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苦労乗り越えた中西麻耶は東京パラリンピックで念願の6mジャンパーとなるか

2021 7/24 06:00富田明未
義足の陸上競技選手・中西麻耶,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

アジア記録保持者の中西、金メダル獲得の可能性は?

7月10、11日にユニバー記念競技場で開催された第89回兵庫陸上競技選手権大会で、中西麻耶(阪急交通社)が女子走り幅跳び(T64)に出場し、5m46の記録で優勝した。2位の高桑早生(NTT東日本)の記録は5m05だった。

2020年9月に行われた第31回日本パラ陸上競技選手権大会で5m70を記録し、日本新記録、及びアジア記録をマークした実力者だ。2017年の世界選手権では銅メダル、2019年には金メダルを獲得している。

8月24日から始まる東京パラリンピックに内定しており、2008年の北京パラリンピックから続けて、ロンドンパラリンピック、リオデジャネイロパラリンピックに出場しているので、今回で4大会連続出場となる。東京大会では、世界新記録での金メダル獲得を狙っている。

現在の世界記録は、フランスのパラアスリートのMarie-Amélie Le Fur (マリー=アメリー・ル・フール)が持つ6m14だ。

中西とルフュールの自己記録,ⒸSPAIA


中西が世界記録を更新するには、40cm以上距離を伸ばす必要がある。東京パラリンピックで6m超えの記録を出すために、コロナ禍でも工夫して練習を積み重ねてきた。

現在は日本選手権で優勝経験のある荒川大輔から指導を受けている。荒川は2002年に8m06をマークし、日本人9人目の8mジャンパーとなったアスリートだ。中西は荒川とタッグを組むことで、質の高い練習をこなせていると実感している。

ロンドン大会後に引退を経験している中西の苦労

中西は2008年の北京パラリンピックに出場後、練習の拠点をアメリカのサンディエゴに移し、2009年にプロになることを宣言した。ロサンゼルスオリンピックの三段跳で金メダルを獲得したアル・ジョイナーの指導の下、トレーニングを重ねて実力を伸ばした。

しかし、2012年のロンドンパラリンピックに向けて、様々な困難に直面。世界で戦える実力は十分持ち合わせているのに、資金難により出場が危ぶまれたのだ。

アスリートが使用する競技用義足は100万円以上かかる。さらに、海外遠征やトレーニングにも資金が必要なため、貯金を切り崩して工面していた。借金やアルバイトを3個掛け持ちした経験もある。

さらなる活動資金を得るために、義足姿のセミヌードカレンダーを自費制作した。中西のカレンダーは世間で注目を集め、9000部の販売に成功したが、一部では障がいを売り物にしていると批判の声が上がった。日本における障がい者への理解は決して前向きではなかったためだ。中西は、障がいが個性の一部として捉えられていたアメリカとの反応の違いを強く感じた。

ロンドンパラリンピックに出場を果たすも結果は8位と納得のいくものではなく、カレンダーの一件もあってメンタル面で不調を感じていた中西は大会後に引退を決意。しかし、6mを跳びたいという本人の想いや、周りの励ましもあって2013年春に復帰を果たした。

その後、徐々に実力を取り戻し、遂には世界選手権で金メダルを獲得するまでに成長した。現在は複数のスポンサーから支援を受けている。

パラリンピックから考える多文化社会への道のり

パラリンピックはトップアスリートが出場する世界大会だ。日本パラリンピック委員会の公式ホームページでは、パラリンピックの意義は以下のように明記されている。

“様々な障がいのあるアスリートたちが創意工夫を凝らして限界に挑むパラリンピックは、多様性を認め、誰もが個性や能力を発揮し活躍できる公正な機会が与えられている場です。すなわち、共生社会を具現化するための重要なヒントが詰まっている大会です。また、社会の中にあるバリアを減らしていくことの必要性や、発想の転換が必要であることにも気づかせてくれます。”

障がいの有無、ジェンダー、性的指向、人種、宗教などの属性によって差別を受けることのない多文化共生社会を目指す上で、多種多様な人が活躍できる機会を設けることは重要だ。

最近、トランスジェンダーのローレル・ハバードが、東京オリンピックの重量挙げでニュージーランド代表に選出されたことが話題になっている。ハバードのテストステロン値は国際オリンピック委員会の規定を下回っているにも関わらず、生物学的に優位なのではないかという意見もあった。

世界中からの注目を集めるパラリンピックやオリンピックは、平等性や多文化が尊重された社会を築くにはどうすればいいか、気づきを与え、問題の再定義を行える場だ。東京大会の開催自体についても様々な声が上がっているが、中西らの活躍は社会を見つめ直すための機会として、これからも多くの人に影響を与えていくだろう。

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