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室伏広治氏の活躍に見るアスリートが「セカンドキャリア」で成功する秘訣

2021 6/8 06:00近藤広貴
室伏広治氏Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

困難を極めるトップアスリートの「引退後」

トップアスリートは様々なメディアで取り上げられ注目を集めるなど、多くの脚光を浴びながら現役生活を送る。その反面、現役時代の眩い活躍の反動のためか、引退後のセカンドキャリアで躓く者も少なくない。

日本全国の10代〜60代男女1755人を対象に行なったWEB調査では、スポーツ選手は引退後「犯罪者になりやすいと思う」と答えた人が5人に1人の割合でいたことを報告している。確かにニュースを見ていると、名の知れたアスリートの問題行動を見かけることがしばしばある。

また、現役時代に年収1億円以上を稼ぐ有名アスリートであったとしても引退後に破産する例もある。NBA選手協会によると、NBAバスケットボール選手の約6割が現役を退いた後5年以内に自己破産することを報告している。

多くのトップアスリートは引退後の社会人生活に馴染めず、セカンドキャリアで大なり小なり躓きを経験しているのだ。

このような背景には、現役時代にスポーツパフォーマンスに頼った生活でその他のスキルを身に付けてこなかったこと、激しい競争の中で次のキャリアについて考えなかったこと、アスリートとしてのプライドが邪魔をしてうまく社会に適応できないことなどが根底にある。

これらのことは、プロアスリートのみならず実業団アスリートや学生アスリートにも同じことが言えるだろう。引退後のセカンドキャリアで躓くアスリートとそうでないアスリートの違いはどこにあるのだろうか。

現役時代から人生設計を考えて大学院で学んだ室伏広治氏

現スポーツ庁長官の室伏広治氏は現役時代に2004年アテネオリンピック男子ハンマー投げ金メダルをはじめ、数々の国際大会でメダルを獲得してきた。

競技引退後には中京大学大学院にて体育学の博士号を取得し、中京大学スポーツ科学部の准教授を務め、現在は東京医科歯科大学の教授を務めながらスポーツ庁長官としてスポーツ行政にも携わっている。

室伏広治氏がここまで様々な分野で活躍できる要因のひとつとして、父・重信氏の「ケガをしたり引退した後のことも見通して競技とは別の道を考えておくべき」という言葉があるという。重信氏はスポーツだけではなく、人生設計を考える重要性を幾度となく説いてきた。

この言葉を胸に現役時代から父の姿を追って大学院へ進学し、大学教員になるためにアスリートとしてのキャリアと並行して次のキャリアも同時に追い求めてきた。

このように、アスリートとしてのキャリアと同時に引退後のキャリアを考えた行動をすることを「デュアルキャリア」と呼ぶ。競技引退後にスポーツ以外のキャリアを考えるのではなく、競技と並行したキャリア選びが引退後の道を切り開く鍵となるのだ。

「デュアルキャリア」がアスリートの次のキャリアを輝かせる

NPBがプロ野球選手を対象に行ったセカンドキャリアに関するアンケートでは、現役選手のおよそ7割は引退後の生活に不安を抱えながら生活を送っているとされる。

だからこそ、競技のみに熱中するのではなく、室伏広治氏のように競技生活と並行した次のキャリアへの取り組みである「デュアルキャリア」が大切になる。

また、日本スポーツ振興センターが実施したアスリートの「デュアルキャリアに関する調査研究」では、アスリートのデュアルキャリアの過程において、指導者や保護者など周りの人々のサポートもアスリートの次のキャリア形成に大きな影響を及ぼすことが実証されており、適切なタイミングでの周りの人々の支援提供も重要となる。

アスリートは、激しい競争を勝ち抜いてきた高い「競争力」を持ち合わせる。スポーツで培ってきたこの力は、間違いなく次のキャリアで活躍していくための肥やしとなる。

東京オリンピックを迎える日本では、オリンピック終了後に多くのトップアスリートが現役を退き、他分野での活躍を強いられる。スポーツで培った底力を多くの分野で発揮し、社会を輝かせていってほしいものだ。

《ライタープロフィール》
近藤広貴
高校時代にボクシングを始め、全国高校総体3位、東農大時代に全日本選手権3位などの成績を残す。競技引退後は早稲田大学大学院にてスポーツ科学を学ぶ。現在は母校の教員としてボクシング部の指導やスポーツに関する研究を行う傍ら、執筆活動を行っている。

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