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日大三・小倉全由監督がコロナ禍でハッとした教頭先生の言葉

2022 7/16 06:00SPAIA編集部
日大三・小倉全由監督,Ⓒ双葉社
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Ⓒ双葉社

高校野球監督の現場での苦悩を描いた『コロナに翻弄された甲子園』が発売

スポーツジャーナリストの小山宣宏氏が、7月14日に『コロナに翻弄された甲子園』(双葉社)を上梓した。本書では現場の監督はこの2年間、どんなことを考えて指導にあたっていたのか。また、どういう問題点や課題が浮き彫りとなったのかが詳細に描かれている。

新型コロナウイルスの影響は現在も続いている。思うように対外試合を行うことができず、自分たちの実力も見極めることができないまま、ぶっつけ本番で大会に挑んだ時期もあった。そうした苦難を乗り越えて、「いかに3年間の高校野球を納得させた形で終わらせたのか」はを知ることは、野球はもちろんのこと、野球以外の指導者にも選手を指導していくうえでのヒントになるはずだ。

今回、小山氏が取材したのは、日大三の小倉全由監督、龍谷大平安の原田英彦監督、中京大中京の高橋源一郎監督、花咲徳栄の岩井隆監督、熊本工業の田島圭介監督、明徳義塾の馬淵史郎監督、前橋育英の荒井直樹監督、八戸学院光星の仲井宗基監督の8人である。これらの監督のエピソードについて、8回に分けて連載していく。第1回は日大三の小倉監督である。

一縷の望みを抱くも落選した2021年センバツ

新型コロナウイルスの影響は20年夏だけにとどまらなかった。この年の8月に第2波がやってきた後、11月に入ると第3波がやってくる。この間、秋の東京大会が開催され、三高は決勝まで進出するも、東海大菅生に1対6で敗れ、翌年春に開催されるセンバツは、「東京・関東代表6枠」のなかで関東代表と最後の1枠を巡る争いとなった。

だが、小倉全由監督はこう分析していた。

「試合内容を見たら、ウチが選ばれることはないなと覚悟をしていたんです。ただ、(20年秋の)関東大会はベスト4で千葉の専大松戸が優勝した健大高崎に2対9、東海大甲府が常総学院に0対10と大敗を喫していた。ウチは東海大菅生に決勝で1対6というスコアでしたので、『ひょっとしたら……』という思いもまったくなかったわけではなかったですね」

小倉は関東一、日大三を率いて春は9回(関東一時代は2回、日大三では7回)甲子園に出場しているが、今回初めて候補に挙がりながら落選するという経験をした。

センバツの候補に挙がった年には、これまでは練習用のユニフォームではなく、試合用のユニフォームを選手たちに着させて練習を行っていた。いざセンバツに選ばれたときのマスコミ対応を考えてのことだったと言うが、今回は「センバツ出場はないだろうな」という気持ちのほうが上回っていた。

「東海大相模はベスト8で負けていますし、関東・東京の最後の1枠をどうするのかということでしたが、結局選ばれなかった。選手たちは『ひょっとしたら……』という淡い期待を私以上に抱いていたでしょうから、落選の報を聞いたときは間違いなくショックのほうが上回ったと思います。

けれども私は、『人生はすべて自分たちの思う通りにはいかないもんだ。選ばれなかった悔しさをプラスに変えて、夏を目指して行くんだぞ』と選手たちにそうはっきり明言することができました」

そのためには練習をハードにしていかなくてはならなかったが、同時にチーム全体でコロナ対策も徹底させた。免疫力を高めるために十分な睡眠時間を確保することはもちろんのこと、日頃の行動も見直し、当時の主将の山岡航大(現・桜美林大)からこんな提案があった。

「合宿所で夕飯をとる時間をこれまでよりも30分早くしてもらえれば、室内練習場で打撃練習をする選手と、ウエイトトレーニングをする選手の2班に分けて練習を行うことができます。密になるのがよくないということでしたら、選手を分散させる形でやらせてもらえないでしょうか」

密状態だった室内練習場での素振り

夜の時間帯の練習は室内練習場で行われる。このとき素振りを行う場合には、「インコース低め」「インコースの真ん中」「インコースの高め」「真ん中低め」「ど真ん中」「真ん中高め」「アウトコース低め」「アウトコース真ん中」「アウトコース高め」と9つのポイントを設定して回数を決めて3セット行い、それが終わると歩きながらスイングするという練習も併せて行っていた。

ところが全員で素振りをするとなると、どうしても「密」になってしまう。このことを指摘してくれたのが、教頭先生が練習を見学に来ていたときだった。

「小倉監督、普段の練習のなかで『密』になっている状態はないですか? たとえば室内練習場での練習では問題なく行えていますか?」

小倉はその言葉を聞いて、ハッとした。

「全員集まっての素振りは、普段から行ってきた練習メニューだったので、密になっているかどうかなんて考えもしなかったですね。教頭から指摘されて、『たしかに密になっているよな』ということに気がついたのです。

合宿所や教室などでは、『密にならないようにしなさい』と選手たちには常々伝えていたのですが、これまでいつも通り室内練習場でやっていた素振りですら、『密』の状態を作り出してしまう。この点について考えがいたらなかったことについては、指導者として大いに反省しました」

それだけに山岡からの提案を聞いた小倉は全面的に賛成した。これまでは19時半から20時頃食べることの多かった夕飯だったが、1時間早めて18時半から19時の間には食べられるようにした。これによって2班に分けて効率的かつ「密」にならずによりよい環境で練習ができるようになった。

同時にこのとき、小倉のなかでは次の2つの言葉をタブーとした。

「毎年やってきていることだから問題ない」

「このくらいなら大丈夫」

根拠のない、あいまいな考えを持ち続けていれば、選手だけでなく、野球部に携わる全員がコロナに感染するリスクが高まり、損をしてしまうはずだ。そう考えた小倉は、今までとは違う考えを持って選手の指導にあたるようにした。

コロナに翻弄された甲子園

Ⓒ双葉社


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