課題がある中で、2019年にラグビーワールドカップ、2020年には東京オリンピックが開催されます。スポーツツーリズムの視点からどのように日本は行動するべきだと思いますか?
前回とも重なりますが、招致した大会やプログラムのレガシーやノウハウが残らないところに問題があると思います。日本は実行委員会形式で、解散したら行政やボランティア団体の継続があまりなく、せっかくの開催効果が薄れてしまいます。長期的な視点から物事を見て開催することも必要ですし、税金なども投入するわけじゃないですか。
例えば、ニュージーランドのワイカト市では、行政関係者がラグビーなどのスポーツコンテンツを活かし、どうツーリストに滞在させるかを考え、民間と連携しプランを考えています。
そのようなことを考えるための良いキッカケが、この2大イベントだと考えています。イベント運営面のノウハウを蓄積することは勿論ですが、私が重要だと考えるのは、海外から来訪する多くの旅行者に対しどういう受け入れ体制を作るか、ということです。
特にインバウンドスポーツツーリストに対してこのイベントを日本のショーケースとして活用する認識を持つべきです。当然、訪日客は印象が良ければまた来てくれますし、悪ければ来てくれません。だからこそ、いいイメージを創るためにはどうすべきかを考えないといけないと思います。
そのキーワードはホスピタリティだと思います。どんな人だって気持ち良いサービスを受けたいですよね。その価値を高めたいです。
その中で、倉田さんは現在、ラグビーワールドカップの高額商品であるスポーツホスピタリティという商品を販売されています。反応はどうでしょうか?
非常に良い反応を頂いています。最も高額な商品はすでに完売しており、キャンセル待ちになっています。欧米では、スポーツホスピタリティはどこも商品化しており、個室などで上質な食事の提供等のサービスを受け、観戦をするスタイルです。
需要は欧米の企業が中心と考えていましたが、実際のところ日本の企業から多くの申し込みを頂いていて、国内でもしっかり需要があることがわかりました。恐らく日本の企業のキーマンも欧米で商談や接待をうけたときに、スポーツホスピタリティで非常にいい体験をされているのだと思います。
日本でもそのような体験を少しずつ広めていくことで、様々な観戦スタイルを提供していきたいと思っています。そして、スポーツツーリズムを拡大させる要素として、富裕層をどう取り込めるかがキーポイントになってくると思います。
私も地方都市に住んでいますが、地方都市にもスポーツツーリズムで活性化するチャンスはあるのでしょうか?
可能性はあると思います。ただ、地域一体となって本気で取り組む体制を作れるかが鍵になってきます。行政、経済界、学術界などが知恵を出し合う。そうした上で、ツーリスト特に外国人観光客に対して、ハードとソフトの整備を行う、そのような土台があり、そして地域の特性を活かして、どのようなプランを作っていくか。
日本では、英語の標識や案内が足りないですし、お金を払うにしてもクレジットカードで払える環境も少ない。特に地方都市はそれが顕著です。もし、スポーツツーリズムに本気で取り組むのであれば、前述のように仕組みを整えることによって可能性はあると思いますし、これから成長していくと思います。
だからこそ、ただ単なる観光政策の一つとして捉えるのではなく、シティプロモーションやシティPRもさることながら、経済施策や市民サービスの一環として本気で取り組む姿勢が必要だと思います。

《プロフィール》倉田 知己(くらた・ともき) 1984年日本交通公社(現JTB)入社。現職は英国のスポーツホスピタリティ専門会社であるSTHグループとJTBが共同出資したSTHジャパンの執行役員。20年近くにわたり大型国際スポーツイベント中心にスポーツツーリズムに関わってきた。共著本「プロスポーツビジネスー私たちの成功事例」(東邦出版)等。
《インタビュアープロフィール》藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。