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【スポーツ×地域】第2回 地域スポーツイベントの可能性①

2018 12/28 15:00藤本倫史
スポーツホスピタリティⒸShutterstock.com
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スポーツホスピタリティの重要性

前回までのアルビレックス新潟の事例の中で、スポーツで地域活性化を行うための1つの道として、多種目多世代型の総合型スポーツクラブで稼ぐことを挙げた。

今回からは2つ目の道としてスポーツツーリズムについて述べていく。

スポーツ×ツーリズム、STH Japan株式会社執行役員・倉田知己氏のインタビューにも出てきたが、試合観戦を行う際に、高価格帯のチケット代を払うことで、特別な空間で、特別なサービスが受けられるスポーツホスピタリティが、欧米のプロスポーツやメガスポーツイベントでは有力な収入源となっている。

これは、日本でもこれから盛んになってくる分野で、すでに来年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピックでも実施が予定されている。国内の新スタジアムを建設しているプロ野球やJリーグのクラブもVIPシートをつくり、導入している事例も出てきている。

この流れからみると、対価に見合ったサービスや空間を提供することで、地方都市のスポーツ球団やスポーツイベントでも収入を増加させる方法は有効であるように思われる。

私は、プロスポーツ球団を持たない都市に住みながら、スポーツ振興やスポーツイベントを研究しているが、その環境下で注目しているのがトライアスロンである。

トライアスロンは地域活性化できるか

日本トライアスロン連合が2015年にまとめた資料によると、2014年に開催された南紀白浜トライアスロン大会参加者の平均自由裁量所得は、1か月あたり56,917円。これは、全国平均の約4万円やマラソン愛好者の約3万円より高い。さらに、参加者の過去1年間のトライアスロン費用は475,632円と高額である。

つまり、比較的、収入が高いと推測される人たちが、トライアスロンを行っていると考えられる。これは海外も同じ傾向にあり、競技人口や競技力を見ると、上位に来るのが、アメリカ、イギリス、オーストラリアの先進国が多く、この3か国は観光消費額も高い傾向にあるのだ。

また、ビジネスとしても海外では収益性の高いスポーツイベントとして、欧米はもちろん、中国の投資グループが大会運営会社を買収するなど、注目を集めている。

ラン、スイム、バイクと3種類の競技を行うトライアスロンは、海、山、川、市街地の街並みなど、地域の特色に合わせてコースを設定できる。大会開催地の魅力をPRする絶好の機会にもなるのだ。

日本では、現在、競技人口が約37万人と言われ、統計を取り始めた1984年から2012年にかけて約700倍の増加。大会数も55倍と急増している。しかし、競技や大会としての知名度はまだまだ低く、認知度向上という点で課題を持っている。

都市型トライアスロンの魅力

ただ、地方都市としては、トライアスロンに可能性を感じており、私が研究を進めている中四国地方のトライアスロン大会ではユニークな取り組みを行っているところもある。

まず、香川県高松市は「サンポート高松トライアスロン」という都市をコースとした大会を開催している。街と海が隣接する立地がトライアスリートと観客の距離を近づけることや、駅、港、バスターミナルが集まる交通の要所にメイン会場を設営しているのだ。

バイクコースでは高松の中枢部・オフィス街を疾走し、ランコースでは瀬戸の港を走り抜けるなど、まちの資源を最大限活用したコース環境を実現。ご当地の讃岐うどんなども食べ放題で参加者のホスピタリティも手厚くなっている。

次に紹介するのは、地元産業PR型の大会を開催する岡山県倉敷市の「倉敷国際トライアスロン大会」。

倉敷市は当初、フルマラソンを計画していたが、交通規制などの問題で断念をし、トライアスロン大会を開催した。倉敷市の児島は繊維業が盛んで、ジーンズの街としても有名だが、ランコースではジーンズストリートがある市街地の景観を楽しむことができる。また、瀬戸内海や瀬戸大橋が見渡せるバイクコースは急こう配だが、非常に美しい景色を見ることができる。前夜祭には地元産業のジーンズや食材をPRして、大会の活性化を図っている。

このような地域の資源を活用した大会事例が少しずつ増えており、トライアスロンの可能性をどこの地域も感じ始めている。

それでは、ビジネスとして見た時、どのような部分が大切になるのか。次回は、私が研究している広島県福山市の事例を見ながら、解説をしたい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。