持ち味の制球力でセ・リーグ最多QSを記録
昨季、セ・リーグ最多の17試合でQSを記録した阪神・西勇輝。QSとはクオリティ・スタートの略称で、先発投手が6イニング以上を自責点3位内に抑えることを指し、投手分業制の現代野球では先発投手を評価する重要な指標のひとつである。西はその指標で、沢村賞の中日・大野雄大、セ・リーグMVPの巨人・菅野智之を抑えトップとなった。
この他にも、防御率2.26(リーグ4位)、被打率.213(リーグ3位)、WHIP0.98(リーグ3位)と多くの指標でリーグ上位に名を連ね、BB/9はセ・リーグ平均3.30を大幅に上回る1.71(リーグ3位)を記録し、持ち前の制球力を遺憾なく発揮した。
ゾーン別データ(SPAIA参照、https://spaia.jp/baseball/npb/player/900062)でも、その高い制球力が確認できる。左右のバッターのアウトコース低めにボールが集められており、右打者の投球割合は31.6%で被打率は.200、左打者の投球割合は25.9%で被打率は.123となっている。
投球割合が30%前後あってもしっかりコースに決められているため、打者はそのコースにボールが来るとわかっていても対応が難しいと考えられる。
ストレートの投球割合はわずか5.8%
スライダーとシュートを軸に投球するイメージの西だが、投球割合から驚きのデータが見えてきた。
軸となるスライダー(投球割合33.1%)とシュート(投球割合31.8%)に加え、決め球のチェンジアップ(投球割合25.8%)の合計が全体の90.7%を占め、ストレートの投球割合はわずか5.8%しかない。
セ・リーグの各球団のエースと比較しても、ストレートの投球割合の低さは顕著で、全体の25%を下回るのは西だけだ。
他球団のエースたちはストレートと変化球のコンビネーションを武器としているのに対し、西はスライダーとシュートのコンビネーションでストライクゾーンを大きく見せることを武器としている。他にないピッチングスタイルが、セ・リーグ最多QSにつながった可能性も考えられる。
タイトル奪取のカギは「奪空振り率」
ゴロアウトを取るのが上手いことで知られる西だが、その弊害もある。昨季21試合に登板し、内17試合でQS、6回より前の降板は一度のみと抜群の安定感だったにもかかわらず、勝ち星は11勝にとどまり接戦を落とす試合が目立った。これまでのシーズン最多もオリックス時代の2014年にマークした12勝だ。
防御率も低く被打率も優秀だが、勝ち星が思ったように増えない原因のひとつとして、思ったところで三振を奪えていないことが考えられる。ゴロアウトが多いということは、無死もしくは一死でランナーを三塁に背負った場合、内野ゴロの間にランナーが生還することもあるので、三振が欲しい場面で奪えないのは痛手になる場合が多い。
さらに、阪神は昨季85失策で2年連続両リーグワーストの失策数を記録している。ゴロアウトを完結させるには、捕球とスローイングのふたつのプレーが関わってくるため、失策による失点で勝ち星を伸ばすことができなかった側面もあるだろう。
勝ち星に限って言えば、セ・リーグ5位のチーム打率.246の貧打も原因のひとつかもしれないが、守乱の影響は小さくはずだ。
これらの問題を解決し、西が投手タイトルを奪取するには、軸となるスライダーとシュートの奪空振り率を上げることが重要になりそうだ。10%を超えれば優秀とされる奪空振り率は、現状、スライダーが9.9%、シュートが4.9%にとどまっている。それだけゴロを打たせている証だが、今後は空振りも取れるボールにしていく必要がありそうだ。
好成績を収めながら勝ち星に恵まれない虎のエースが、今季他球団のエースに競り勝ち、タイトル奪取することができるのか楽しみだ。
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