岩井隆監督が選手間の温度差に頭を悩ませた末の4校対抗戦

2022 7/27 06:00SPAIA編集部
花咲徳栄の岩井隆監督,Ⓒ双葉社
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Ⓒ双葉社

甲子園が中止になった2020年

コロナで揺れた2020年は春夏共に甲子園大会がなくなってしまった。この年の監督は選手たちをどんな思いで見つめていたのか。また現場の指導者はどんなことを考え、選手たちのモチベーションを上げようとしていたのか。

『コロナに翻弄された甲子園』(双葉社)の著者である小山宣宏氏は、花咲徳栄の岩井隆監督に、当時の揺れ動く選手たちの心理について聞いていた。

寮生と自宅通学生の予期せぬ温度差

2020年、甲子園の交流戦と埼玉県独自の代替大会が決まった直後、チーム内で気持ちのずれが生まれてしまった。コロナで自粛していた間でも寮に残って生活しながら自主練習をしていた選手と、寮からいったん自宅に戻った選手、これまで寮に入らず通学していた選手たちとが、これから始まる大会についての考え方に温度差が生じたのだ。

具体的に言うと、ずっと寮に残って自主練習をしていた寮生たちは「絶対に勝ちに行く」と意気込んでいたものの、自宅に戻った選手と通学していた選手たちは、「勝ち負けにこだわらず、思い出作りの試合ができればいい」と考えていた。一部の選手からは、「もうレギュラーやベンチ入りは諦めたので、将来のことを考えて勉強に専念します」と岩井に言ってくる者も実際にいた。

だが、岩井は「どちらの考え方も正しい」と思っていた。自粛期間中も練習を続けた選手にしてみれば、これまでの練習の成果を披露したいと思うのは当然だろうし、「やるからには勝つ」と闘志を燃やすのは当然だ。

けれども、自粛期間中に満足に練習ができなかった選手にしてみれば、「これから体を作って技術を磨いたって……」「全力プレーなんかしたら、ケガをしてしまう」と弱気になってしまう。こうなってしまうのは当然のことだと考え、岩井は全力で走れない寮生以外の選手に対して叱ることができなかった。同時にコーチに対してはこう言っていた。

「全力で走ることができないからって叱るな。彼らはセンバツにも行けずに無念の思いをしている。今は黙って見守ってあげるしかないんだ」

そう口では言いながらも、岩井の内心は辛く堪えていたが、時間が解決してくれるとは考えず、場合によっては選手たちとこの先もじっくりと話す場を設けるべきかもしれないとも考えていた。

私学4校対抗戦につながった一本の電話

一方ではこんなこともあった。甲子園の交流戦と埼玉独自の代替大会が決まってほどなくして、岩井は浦和学院の森士監督(当時・21年8月に監督退任)から電話をもらった。

「ウチは南部ブロックに入ったので、徳栄さんとは戦うことがなくなってしまいましたね」

岩井はそうですね、と答え、それから15分ほどたわいもない世間話をしていた。ほどなくして聖望学園の岡本幹成監督からも電話をもらい、「ウチと練習試合をやりませんか?」という話だったので岩井はすかさず、「それなら浦学の森さんと春日部共栄の本田(利治監督)さんも交えて、4校でリーグ戦をやるのはどうでしょうか?」と提案すると、聖望学園の岡本監督は即答で快諾した。

その後、4人で集まり、「3年生だけでチームを編成することなどを条件にして、4校総当たりのリーグ戦を6月下旬に開催した。結果は浦和学院、聖望学園には勝ち、春日部共栄には負けとなった。

だが、岩井と3年生たちは、全力を尽くして戦ったことで、試合後には「やり切った」という満足感があった。コロナがない例年であれば、実現しなかった対戦カードだっただけに、「3年生たちにいい思い出となれば」という気持ちが岩井にはあった。

コロナに翻弄された甲子園

Ⓒ双葉社


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