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守備指標「RF」から見えてくる外野守備の変遷と個性 近年では秋山翔吾、岡田幸文らが好成績

2022 1/27 11:00広尾晃
西武時代の秋山翔吾と楽天の岡田幸文コーチ,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

外野手の守備範囲の広さを示す「RF」

野球の守備成績は打撃や投球に比べてデータでの評価が難しい。そもそも守備は「アウトにして当たり前」であり、数字的に大きな優劣の差がないのだ。特に外野守備はその傾向が強い。

外野守備は、基本的に刺殺(主としてフライの捕球)、補殺(主として送球で走者を刺す)と失策、併殺の4つの数字で評価される。守備率=(刺殺数+補殺数)÷(刺殺数+補殺数+失策数)で算出されるが、プロ野球のレベルでは守備率は95%以上が当たり前となり、差がつかない。

守備能力を測る指標としてRF(Range Factor)がある。これは守備機会(刺殺数+補殺数)をその選手の出場イニング数で割り、9倍することで導き出される。1試合(9イニング)当たり、いくつのアウトを取ることに貢献したかの指標だ。NPBの場合、投手以外の出場イニング数を発表していないので、RFは(出場機会÷出場試合数)の簡易型で算出される。

RFの数値が大きい外野手は守備範囲が広く、安打性の打球もアウトにできる優秀な選手だと言える。今回は、シーズンで100試合以上守った外野手のRFのランキングを見ていく。

1990年以降大きく変質した外野守備

NPB外野手のRF10傑(100試合以上),ⒸSPAIA


上表から、今の日本プロ野球が草創期から大きく変質していることが見えてくる。1位の坪内道則は、史上初の1000試合、1000安打を記録した日本プロ野球のレジェンド。殿堂入りしている。

坪内以下、1リーグ時代の選手が並んでいる。この時代のプロ野球は、反発係数が低いボールを使用していたため、ホームランが非常に少なかった。また球場は両翼90m、中堅115m前後と狭かった。狭い球場で飛ばないボールを追いかけていた当時の外野手は、守備機会が非常に多かったのだ。

NPBの球場は1988年に両翼100m、中堅122mの東京ドームが開設してから、次々と大型化した。球場の大きさが変わってもダイヤモンドの大きさは変わらないが、外野手の守備範囲は大きく変わる。1990年以降の野球、特に外野守備は大きく変質したのだ。

1990年以降のRFランキングは下表のようになっている。

NPB外野手のRF10傑(100試合以上・1990年以降),ⒸSPAIA


1リーグ時代は珍しくなかった、RF2.5以上を記録した外野手が6人しかいない。

1位は2012年の秋山翔吾。この年初めて規定打席に到達した秋山は、リーグ最多の8三塁打を記録するなど俊足の外野手として売り出した。外野手としてゴールデングラブを6回獲得。MLBに移籍してからもゴールドグラブ賞候補になるなど、外野守備は高く評価されている。またこの年の西武は、岸孝之、牧田和久、石井一久と奪三振が少ない先発が揃い、外野飛球が多かったことも影響している可能性がある。

このランキングには飯田哲也が3回、岡田幸文が2回出てくる。飯田は野村克也監督時代のヤクルトの不動の1番打者。捕手からのコンバートだったが、身体能力の高さで知られ外野守備での貢献度は高かった。1991年から7年連続ゴールデングラブを受賞している。

岡田は2011年に初めてレギュラーになったが、ノーエラーでシーズン連続守備機会無失策359のリーグ新記録を樹立。リーグ特別表彰を受けた。一方で、9年910試合に出場して通算本塁打は0、守備に徹した名外野手と言えるだろう。ゴールデングラブは2回受賞した。

このランキングに登場する外野手はすべて中堅手。中堅手は右翼手、左翼手より守備のテリトリーが広いため、RFはどうしても中堅手が上位にきてしまう。そこで次章では、左翼手、右翼手それぞれのRFランキングを見ていく。

左翼は田口壮、右翼は緒方孝市がトップ

まず、1990年以降の左翼手のRFランキングは下表のとおり。

左翼手のRF10傑(100試合以上)1990年以降,ⒸSPAIA


左翼手は外野手の3つのポジションで守備のテリトリーが最も狭く、RFの数値も低い。守備があまり得意でない強打者やベテラン選手が守ることも多いポジションだ。しかし二塁、三塁に走者が出て左翼に飛球が飛べば、左翼手の能力が勝敗を分けることもある。

1位は1997年オリックスの田口壮。この年のオリックスの中堅は谷佳知、右翼はイチロー。谷も守備範囲の広い外野手ではあったが、この年の田口は本塁打性の飛球をキャッチするなど好守が光り、ゴールデングラブに輝いている。補殺数も17を記録した。

昨年のロッテ荻野貴司は、中堅から左翼にコンバートされたが、左翼手ながらリーグ最多の310刺殺。しかもノーエラー。36歳ながら中堅手顔負けの守備範囲の広さで、貢献度は高かった。

右翼手のRF10傑(100試合以上)1990年以降,ⒸSPAIA


右翼は中堅に次いでテリトリーが広い。また右翼手は、安打を打って二塁や三塁を狙う走者を刺したり牽制したりするための「肩」を求められる。上記表でも、補殺数が二けたになる選手が5人いた。

1位の1997年、広島の緒方孝市は135試合にフル出場、そのうち134試合で外野を守った。この年の広島は中堅が前田智徳でRFは1.95と守備範囲が狭かったため、右翼の緒方が中堅のエリアまでカバーしていた。緒方はこの年まで3年連続盗塁王。俊足が際立っていた。

2位の2014年、中日の平田良介の場合も、この年の中堅、大島洋平のRFは2.10だった。大島は外野守備の名手だが、この年はやや不振(前年はRF2.33)で平田がカバーしたのではないかと考えられる。

RFは野手の能力を示す一つの指標に過ぎないが、この数値を通して外野手の「個性」が際立ってくるのだ。

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