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多様性認めるパラリンピックに聴覚障害者が参加できない理由は?

2021 8/28 06:00田村崇仁
東京パラリンピックの開会式,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

視覚障害や知的障害、車いす選手などクラス分け

障害者スポーツの祭典と呼ばれるパラリンピックは、五輪と異なる独自のルールを設けている。

ひと口に障害といっても、視覚障害、知的障害、脳性まひ、低身長、車いす、義足など、その種類や程度はさまざまで一人一人異なる。競技の公平性を保つため、根幹を成す「クラス分け」をパラ参加選手に義務付けているのが大きな特徴だ。

第2次大戦後、英国の退役軍人のリハビリが原点となり、1960年に第1回大会がローマで開かれた。第1回は車いすの障害者が中心だったが、東京大会は新競技のバドミントン、テコンドーを加えた22競技539種目を実施し、日本選手団は全競技に過去最多の254選手が出場。五輪と同じ競技も多いが、目隠しをして競うゴールボール、重度障害者のために欧州で発案されたボッチャなど独自の競技もある。

聴覚障害者は「デフリンピック」

ただパラリンピックには意外にも聴覚障害の選手が参加できる枠はない。聴覚障害者が競う「デフリンピック」と呼ばれる国際大会が別に開催されている。

デフとは「聴覚障害」を意味する英語。国際大会の開催はデフリンピックが最も古く、1924年に国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が設立され、第1回大会がパリで開催された。

夏季と冬季があり、国際オリンピック委員会(IOC)の承認を受け、2001年から現在の名称になった。陸上や競泳ではスタートの合図としてフラッシュランプを使うなど工夫がなされている。運営には国際手話が使われる。日本ではまだ開かれたことがないが、2025年大会を招致する動きがある。

1989年に国際パラリンピック委員会(IPC)が設立された当時は、聴覚障害者の団体も加盟していたが、デフリンピックの「独創性」を追求するために離脱した経緯もある。そのために、パラリンピックにろう者が参加できない状況が続いている

世界人口の15%「We The 15」スタート

パラのクラス分けを見ると、陸上ではトラック種目や跳躍競技を「T」、投てき競技を「F」と分類。障害の種類に応じ、10番台=視覚障害▽20番台=知的障害▽30番台=脳性まひなど▽40番台=運動機能障害、低身長など▽50番台=車いすや投てき台使用▽60番台=下肢切断で義足使用―と分かれ、数字が小さくなるほど障害の程度は重くなる。

東京大会で期待される女子走り幅跳びの中西麻耶(阪急交通社)は競走・跳躍種目のTで、義足を用いる60番台の選手。膝から下の切断のため一の位は4となり「T64」のクラスとなる。

クラス分けは、国際パラリンピック委員会(IPC)の基準に沿って、国際競技連盟や国際障害者団体が規則を定めている。そのうえで、専門知識を持った「クラシファイヤー」と呼ばれる判定員が、選手の筋力や障害の程度、日常生活での動作能力、競技スキルなどを総合的に判断し、クラスを決める。

IPCは東京パラリンピックを契機に、世界人口の15%に当たる約12億人の障害者の人権を守る新たなキャンペーン「We The 15」を開始した。聴覚障害者が競う「デフリンピック」や知的障害者による「スペシャルオリンピックス」、傷病兵らの国際スポーツ大会「インビクタス・ゲームズ」とも協力して活動を展開する。こうした動きが将来的に、多様な世界の障害者を連携させることにつながるかもしれない。

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