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オリックス山本由伸が筋トレせず「やり投げ」を取り入れる理由

2022 4/1 06:00大島大介
オリックスの山本由伸,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

タイトル総なめでも満足感なし「去年の自分を超える」

今年1月下旬。30万人を超えるフォロワーを持つ自身のインスタグラムにアップした動画が、バズった。球速155キロと書かれた数字の奧から、「シュイーン」という音とともに迫ってくるボールが、小気味良い音を立ててキャッチャーミットに収まる。

「花火の打ち上げ音や」「ずっと見ていられる」「1月でこのスピードはえぐい」「今年も最多勝間違いないと確信しました」「早くメジャーに行ってください」。多くのコメントが寄せられたのは、西武と行われた2022年シーズンの開幕戦に2年連続で先発し、8回無失点の好投でチームに白星をもたらしたオリックスのエース・山本由伸だ。

昨季は自己最多の18勝(5敗)を挙げた。最優秀防御率(1.39)や最多奪三振(206)、最高勝率(7割8分3厘)など投手主要部門のタイトルを総なめにし、最優秀選手賞(MVP)を受賞。その年、最も活躍した先発投手に贈られる沢村賞にも選ばれた右腕は、順調に新しいシーズンへの準備を進めてきたようだ。

西武は、入団5年目で初めて開幕投手を務めた昨年の対戦相手。球場は西武の本拠地・ベルーナドームで、投げ合ったのも同じ高橋光成。試合後のヒーローインタビューで、山本由伸は充実感をにじませながら言った。

「去年は最後、日本シリーズでとても悔しい思いをしたので、今年も日本シリーズに行ってリベンジできるように、リーグ優勝目指してしっかり投げていきます」。昨年は侍ジャパンのメンバーとして東京五輪で活躍し、37年ぶりの金メダルに貢献。ペナントレースでは2年連続最下位だったオリックスを25年ぶりのリーグ優勝に導いた。

地道に積み重ねてきた練習の成果が大きく花開いたが、「去年の自分を超える」と満足する様子はみじんも感じられない。

常識を疑い、固定観念にとらわれない思考法

山本由伸は常識を疑う。野球界では当たり前とされてきた筋力トレーニングを取り入れていないのも、その一つだろう。

関係者は言う。「彼は体のあらゆるパーツを駆使して、投げるという動作を完結させている。思うように体を動かすには、どの部位をどのように鍛えればいいのかを理解し、そのために必要だと思うことを練習に取り入れている。でなければ、投手としてはそれほど恵まれているとは言えない体格(1㍍78、80㌔)で、あれだけの球を投げられるはずがない」

練習方法も固定観念にとらわれない。やり投げに似た競技「ジャベリックスロー」の技術を取り入れた独自のトレーニングも、プロ野球界では、これまで誰もやってこなかった練習法だ。

「ターボジャブ」という短いやりに羽根がついたような道具を投げる。肩や腕だけに頼らず、体全体の連動を意識しないと真すぐ遠くには飛ばないという。全てはピッチングに必要だと考える動きを体に染み込ませるためなのだろう。巨人の次世代エースとして期待される戸郷翔征も取り入れた。

目指すゴールはどこに?

最速158㌔の直球は、常時150㌔を超える。フォークボールは140㌔台後半のスピードを保ったまま打者の膝元付近から急激に沈む。これに150㌔超のカットボールと、他の投手と比べて10㌔以上速い120㌔台後半のブレーキ鋭いカーブが加わる。

どの球種も一級品だが、球界を代表するスラッガーたちをねじ伏せられるのは、どのボールも自在に操れる抜群のコントロールがあればこそだ。

ファンを魅了する山本由伸のピッチングは洗練され、性能を上げていく車に似ている。開発者が「こういう車をつくりたい」という思いを形にするため、そのプロセスを改善し続けながら進むからこそ、ユーザーが求める車に近づいていける。

「やりたいことが、まだたくさんある」と言ってはばからない山本由伸が、どこにゴールを設定しているのはわからない。オフの契約更改では、米大リーグ挑戦の意思を球団側に伝えたが、理想の投手像へ近づくための努力を重ね続けていることだけは疑う余地がない。

今季の開幕戦で昨年5月から続くレギュラーシーズンの連勝記録を16に伸ばし、10まで伸びていた開幕戦の不名誉なパ・リーグ記録も止めた山本由伸。8月で24歳になる歳男は同世代のトップランナーとしてファンに夢を与え続けるため、今年もその剛腕を力強く振り続ける。

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