エラーが許されないトライアルとは
トライアルレースとは、結果次第でクラシックの優先出走権が与えられるもの。言い換えれば、結果を出さないとクラシックには出られない。まして今年のスプリングSで、皐月賞出走に必要な賞金が足りているのはソリタリオぐらい。どの馬も、結果を出さなければ次はない。では結果を出すためにどんな戦略が必要なのか。送り出す陣営、騎乗する騎手の思惑はそれぞれにあり、その交錯こそが結果に影響を与えたのではないか。
本番を見すえての競馬、いわゆる“試走”は皐月賞出走を確定させていない以上、ここにはない。チューリップ賞のサークルオブライフ、弥生賞ディープインパクト記念のドウデュースとこの春は珍しく、2歳チャンピオンが試走する場面が目立った。みんな本番を想定した競馬だった。
スプリングSも前日の若葉Sも岩田康誠騎手が逃げ切り勝ち。ベテランが馬の力、個性を最大限に活かすことを軸に競馬を組み立てた結果だった。シンプルでありながら、信念を感じる競馬はもっと評価されていい。レース後の受け答えが物議を醸し、それが色あせるのは忍びない。損なことをしなくてもと思うが、きっと本人には損だの得だのはない。
話を「トライアルとは」に戻す。結果を出さなければいけない以上、目標にされる立場は嫌いたい。馬に任せて制御が難しくなる状況は避けたい。プレッシャーがかかる場面で、人がリスクを回避するのはある意味自然なこと。リスクを遠ざけて最善を探るのはひとつの人生訓でもある。一方で、リスクをとって勝利に近づくという攻めの姿勢も最善策だ。さて、どちらがいいのか。それは結果が出ないとわからない。だから、きっと人はみんな悩みの中にいる。
トライアルだからこそ動けない後続
スプリングSはビーアストニッシドが最内から一気に逃げ、そのまま押し切った。ゲートで躓きながらも、素早く立て直してハナを主張すると、どの馬も追いかけない。行きたいビーアストニッシド、行きたくないみんな。対照的なスタンド前の攻防。唯一追いかけたのはこれまでさほど積極的な競馬をしなかったアライバル。外枠からわざわざ番手を狙いに行く、ルメール騎手は逃げ馬優位の展開をお見通しだった。
隊列が決まりさえすれば、ビーアストニッシドを御す岩田康誠騎手はペースをコントロールするだけ。マイルのシンザン記念で控え、馬と事を構えた教訓があったから、ビーアストニッシドにとって先頭でマイペースがベストと導き出したにちがいない。目標にされるリスクをとってもベストを貫いた。
アライバルより後ろにいる騎手たちは、きっとこのままだと…とよぎったにちがいない。だが、トライアルで隊列が決まってしまえば、動けない。結果を出さねばならないからこそ、そこから動くのはリスクが大きすぎる。動いたことが次につながればという状況ではない。動けよ、と言うのは簡単だ。責任を負わない言葉は虚しいから、胸にしまっておいてほしい。
前半1000m通過1.00.8。400~1400m通過まですべて12秒台前半を並べる淡々とした精緻な逃げは見事な構成。ビーアストニッシドは4コーナーから坂下までの残り400~200m11.3を叩き、勝負を決めた。その前の地点から並べると、12.3-12.0-11.3。中山の鋭いコーナーでこうギアチェンジされては、後ろはどうにもできない。この時点で、ビーアストニッシドを負かす可能性は番手でマークしていたアライバルにしかない。その猛追をハナ差しのぎ、皐月賞の優先出走権にとどまらず、日本ダービーに出走できる賞金を積んだことは大きい。岩田康誠騎手はビーアストニッシドにとってベストな騎乗で最高の結果を手に入れた。
今年も共同通信杯がポイントか
アメリカンペイトリオット産駒はJRA重賞初勝利。この世代新種牡馬のJRA重賞Vはドレフォン、シルバーステート、キタサンブラック、イスラボニータに次ぐ5頭目。勢いがある。米国芝マイルGⅠを勝ったアメリカンペイトリオットの産駒は13日まで芝8勝、ダート6勝。ビーアストニッシドのクラシック出走で芝適性をさらにアピールしたい。今年も共同通信杯好走馬がスプリングSを勝利。昨年のように共同通信杯がクラシック路線のキーレースになる気配がある。ダノンベルーガの評価もあげたい。
権利をとるべく番手をとったアライバルは、この競馬が今後どう影響するか注視したい。3着サトノヘリオスは唯一中団から差し込んできた。とはいえ、2着アライバルとは1馬身1/4差。1、2着争いには加われておらず、権利をとるという最低限の課題をクリアできたという印象。皐月賞では強調しづらい。アサヒは今回もゲートが改善せず11着。流れに乗れなくても見せ場はあったここ2戦より、明らかにパフォーマンスを落とした。無理せず仕切り直しが必要ではないか。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
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