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オリックス能見篤史43歳、投手としてコーチとして「変えるもの」と「変わらないもの」

2022 6/21 11:00大島大介
オリックス能見篤史,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

古巣・阪神戦の今季初登板に万雷の拍手

本拠地・京セラドーム大阪が3万人を超えるファンで埋まった。「お客さんの数が去年とは違って、拍手の多さに、ちょっと鳥肌が立ちましたね」。6月12日の交流戦最終戦となった古巣・阪神との一戦で、オリックスの能見篤史はこれまでと変わらぬ躍動感あふれるフォームでボールを投げ込んだ。

0-6で迎えた八回、今季初登板の機会が巡ってきた。「監督の粋な計らいもあったので、ファームでしっかり投げ込んできました。点差は開いていましたけど、いい緊張感の中で投げられました」。内容は打者4人に対して1四球、無安打。1イニングを無失点に抑えた背番号26に、万雷の拍手が降り注いだ。

鳥取城北高から大阪ガスを経て、自由枠で2005年に阪神へ入団し、1年目から16試合に登板して4勝を挙げた。キレのある直球とフォークボールを武器に、09年には自己最多の13勝をマーク。11年からは3年連続で2桁勝利し、18年には通算100勝も達成。21年から移籍したオリックスでは投手コーチを兼任し、若手の育成にも尽力してきた。

入団当時から1メートル80、74キロの体形キープ

43歳の左腕を慕う若手は多い。自身の自主トレに参加した阪神の2年目・伊藤将司には、こんなアドバイスを送った。「長くやっていると、どうしても変化球に頼ってしまいがちになる。僕自身もそういう傾向があったが、そこに落とし穴があると思う。真っすぐの質がよければいろんなことができる」。後輩への助言で自らも奮い立たせ、プロ18年目のシーズンへ向かう準備を進めた。

2月のキャンプは初日からブルペンに入った。本人は「例年と同じ」とけろっとした表情だったが、連日投げ込む姿は若手に大きな刺激を与えた。「真っすぐを投げるのが一番しんどい。でも、あえてしんどいことをやろうというのは毎年思ってやっている。それは早い時期にしかできないので、意図を持ってやっています」と、球数が100球を超えることもあった。

身長1メートル80、体重74キロの体形は「入団当時からほとんど変わっていない」というから驚きだ。細身の体をめいっぱい使って投げるスタイルも健在だが、二足のわらじを履く日々に戸惑うことも少なくないという。

「何げない会話の中で発信する選手たちの悩みや不安を除くことでパフォーマンスが劇的に上がることはある。能力が高い投手が多いので、もうワンランク上の投手になれるよう、サポートしていきたい」と話す。

中継ぎ左腕不足で常に臨戦態勢

好調なオリックス投手陣の中で、不安視されるのは中継ぎの左投手不足だ。昨季チーム最多の51試合に登板した25歳の富山凌雅はコロナの後遺症に苦しみ、投げたのは8試合で防御率も11点台と本調子には程遠い。

43試合に登板した30歳の山田修義も、同じく8試合と、なかなかエンジンがかからない。セットアッパーとしての期待がかかる新外国人のビドルは突然制御不能になるケースも目立ち、安定感を欠く。

能見は「何かチームが困った時に、『ちゃんと投げられます』と言えるよう準備をしておくことが大事」。登板間隔が開けば、自ら打撃投手を買って出るなど努力は怠らない。

「あまり体のことを気にしすぎると投げられなくなるので、ある程度、(筋肉は)張るものだと思って年々過ごしている。あとは、どう対応していくかだけなので、そこは鈍感というか、張って当たり前、動かなくて当たり前と頭の中で整理している」。今の自分を素直に受け入れ、その中で何かできるのかを常に考えてきたからこそ、大きな故障なく、プロの第一線で活躍して来られたのだろう。

キャンプで聞いた言葉が、よみがえる。「中嶋監督を日本一にするのが一番だが、その中で足元を見失わないよう一つ一つの積み重ねを大事にしながら、みんなをサポートしていって、いい結果につながるよう頑張りたい」

今季の登板はまだ1試合だが、献身的にチームを支えるベテラン左腕の思いは、ユニホームを脱ぐその日まで、変わることはない。

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