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外野手の見せ場、補殺数ランキング 強肩イチローが上位に食い込まないわけ

2022 1/28 11:00広尾晃
イチロー,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

外野守備の魅力の一つ「補殺」

外野守備の魅力の一つに「補殺」がある。補殺は英語ではAssist、つまり打者や走者を直接アウトにするのではなく、他の野手に送球して間接的にアウトにすることを言う。

外野手の「補殺」は、ほとんどが外野から内野に送球して次の塁を狙う走者を刺すケースだ。イチローの「レーザービーム」に代表されるように、「強肩外野手」の技の見せどころである。

そんな補殺数のシーズン記録はどれくらいなのだろうか。以下の表に、歴代シーズン補殺数の上位12人をまとめた。

NPBシーズン補殺数12傑,ⒸNPBシーズン補殺数12傑


1位の平山菊二は、戦前から戦後にかけて巨人、大洋で活躍。「塀際の魔術師」と言われアクロバティックな守備で有名だったが、頭を越すような打球はグラブを放り投げて追いかけたと言われ、そこから送球して補殺をとることもあったという。

この表に2度顔を出している原田徳光は、ポジショニングがうまい外野手で安打性の当たりをよくアウトにした。またライトゴロもよく記録した。

表を見てわかる通り、右翼手、左翼手が上位にきている。走者をアウトにするには深い位置で守ることが多い中堅手よりも右翼手、左翼手の方が有利なのだ。また、補殺ランキングの上位はすべて1989年以前の外野手だ。外野手の守備範囲を示すRF(Range Factor)の記事で紹介した通り、日本プロ野球の「外野守備」の概念は、1990年代以降とそれ以前では大きく変わっている。

従来、日本プロ野球の球場のサイズは両翼90m中堅115m程度だったが、1988年に開場した両翼100m中堅122m東京ドーム以降、球場は大型化した。大型化してもダイヤモンドのサイズや投本間、塁間などは変わらないが、外野の守備範囲は大きく変わった。

球場が大型化して以降、外野手の定位置はそれ以前よりも数メートル後ろになった。塁への距離も長くなったので、補殺数は大きく減少したのだ。

数字に表れない「抑止力」

では、1990年以降の外野手の補殺数ランキングはどうなっているのだろうか。

NPBシーズン補殺数20傑(1990年以降),ⒸNPBシーズン補殺数12傑


1位は2012年の中田翔。前年に左翼のレギュラーを獲得して2年目。大阪桐蔭時代はエースで4番であり、プロ入り時には「打者か投手か」と言われた強肩の持ち主。2012年の19補殺は歴代でも10位タイである。

しかもこの年、中田はNPB新記録となる9併殺を記録している。このまま名外野手として名をはせるかと思われたが、2015年に打撃を活かすため、一塁にコンバートされた。

2位は1997年オリックスの田口壮と2001年ダイエーの柴原洋。田口は入団時は遊撃手。外野手にコンバートされてからも内野手のように俊敏な送球で走者を刺した。柴原は中堅手ながらずば抜けた強肩でリーグトップの17補殺。刺殺数も1位だった。

ところで外野守備の名手と言われたイチローの名前は20傑に1度出てくるだけ。その俊敏さと抜群の強肩からすれば上位にその名が並んでもおかしくないはずだが…。

「イチローの強肩は、外野のレギュラーになったときから際立っていた。あの肩を見たら三塁コーチャーは、一塁を回った走者を自重させる。わざわざアウトになりに行く馬鹿はいない」

パ・リーグ球団で外野守備コーチをしていた大学野球指導者の言葉だ。実は強肩の外野手は、走者を塁でアウトにする「補殺」だけでなく、塁を回った走者を「自重させる」ことでもチームに貢献しているのだ。

このランキング1位の中田翔の補殺数も2012年の「19」から翌2013年は「7」に減っている。前年まではノーマークだったが、翌年から相手チームが左翼手中田翔を警戒するようになったのだ。

イチローも1996年に14補殺を記録した翌年は「8」に減っている。MLBに移籍後、イチローは糸を引くようなノーバウンドの送球を三塁に送り走者をアウトにして「レーザービーム」と騒がれた。だが、2003年(12補殺)、2004年(12補殺)、2005年(10補殺)と二桁補殺を記録したのちは、右翼手としての補殺数は一桁にとどまっている。やはり「イチローが右翼にいて、無理目の打球で二塁、三塁を狙う馬鹿はいない」ということだろう。

外野手の「補殺数」の数字の裏側には目に見えない「抑止力」が働いているということも頭に入れておくべきだ。守備のデータは、一筋縄ではいかない奥深さを持っているのだ。

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