2020年に記録的な強さ誇示したフロンターレ
2020シーズンのJ1の主役は川崎フロンターレだった。屈強なライバルたちを次々と撃破し圧倒的な力を見せつけて優勝。12連勝、最多勝ち点、最多得点、最大得失点差など手の付けられない強烈な強さだった。
そんなJリーグ史上最強のチームを作り上げたのが、鬼木達(とおる)監督だ。2017年、フロンターレで初めてトップチームの監督になって以降、チームにいくつものタイトルをもたらしている。彼はなぜチームを勝たせ続けられるのだろうか?
2020シーズンのJ1の主役は川崎フロンターレだった。屈強なライバルたちを次々と撃破し圧倒的な力を見せつけて優勝。12連勝、最多勝ち点、最多得点、最大得失点差など手の付けられない強烈な強さだった。
そんなJリーグ史上最強のチームを作り上げたのが、鬼木達(とおる)監督だ。2017年、フロンターレで初めてトップチームの監督になって以降、チームにいくつものタイトルをもたらしている。彼はなぜチームを勝たせ続けられるのだろうか?
フロンターレと鬼木監督を取り上げるうえで絶対に外せない人物がいる。2012年途中から約5年間フロンターレの監督を務めた風間八宏だ。
彼はフロンターレに革命をもたらした。個人技術とボールポゼッションを極限までに研究し追い求め、試合でボールを保持し続けゴールを多く創り出し、ピッチに立つ選手たちも試合を観る観衆も楽しませる。「プロには見る者を楽しませる義務がある」という信念をクラブに植え付けたのだ。
そんな彼の指導で中村憲剛や小林悠、大島僚太などが次々と覚醒。いずれも日本を代表する選手に成長し、他クラブの選手たちはフロンターレに憧れ「選手に目標とされるクラブ」になった。当時トップチームでコーチをしていた鬼木達は風間の指導とチーム作りに感銘を受けた。
一方で、フロンターレは肝心なところでタイトルを逃し続けた。攻撃サッカーへの強烈な信仰は守備への注意を疎かにさせ、攻め込む中でミスからカウンターを受け失点、守り切られて敗れることが度々あった。
あと一歩のところで勝ちきれない。そんなシーンが続き、フロンターレは新たな刺激を求めた。そして鬼木達に白羽の矢が立った。
中村憲剛は「フロンターレの良いところはそのままに。あとはハードワークや球際というのを鬼木さんは就任時最初に言ってくれた」と語る。
その言葉そのままにチームの守備意識が大きく改善した。風間体制最終年の2016年と鬼木体制初年度2017年とでは、パスポイントやチャンス構築率など攻撃のデータは継続しつつ奪取ポイントやセーブポイントが上昇。失点も39から32に減り、粘り強くポイントを持ち帰れるようになった。
また、90分間支配するという“ロマン”をある意味捨て、相手にボールを持たせて耐えるという選択も取るようになった。つまり風間監督が築いた強みを活かしつつ、より勝ちきるための「仕上げ」を施すことに成功したのだ。
2019年は引き分け数の多さが足を引っ張って4位に終わり、王座奪還を期して迎えた2020シーズンは新布陣4-1-2-3にシフト。アンカーを保険に3トップと2人のインサイドハーフが高度な連携をもって積極的かつ強力なハイプレスを繰り出していた。
鬼木監督自身が「リバプールが好き」と公言するように、プレッシングを最大の強みとするアグレッシブなチームになり、88得点31失点という驚異的な数字を残した。
また、最も注目すべきは2020シーズンの年間を通しての交代策だ。ここに鬼木監督の秀逸なマネジメント能力が現れていた。第1節から34節まで連続して同じスタメンだったのはわずか3試合。チーム得点王の小林悠でさえ34試合中13試合しかスタメン出場していない。
コロナ禍の超過密日程を見越して、他チームが疲弊していく中で、選手の負荷、プレータイムを細かく管理していたように見えた。2019-20シーズンのレアルマドリーのジダン監督のような「管理者=マネージャー型監督」のような秀逸なマネジメントだった。
そして鬼木監督はひたすらハングリーだ。記憶に新しいのは2021年元日の天皇杯決勝、この日を最後に引退する中村憲剛をピッチに送り出さなかったことだ。優勝の瞬間をピッチで味わう引退を決めたバンディエラ。そんなメディア映えする最高の状況を形にするチャンスがあっても鬼木監督は勝利に徹していた。
予感はあった。リーグ優勝を決めたG大阪戦、4-0で勝っていた試合終盤、83分の交代でも鬼木達監督は中村を呼ばない。結果的に3分後、中村は投入されたが、鬼木監督はその理由を試合後の記者会見でこう話した。
「点差がつき、いろんな選手を使いたい。同時に今日のゲーム、あそこまで引っ張り全力でやり続けてくれた選手の姿を見たら、少しでも長い間ピッチに立たせてあげたい。その両方の思いがありました。少しでも良い形で(ピッチから)去る選手も良い形で交代させたかったですし、入る選手も良い状態で入れたかった。その両方の思いがあって、あのような形(時間帯)になりました」
鬼木監督にとってはどんな状況だろうがチームが勝つこと、チームに上積みをもたらすこと、選手を育てること以外にないということだろう。
勝利への飢餓感。これほどまで独走しての優勝を遂げた後だと、やはり燃え尽きの懸念があるが、「全然完成されてない」「内容で圧倒はしていない」と語る。「ACLを本気で狙う」とも話しており、燃え尽きる可能性を感じさせない。
勤勉で、勝つためにマネジメントし、チームの“最大公倍数”を出させて勝つ。日本代表監督に最も必要な素質だ。近い将来、鬼木JAPANが誕生する日もそう遠くはないかもしれない。
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