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【スポーツ×地域】第4回 日本のスタジアムを変えたマツダスタジアムとまちづくり②

2019 2/1 15:00藤本倫史
マツダスタジアム,Ⓒゲッティイメージズ
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マツダスタジアムの好影響

最終回である今回は、前回述べたマツダスタジアムとまちづくりについて、より深く考察していく。

まず、単純に数字として語られるのが経済効果である。地元にある中国電力シンクタンクの発表によると、スタジアム開設した2009年には205億円の経済効果があり、2018年には356億円まで上昇した。この経済効果については、以前にも述べたように様々な切り口があるため鵜呑みにはできない。だが、地元に一定以上のお金が落ちていることは事実だ。

皆さんも広島に来ていただければわかると思うが、カープの試合当日の広島駅は非常に混雑しており、活気に満ちている。街に繰り出せば至る所にカープのロゴ、アパレルショップはもちろん眼鏡屋やカフェまで、店頭にはカープとのコラボ商品が並べてある。これらを見ると、カープと広島には数字だけではない繋がりを感じる。

まちづくりに関しては、広島駅のリニューアルが目を引く。近年は、どの都市でも行われている市の顔ともいえる主要駅のリニューアルだが、遅まきながら広島駅構内も遂行中だ。広島駅南口には大手家電量販店などが入る高層マンションや商業ビルがあり、北口にはバスターミナルが整備。さらに土地区画整理事業「広島二葉の里地区まちづくり」として高層ビルやJRの土地なども売却され、こちらもひと昔前とは違う姿を見せている。

広島市とプロスポーツの関係

今までの日本のまちづくりは、基本的には「立てては壊し、新しいものをつくる」という発想で成り立っていたが、これからのまちづくりにおいては、単純に新しいものをつくればいいという発想だけではいけないと個人的には思う。だが、このマツダスタジアム設立を機に、広島駅周辺の高層マンションは売れ、2016年の地価調査で県最高価格地点となった広島市中区本通り5の9は、前年に比べ15%も上昇している。

また、広島県は2014年から東京都にある認定NPO「ふるさと回帰支援センター」に県職員を常駐させ、移住者の促進を行い、2018年5月には広島市と共同で元カープ選手を招いた「Cターン」フェアも開催した。それが影響しているのか、同センターの移住希望地のアンケート結果によると、東京に近い長野、山梨、静岡がトップ3を占めたが、4位は広島であった。

このようなカープと広島市によってつくられた歴史やスポーツ文化は、他のプロスポーツにも受け継がれているのではないか。

サンフレッチェ広島は、Jリーグ設立当初から参入している「オリジナル10」と呼ばれるクラブのうちの1つだ。しかし、2度のJ2降格なども影響し苦しい経営が続き、2011年には20億円を超える累積債務を抱えることになった。同年、クラブの経営陣は99%減資し債務に充てるとともに、第三者割当増資を行うという経営上、非常に苦しい決断を下した。

その時も地元企業やサポーターが支え、老朽化したエディオンスタジアムから新スタジアムへという機運が高まった。意地を見せたチームは、2012年と2013年にリーグ連覇を果たし、集まった新スタジアム建設署名は約37万人。平和大通りでの優勝パレードは多くの人で賑わった。

再度優勝した2015年には、一気にJリーグの強豪チームに。スタジアム問題を残していた経営も2011年以降は健全経営を行い、賞金獲得やグッズの売り上げを伸ばし、カープに次ぐプロスポーツクラブとして確固たる地位を築いている。

継承されるプロスポーツの文化と歴史

さらに、2013年からは現在のBリーグに所属するプロバスケットボールリーグ、広島ドラゴンフライズも誕生。このクラブも親会社を持たない市民球団だったため、設立当初はスポンサーもあまり付かず、経営が苦しかった。しかし、そこはプロスポーツを受け入れる土壌がある広島。ファンや企業がサポートをし始めた。

その結果、B2リーグにいる現在でもホームの平均観客動員数は2000人を超え、カープから学んだとされるグッズ戦略はB2でナンバー1の売上を誇り、少しずつ市民に浸透していった。

このようにカープが根付いている広島で、プロスポーツは市民の日常コミュニケーションツールとして欠かせない存在になっている。それが全国区になり、地域に好影響を及ぼしている。だからこそ、このような地域が増えてきてほしいと願う。

地域活性化にとってスポーツはツールでしかない。しかし、これから活性化を目指す地域にとって、スポーツ、特にプロスポーツは非常に強い武器となる可能性がある。その理由はこのシリーズで述べてきた通りだ。

微力ながら私もスポーツ産業に対し、研究と教育で貢献し、それによって若い力を育成していきたいと考えている。そして、そのためにこのシリーズが少しでも役立てば幸いである。