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【スポーツ×地域】第2回 地域スポーツイベントの可能性②

2019 1/4 15:00藤本倫史
トライアスロンⒸShutterstock.com
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成果を出すことが難しいスポーツイベント

前回は、中四国のトライアスロンについて述べた。今回は私が研究している広島県福山市のトライアスロン大会を事例にして、地域スポーツイベントの可能性について探りたい。

スポーツ×ツーリズムの章でも述べたが、広島県福山市は人口約47万の中核市である。広島県の中で、人口規模は2番目に大きく、JFEなどの製造業が中心の街である。しかし、プロスポーツのクラブは皆無で、観光資源にも乏しく、市の魅力づくりやPRが現在の大きな課題となっている。

その中で、福山市の経済界を中心した有志が実行委員会を立ち上げ、2016年に開催をしようとしたのが、「福山‐鞆の浦トライアスロン」。一度は関係各所と調整が取れず断念したが、翌年の2017年に満を持して開催された。

コースの特長を見ていくと、日本遺産に登録され福山市一の知名度を誇る「鞆の浦」をはじめとした瀬戸内海の景色や、一級河川である「芦田川」を活かしたつくりになっている。

バイクコースは、鞆の浦を一望できる「グリーンライン」や「スカイライン」の地形を生かした激しいアップダウンがあり、前述した都市型のコース設定を行っている高松市に比べタフなコース設計になっている。

地域の特色を生かしたコースとなっているが、地域特有の課題も抱えている。

鞆の浦は風光明媚な土地として有名で、宮崎駿監督の崖の上のポニョの映画やドラマのロケ地にもなっており、界隈には旅館や飲食施設もある。ただ、道路の狭さや渋滞の問題があり、非常に交通の問題を抱えている。

また、トライアスロン大会も近隣地域で非常に多くの大会が開催されており、他の大会と十分に差別化できていないのが現状である。第1回の参加者定員数は個人の部が500名、リレーの部は30組となっている。しかし、参加人数は、個人の部が191名、リレーの部が22組で、個人の部は定員数を大きく下回っている。

今年の第2回大会は個人参加が274名、リレー参加者は38組人に増えたが、未だ定員を満たしてはいない。

宿泊型のメリット

この問題を解決するためには、利便性に富み日帰りの容易な都市部の大会運営とは異なる発想が必要になる。

資源も大都市でスポンサーを多く獲得できる大会ならいいが、ヒトモノカネも限られている地方の大会運営の中で、愛媛県松山市の「トライアスロン中島大会」は宿泊型として成果を上げている。

この大会は松山市の沖に浮かぶ中島で開催されており、参加条件として、前泊・前夜祭参加を義務づけており、最短でも1泊2日が必要な大会になっている。

更に、宿泊先も旅館、民宿、ホームステイ、公民館等を選択するユニークな方式を採用している。この大会では、島民と参加者がとても身近な存在となり、競技だけでなく島の文化や特産を体験・経験できるのだ。

これは、まさに地域密着宿泊型のスポーツツーリズムプランである。

大会では、小学校5,6年生が参加するジュニアアクアスロンも採用しており、トライアスロンの普及啓発も行っている。その活動効果もあり、島内外から応援見学者が、約1500人も訪れている。

島特有の自然を活かしたコース設計をしつつも、比較的平坦な道を疾走することが多く、初心者でも参加しやすい大会になっている。これも島の住民の全面的なバックアップの賜物である。

この大会は国内だけでなく海外の需要も見込める。海外のツーリストは、ありきたりな観光や買い物だけでなく、特別な体験を通して日本文化に触れ、地域の人々との交流を期待する傾向にある。

この傾向がよくわかるのが、世界最大の旅行サイト「トリップアドバイザー」の日本法人が、観光スポットとは別にアクティビティやツアーに特化した「外国人に人気の日本の体験 ・ツアー2018」ランキングを今年初めて発表した。これはサイト内の口コミが有名な観光地から体験型のツアーやアクティビティへの口コミが増加していることを元に実施された。

ひと昔前にあった爆買いに象徴されるモノ消費からサービスや体験に価値をつける「コト消費(商品やサービスを購入することで得られる、使用価値や体験を重視した消費行動)」に移行してきていることがよくわかる。「トライアスロン中島大会」はそのような傾向をまさに掴んだ運営となっている。

地域の戦略と決断力が必要

このような工夫で、大会に愛着がわき、大会をリピートする参加者も多く、移住する人たちも増えているのは成果だと言えるだろう。

この大会は狙いをはっきりとした運営をしているが、他の地方都市もただ大会を開催するのではなく、市場の傾向を分析し、マーケティングを行い、地域の特色を生かした大会運営をすることが、生き残る術ではないか。特に海外を転戦とする富裕層の外国人観光者は、特別な経験に飢えている。

現在、インバウンドで日本への訪日観光客が増えている。経済効果を伸ばすのであれば、このようなスポーツイベントは特に富裕層が関心の高いスポーツで、地域活性化をしていくのも地方都市の生き残りをかけた1つの手段である。

それには、少しでも長い時間滞在してもらう宿泊型にし、地域の良さをPRし、ヒトモノカネが地域に落ちる仕組みを考えなければならない。それには地域の戦略と決断力が必要ではないかと考える。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。