「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【スポーツ×ツーリズム】第2回 STHジャパン倉田氏に聞くスポーツツーリズムの課題と展望①

2018 8/17 15:00藤本倫史
倉田知己,STH Japan,ⒸSPAIA
このエントリーをはてなブックマークに追加

ⒸSPAIA


今回は、「スポーツ×ツーリズム」について、STH Japanで、ラグビーワールドカップ2019™のスポーツホスピタリティを提供する唯一のプロバイダーとして活躍し、現場に立ち続けている倉田氏に、スポーツツーリズムの現状と課題について伺う。

【スポーツ×ツーリズム】第1回 スポーツツーリズムとは?①

まずは、日本のスポーツツーリズムの現状について教えてください。

私はJTBという会社で長年、スポーツツーリズムについて関わってきました。その中で、ツーリズムの価値は大きく2つあり、1つ目は経済的な価値だと思っています。観光分野では、地域の流入人口を増やし、地域経済を刺激することができます。単純ですが、公共交通機関を利用し、旅館に泊まり、観光地を訪れる。この流れによって地域経済が潤います。

そして2つ目は、社会的効果です。流入人口が増えると、地域外の人たちと交流することになります。自分たちが普段暮らしている中では、それまで知られていない情報や文化、人間関係、このようなものに触れ合うことができます。

このようなツーリズムの価値にスポーツを加えていこうという流れが出てきています。旅行者は目的や魅力的なコンテンツがないとその地域に行きません。例えば、素晴らしい景色、おいしいもの、歴史的な建造物、いわゆる見所ですね。

では、見所の無い地域はどうするのか。そのままでいいのかと考えたときに、地域の活性化の1つとして、スポーツの活用が考えられるようになりました。

今までは流入人口が無かったような地域でも、スポーツコンテンツを利用することで、新たな経済的効果や社会的効果を見込めます。その新たなツーリズムの試行錯誤を行っているのが現状ではないでしょうか。

これまでは、スポーツとツーリズム、別々のレジャー産業として捉えられてきました。今、なぜ、スポーツ×ツーリズムが連携するのでしょうか?

シナジー的な発想になってきますね。スポーツツーリストと言われるスポーツを旅の目的とした人たちが10%くらい存在すると言われています。

インバウンドを含めてこの10%が、日本経済全体でこの伸びている観光分野を成長産業にしないと非常に痛い機会損失になってしまいます。

現在、私たちツーリズム関係者がメインターゲットにしているマーケットの国内年齢は50、60代以上になっています。その世代はよく旅行に行き、消費もしてくれていますが、将来的な継続性に課題があります。逆に、若者世代は全体の人数も減っていますし、外出して使う消費時間やお金も減少傾向です。

その中で、10%のスポーツツーリストは大きなターゲットになってきます。また、スポーツツーリストは全体的な傾向として、通常のツーリストより消費金額が大きいと言われています。先日開催されたサッカーワールドカップロシア大会を例にすれば、チケット、航空券、ホテル代だけで直ぐに50、60万円を消費してしまうため、お金に余裕がないと試合観戦ができないのです。そこで、このようなツーリストを呼び、お金を使ってもらい、地域経済を刺激し、スポーツというコンテンツを通じ循環させることによって、少しずつ浸透してきているのではないかと思います。

スポーツツーリズムが少しずつ浸透する中で、課題は見えてきているのでしょうか?

現在、行政機関との連携をどうするのかという課題にぶつかっていると思います。スポーツツーリズムを地域活性化に活用しようと企画すると、スポーツ関係はスポーツ課、観光関係は観光課と市役所でどちらの窓口に行けばいいのかわからない、もしくは手続きが手間になると思われます。

国はスポーツ庁が設立され、とりまとめが行われていますが、地方行政レベルになると行政機関との連携が複雑になってしまいます。そうなると、スポーツツーリズムの企画を行うにしても色々な部分で難しくなり頓挫してしまいます。

現在はスポーツツーリズムを推進する組織として、スポーツコミッションが全国で50団体くらい設立されています。しかし、組織の横の連携が図れないことが大きな課題となっています。

もう1つの問題は調査や検証についてです。海外ではスポーツツーリズムの企画を行うときに、誘客効果や経済効果などを事前に行った上で、実施するかどうかを判断します。ただ日本の場合、イベントや企画を実施することを目的とし「つつがなく終了する事」が成功の定義とされているので、分析や効果の調査・検証が行われず、曖昧になっています。本来、スポーツツーリズムも数値などをしっかりと分析した上で、実施されるべきです。この2つが今後の大きな課題といえるのではないでしょうか。

次回は、このようなスポーツ×ツーリズムの課題を元に、これからの具体的な提案、そして、未来のスポーツツーリズムについて、熱く議論を行う。



倉田知己

《プロフィール》倉田 知己(くらた・ともき) 1984年日本交通公社(現JTB)入社。現職は英国のスポーツホスピタリティ専門会社であるSTHグループとJTBが共同出資したSTHジャパンの執行役員。20年近くにわたり大型国際スポーツイベント中心にスポーツツーリズムに関わってきた。共著本「プロスポーツビジネスー私たちの成功事例」(東邦出版)等。

《インタビュアープロフィール》藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。