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【スポーツ×メディア】第4回 プロ野球×メディアの改革案①

2018 8/31 15:00藤本倫史
プロ野球×メディアの改革案,ⒸShutterstock.com
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魅力がない?プロ野球中継

今回はメジャーリーグを事例に、プロ野球と放映権について考えていきたい。前回のインタビューにもあったように、現在のプロ野球中継は放送局にとって取り扱いにくいコンテンツになっている。厳しいが、「魅力がない」と言われているのと同じだ。

多額の放映権料と制作費が掛かるが、リターンがない=視聴率が取れないからというのが理由と言える。しかし、プロ野球自体に魅力がないのかと問われれば、そういう訳でもない。事実、2017年NPBの公式戦観客動員数は約10年前に比べて500万人多い2513万9463人で、過去最高を更新している。

これは前述したように、パリーグを中心としたスタジアムビジネスと各球団の経営努力が影響しており、今まで「リーグにとってお荷物」と言われてきたパリーグの球団、そして広島東洋カープや横浜DeNAベイスターズなども売り上げを伸ばしている。だが依然として、メジャーリーグとは約4倍の収入格差がある。

この差の要因はリーグビジネスをしているかしていないかの違いであり、特に放映権料の部分が大きい。

メジャーリーグの増益を支える子会社

メジャーリーグの場合、全国放送はリーグ収入、地方放送はチーム収入というように放映権料を分けている。そして、リーグはこの放映権料を重要な収入源と考え、それぞれの時代と役割で小会社化し、有機的なつながりを持たせることでリーグ経営の重要な部分を担わせている。

まず、MLBはMLBプロパディーズを発足。そして、この会社で全国放送の放映権料管理や交渉を行い、他にもワールドシリーズやオールスターゲームの興業、国内のリーグスポンサーも管理している。MLBも日本シリーズやオールスターゲームの興業は行っているが、ここまで多岐に渡る収入源の口はない。(この会社は各チームの共同出資で、1966年に設立された)

2012年に、4つの放送局と8年120億ドルの契約を推進したのがこの会社だ。契約料はほぼ各球団に分配されるため、単純計算で約5000万ドルが各チームの収入となる。これもリーグとして交渉する強みであり、プロスポーツの価値をしっかりと伝え、魅力的なコンテンツだと思われているからこそ、このような収入が得られる。

その後、衛星放送の環境が少しずつ整備されていた1980年代後半にMLBインターナショナルが設立される。この会社は海外の放映権料やスポンサーを取り仕切る組織で、現在では、日本、中国、ロンドン、メキシコに支社がある。

野茂英雄が渡米した1995年シーズンから、私たちはよく放送を見るようになる。野茂のパフォーマンスが驚異的だった当時、日本にメジャーリーグブームを仕掛けたのがこの会社である。放送技術はもちろん、スタジアム中継で日本企業のバーチャル広告を映すことができるようにし、スポンサーを多く獲得している。

これまでは日本や中南米がお得意さまだったが、今後は中国やヨーロッパに進出を図っており、この海外展開も注目したい。

ストーリーがあるメジャーリーグの改革

そして、2000年に設立したのが私のコラムでよく登場するMLBアドバンスドメディアである。この会社については前章等でも述べているため詳しくは書かないが、インターネットで動画配信やオンラインチケット販売などで500億円以上の売上を上げるようになった。

最後に、2009年に設立されたMLBネットワークである。この会社は、MLBの専門チャンネルを運営するケーブテレビ局である。ヤンキースやレッドソックスも放送局を持っているが、MLBも自分たちで、放送局を設立した。これは新たな市場開拓だ。

CMなどの新規スポンサー獲得はもちろん、放送局任せであった情報発信も自分たちで行うことができるため、ビジネス的にうま味がある。その反面、今まで掛からなかった番組制作費など、コストが大きくなるというリスクもある。だが、メジャーリーグでも野球中継は低視聴率にあえぎ、一時期はメディアから見放されていた時代があった事を踏まえれば、儲かっている今だからこそ新たな投資も必要と言える。

また、「ライブで見る」ことのメディア価値の高さから青田買いをし、多額の放映権料を支払ってくれた全国の放送局だが、将来的にその効果がないとわかると撤退し、その収入源が無くなるかもしれない。その時はどうするのか?をリーグは長期的な視点で考えている。自らが魅力的なコンテンツを形成していくため、放送局を開設し、しっかりと情報を発信する。だからこそ、メジャーリーグの収入は右肩上がりになっている。

それらを踏まえて、次回、プロ野球への提案を行う。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。