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【阪神大賞典回顧】母系に流れる“晩成の血”騒ぐサンライズアース 着差「1秒以上」は01年ナリタトップロード以来

2025 3/24 11:49勝木淳
2025年阪神大賞典、レース結果,ⒸSPAIA

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池添謙一騎手の経験と知恵

天皇賞(春)の前哨戦である阪神大賞典はサンライズアースが勝ち、重賞初制覇。2着は途中で動いたマコトヴェリーキーが粘り、3着はブローザホーンがハナ差を守りきった。

数々の名馬が出走し、その時々に名勝負を繰り広げてきた伝統の一戦は、ほぼ例外なくスローペースになる。今年も1000mごとに区切ると、1:03.1-1:02.4-57.8という後半1000m勝負になり、中盤まではスローでも終盤は持続力を問う形になった。瞬発力勝負というより、ラスト1000mの持久力戦になるのが阪神芝内回り3000mの特徴であり、残り800m過ぎの下り坂からスパートする京都芝3200mとは少しだけ仕掛けの地点が異なる。

今年は勝ったサンライズアースが先手をとる形で進み、2000m通過は2:05.5。物見をするほど余裕があったようで、かえって難しかったようだ。ダービーは途中で動き4着に残るなど随所に強さをみせながらも、メイショウタバルのハイペースに巻き込まれた日経新春杯などのように気難しさがつきまとう。

ダービーもスローに我慢できなかったからこそのまくりであり、能力と気性のバランスで苦労していた。ハナに行ったのは3000mという距離を意識してというより、相手関係をみて、騎乗馬の気性改善を目論んだものだったのではないか。

池添謙一騎手と阪神大賞典といえば、2012年にオルフェーヴルが逸走から2着まで巻き返した伝説を思い出す。当時は行きたがるオルフェーヴルに対し、先を見据え、我慢させようとした結果の逸走だった。サンライズアースに先手をとらせたのは、池添騎手の経験と知恵といっていい。


ハルーワソングにマンハッタンカフェという晩成の血

この流れに対し勝負を挑んだのが2番手にいたマコトヴェリーキー。残り1000m付近で先に動き、先頭を奪ったことで、ラスト6Fは11.7-11.2-11.5-11.5-11.5-12.1と一気にピッチが上がった。マコトヴェリーキーに先に動かれ、ピッチを上げられたことはサンライズアースにとっても好都合だった。

ダービーも後半1000m勝負になったが、上がり3F33.8はちょっと厳しく、メリハリある末脚勝負だと持ち味を発揮できない。先に動いてもらったことで、極端にラップが上がらない持続力勝負に持ち込めた。ロングスパート型の本馬にとって、上がりが速くならない阪神内回りもピッタリだった。

データがある1986年以降、阪神大賞典で2着に1秒以上差をつけたのは、1995年ナリタブライアン(京都開催時)、2001年ナリタトップロードに続く3頭目。ただし、適性も加味して考えないといけないだろう。

父レイデオロの産駒はこれが重賞初制覇だった。キングカメハメハ系の阪神大賞典勝利は父リオンディーズのテーオーロイヤルに続く2年連続。それも母の父マンハッタンカフェという共通点がある。短距離型も長距離型も送り出すマンハッタンカフェの懐の深さを感じる。

サンライズアースの母シャンドランジュはダート重賞勝ち馬セラフィックコールや阪神JF3着のテリオスララを出し、充実期にある繁殖牝馬だ。兄にはフレールジャック、マーティンボロと重賞勝ち馬もいて、さかのぼれば母の母ハルーワソングにたどり着く。

シャンドランジュの姉であるハルーワスウィートからヴィルシーナ、シュヴァルグラン、ヴィブロスとGⅠ馬を出した名牝系の出身であり、阪神大賞典を勝ち、天皇賞(春)2着2回のシュヴァルグランがいるのも心強い。距離に融通がある一族であり、マンハッタンカフェの血も加わって、晩成の血が騒ぐのはここからだろう。


ブローザホーンの逆襲はここから

2着マコトヴェリーキーは自ら動いてペースアップするという苦しい役回りを引き受けながらも、2着を確保と充実期であることを感じさせた。母マコトブリジャールは6歳で重賞2連勝を達成したタフな牝馬。母も中距離で先行して粘る形を得意としており、乱戦向きだった。

マコトヴェリーキーも重賞では人気薄での激走が目立つ。この先、人気が落ちたときこそ狙いではないか。奇しくも父はオルフェーヴル。父と同じ2着で、父の主戦だった池添謙一騎手が勝ったのは不思議だ。こうした巡りあわせもまた競馬のおもしろさだろう。

3着ブローザホーンは昨秋、大きな着順が続いて心配されたが、今回は持ち前のしぶとい末脚を見せ、復調をアピールした。というのも本馬は上半期【5-1-4-5】に対し、下半期【2-2-1-5】の“上半期ホース”。着外10回のうち半数が10~12月に集中している。冬から春にかけ、調子を上げ、夏に頂点を迎える。ならば、ここから宝塚記念までブローザホーンの逆襲がはじまる。

2025年阪神大賞典、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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