「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

義足ジャンパー、マルクス・レームの夢は東京パラで五輪の世界記録

2021 8/27 06:00田村崇仁
マルクス・レーム,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

6月に8メートル62の世界新

東京パラリンピックのスター選手の中で最も注目を集めるのは、陸上男子走り幅跳びのマルクス・レーム(ドイツ)だろう。カーボン製の義足で「ブレード・ジャンパー」と呼ばれ、6月に自身の世界記録を8メートル62に更新。「メダル争いではなく象徴的な意味で出たい」と東京五輪への「特例出場」も要望したが、夢はかなわなかった。

東京パラでは、東京五輪で金メダルを獲得したミルティアディス・テントグル(ギリシャ)の優勝記録8メートル41を超える大ジャンプを視野に入れている。

8月22日に33歳の誕生日を迎えると、開幕前の記者会見でサプライズ演出のケーキと拍手で祝福された。東京は「食事もおいしくて大好きな場所」。3度目の夢舞台へ「常に高みを目指し、8メートル62を超える記録を目指す」とさらなる世界新も目標に掲げた。

事故で脚切断、3連覇の偉業へ

14歳の時に水上競技のウエークボード中の事故で右脚を切断。20歳で陸上を始めると、持ち前の運動神経と跳躍力を生かし、弾力性を備えるカーボン製の義足で走り幅跳びの記録をぐんぐんと伸ばした。

2012年ロンドン大会は7メートル35で初優勝、2016年リオデジャネイロ大会では8メートル21を跳んで2連覇を達成。33歳となった今夏、3連覇の偉業は手の届く場所にある。

最終目標は健常者の8メートル95

過去にはパラの英雄だった両脚義足のオスカー・ピストリウス(南アフリカ)がロンドン五輪の男子400メートルに出場した例もあり、レームは「五輪とパラリンピックの共存」を以前から熱望している。

しかし「公平性」の観点から議論が巻き起こり、レーム側は国際陸連(現世界陸連)から、義足が踏み切りで有利に働いていないという科学的な証明を義務付けられた。今回の東京パラでも出場を求めてスポーツ仲裁裁判所(CAS)まで争ったが、扉は開かれなかった。

レームは東京パラで3連覇以上に記録にもこだわる。

「今季はここまで調子がいい。新型コロナウイルス禍で多くの障害者が逆境に立ち向かい、この瞬間を待っていた。義足であっても、世界最高のジャンパーであることを証明したい」

健常者の世界記録は1991年に東京の旧国立競技場でマイク・パウエル(米国)が出した8メートル95。生まれ変わった国立競技場で、30年前の記録にどこまで迫れるか、世界のファンの目が注がれている。

【関連記事】
苦労乗り越えた中西麻耶は東京パラリンピックで念願の6mジャンパーとなるか
東京パラ出場内定の辻沙絵、中止求める声が高まる中で吐露した胸の内
雪上の女王・村岡桃佳が「二刀流」決断、東京パラリンピックで陸上短距離に挑戦