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【スポーツ×地域】第3回 スポーツ×地域で最も成功している地方都市①

2019 1/11 15:00藤本倫史
マツダスタジアム,Shutterstock.com
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最も成功している地方都市とは?

前回はトライアスロンについて述べた。これからこの連載の締めくくりをしていきたい。これまで、スポーツビジネスの発展には地域活性化がとても重要だと述べてきた。これは1993年のJリーグ創設からの流れを見たら、よく理解できる。

日本のスポーツビジネスを底上げするためには、大都市圏だけでなく地方都市の頑張りが必要である。

地域活性化をどのように定義するのか、どのような指標でプロスポーツクラブと地域の関係性を読むのかは難しい。ただ、私は研究の中で、プロスポーツと地域の関係構築に関わる重要な指標として、時間があるのではないかと考える。

ヨーロッパもアメリカもそうだが、スポーツ文化が根付くのには、一定の時間が必要である。球団が倒産しないために経営努力も必要であるし、行政のバックアップ、何よりファンやサポーターの支援がないとプロスポーツクラブは維持できない。

日本には国内を代表する企業がバックアップし、スポーツビジネスの事例としてよく挙げられる福岡ソフトバンクホークスと福岡市、東北楽天ゴールデンイーグルスやベガルタ仙台がある仙台市、北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌が本拠地を置く札幌市などがある。

そんな中、現在プロスポーツを活用して最も経済効果や社会効果を上げ、地域活性化を行っている都市は、広島東洋カープとサンフレッチェ広島が本拠地を置く広島市だ。広島市の場合は長くプロスポーツと都市が関係を築いており、長い年月を経て独自のスポーツ文化が形成されている。その文化がプロスポーツ自身にも影響を与え、相乗効果で地域を活性化しているのではないか。

札幌、仙台、広島、福岡とプロスポーツ

まず、歴史から見ると、プロ野球が2リーグ制になった1950年から現在まで、3大都市圏以外でプロスポーツクラブが本拠地を置いている都市は広島市しかない。

福岡市は1978年、西鉄ライオンズが経営難で福岡から出ていき、ダイエーが1988年に球団を創設するまで約10年の空白期間があった。また、仙台も1974年から77年までロッテオリオンズが本拠地の1つとして使用していたが撤退。その後、Jリーグのクラブはベガルタ仙台が1999年にJ2へ参入し、プロ野球は2005年から東北楽天が設立されるまで、仙台市に本拠地を置く球団が無かった。

同じく、札幌市も1998年にJリーグへ参入したコンサドーレ札幌、プロ野球は東京から2004年に移転した北海道日本ハムファイターズより以前は皆無であった。その他の比較的人口規模が大きい都市も1990年代後半からの歴史しかない。

それと比較すると、1950年から球団を持っている広島市、特に広島東洋カープとの関係は非常に深く特長的である。

会社を継続することは非常に難しい。起業して10年以上生存する会社は1割にも満たないと言われている。また、特殊なビジネス環境であるプロスポーツクラブはJリーグが誕生するまで、親会社ありきのビジネスモデルであった。カープの場合は独立採算制で、しかも地方都市の市場であると考えると、都市圏と比べて非常に厳しい経営環境だったのは考えなくてもわかる。

70年続く広島東洋カープと広島市の関係

カープは独自の経営戦略を用いて、約70年継続している。だからこそ、一過性ではないスポーツ×地域の成果を上げている都市であり、クラブではないかと考える。地元の中国電力は、今年のカープのセ・リーグ優勝や日本シリーズ進出などによる広島県での経済効果が、356億円と発表している。

これを福岡県と比べると、福岡県庁が出した試算では313億円。試算の方法に違いがあるとはいえ、人口規模などを考えると、カープがどれだけ驚異的な数字を出しているかがよく分かる。

また、優勝したという単年度的なものだけではなく、2009年のマツダスタジアム開設以来、200億円以上の経済効果を出し続けている。これらの要因に関しては、次回以降で述べる。

発足からのカープの経営は決して盤石のものではなく、球団の経営史で多くの転換点があった。次回はその中でも大きな転換点、1951年の球団発足2年目での経営難、2004年の球界再編問題と旧広島市民球場の老朽化問題について触れていきたい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。