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進化したJ1王者・川崎フロンターレの死角は「後半」と「守備」にあり?

2021 3/9 06:00飯島勝也
川崎フロンターレ・小林悠Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

レアンドロ・ダミアン、小林悠のWエースが2発ずつで好発進

川崎フロンターレの勢いが止まらない。盤石の戦いでJ1開幕3連勝を飾り、好スタートを切った。開幕戦は、横浜F・マリノスとの“神奈川ダービー”。現王者と一昨シーズンの前王者との注目カードは、フロンターレが前半2-0で勝負あり。そのまま貫禄勝ちを収めた。

ACL参戦に伴い、前倒しで行われた第11節のセレッソ大阪戦は、セレッソ大久保嘉人の古巣相手の奮闘で、打ち合いの好ゲームに。前半、大久保が2ゴールを決める活躍に沸いたが、王者は慌てない。レアンドロ・ダミアンが2得点1アシストの出色の出来を見せ、3-2の逆転で白星を掴む。

それから中2日、今季初アウェイの第2節ベガルタ仙台戦は、家長・ダミアン・三笘の前線3枚をはじめ、前節より6人の先発メンバーを入れ替えて臨む。それでも前半からゴールラッシュ。小林悠の2得点をはじめ、4ゴールを重ねて折り返す。後半も1点を追加してスコアは5-1。3連勝に大量得点の花を添えた。

走行距離、スプリント回数ともに昨季を大きく上回る

今季これまでと昨季のフロンターレのスタッツを、いろんな角度から比べてみたい。昨季は開幕戦後に約4か月の中断期間があったものの、まず単純に開幕3戦の結果、得失点を見てみよう。

川崎フロンターレ開幕3戦の結果


昨年の開幕3戦は2勝1分、6得点1失点。ホーム開幕のサガン鳥栖戦では、シュート数19-3で圧倒するも、お互いクリーンシートに終わった。唯一の失点は、中断明けの7月4日、第2節の鹿島アントラーズ戦。立ち上がりから相手を圧倒し、2点のリードを広げたが、CKの連係ミスからオウンゴールを喫した。

今季は3連勝、10得点3失点。フロンターレ鬼木達監督が掲げる「1試合3得点」の目標もアベレージでは達成中だ。なお、昨季リーグ戦トータルではJ1最多の88得点を記録、1試合平均は2.588得点。同じく失点は計31点、1試合平均0.911だった。

次にトラッキングデータの比較。フロンターレは意外にも、昨年まで平均走行距離ランキング3年連続最下位だった。昨季1試合平均は110.649㎞。それが今季は暫定J1・7位の119.232kmで、昨季よりも約9㎞も増えている。選手個人を見るとセレッソ戦の田中碧の記録、12.34㎞がチーム内トップだ。

川崎フロンターレのトラッキングデータ


「時速24㎞以上で1秒以上を走った本数」を示すスプリント回数では、昨季の平均は同15位の157回だった。それが今季は暫定4位、201回と44本もアップ。選手個人では左SB旗手怜央が、セレッソ戦でチーム内トップの30回を叩き出す。これらトラッキングデータの上昇は、王者の進化と捉えられる。

「死角」になる可能性を秘めた課題とは?

逆にうがった見方をすれば、トラッキングデータの向上により、攻守のバランスに微妙な歪みが生じている可能性はある。逆転勝ちを収めたセレッソ戦以外の2戦は、結果的に前半に得点を重ね、後半に逃げ切った形になる。

相手が巻き返しを図ったため、後半だけのシュート数は対F・マリノスが4-7、対ベガルタが5-7と負けていた。無論、前半に大差がつき、守備の強度を弱めたのが一因だと言える。だが、チーム内の走量&走力のアップが、後半のペースダウンにつながっているのかもしれない。

また、昨季のアンカー守田英正のサンタ・クララ(ポルトガル)移籍による穴が、完全に埋められたとは言い難い。セレッソ戦の大久保の先制ミドルのシーンでは、後釜のシミッチの寄せが遅れて、余裕をもってシュートを打たれて決められた。

ベガルタ戦では、松本山雅FCから移籍の新戦力・塚川孝輝が、後半途中から交代出場。アンカーを務めたが、失点シーンではボールホルダー上原力也へのプレスが甘く、そこから起点となるミドルパスを通され、DFラインを揺さぶられたのが失点を招いた要因だろう。

さらに粗探しになるが…、セレッソ戦での2失点は、いずれも三笘絡みだったという事実も。1点目は、彼のボールロストが最初のきっかけとなった。2点目は大久保へのアシストを決めた右SB松田陸とのマッチアップで、三笘の球際での厳しさが足りず、ゴールに結びつくクロスを上げられてしまった。

とはいえ、その後、ダブルタッチ&ワンツーの美技で決勝ゴールを奪ったのをはじめ、攻撃で“違い”をつくれる存在だ。彼を「諸刃の剣」と決めつけるのは、いささか軽率な気がする。

まだ3節を終えたばかり。これらを「死角」と呼ぶのは時期尚早だろう。ただし、無敵艦隊フロンターレだろうと、いずれ致命傷になり得る課題を秘めている。

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