800m通過はマイル戦レベル
春の中距離王決定戦・大阪杯はベラジオオペラがレース史上初の連覇を決め、2着ロードデルレイ、3着ヨーホーレイクで決まった。その決着時計は1:56.2。従来のコースレコードを1秒も更新した。
2年前、同じ芝2000mの天皇賞(秋)でイクイノックスが叩き出した1:55.2も強烈だったが、あちらは直線が長い東京。阪神内回りという舞台を踏まえると、1:56.2はイクイノックスの記録と決してそん色ない。自然と速度が落ちるコーナーを4回も通過し、序盤、終盤の直線部分は短い。スピードを維持しにくい構造での記録でもある。
レコード演出の立役者は1コーナーで先頭を奪ったデシエルト。スタートのタイミングが合わず、正面スタンド前は後方から。ラップでみると、スタートから2Fは12.5-11.2。この後にデシエルトが外から先頭に立ったため、次区間も11.2-11.4-11.2と落ちず、序盤600m34.9、800m通過は46.3とマイル戦レベルで突っ込んだ。
もちろん、雨の影響もさほどなく、馬場状態が絶好だったのもあるが、途中からいったデシエルトの勢いもあった。逃げてナンボのデシエルトなので、ゲートで遅れたからと後ろから進んでも意味はない。まして舞台はGⅠ。自分の形で進めないと悔いが残る。
ロードカナロア産駒の理想、ベラジオオペラ
2F目から11秒台前半を記録し続けた結果、1000m通過は57.5。ここまでラップの落ち込みがなく、数字以上にしんどい。ここから11.7-11.9-12.0とじわじわと失速し、レースは失速ステージに進むかと思いきや、ラストは11.4-11.7。さすがは古馬中距離GⅠだけあって、最後に巻き返した。これが1:56.2のレコードを支えた。
デシエルトにかわり、ラスト2Fのラップを引っ張ったのはその背後にいた先行勢。なかでもベラジオオペラは完璧だった。昨年は2番手から後半1200mの超ロングスパートを乗り切り、今年はデシエルトが引っ張る流れを好位のポケットから見事に乗りこなした。阪神芝2000mの理想的な攻略法を人馬ともさらっとやってのけた。
奇しくも2着ロードデルレイと同じく父ロードカナロア。スピード重視の持続力勝負への強さは折り紙つき。マイル前後でこそという種牡馬だが、母系との組み合わせ次第で中距離も戦える。それもスピード要素も強く問う2000mは今回のような緩急の少ないラップ構成になりやすく、これがロードカナロアにハマる。
くわえてベラジオオペラはゲートやダッシュ力といった序盤の攻防に勝てる要素も兼備。前で粘る形はロードカナロアの強みを最大限引き出す。これで今年のJRA・GⅠは3戦すべてロードカナロア産駒が制した(フェブラリーS:コスタノヴァ、高松宮記念:サトノレーヴ)。
ダート、芝短距離、芝中距離と守備範囲が広く、これもチャンピオンサイヤーならでは。多様な競走体系で競う日本では一点突破より、ユーティリティプレイヤー。なんでもこなせることが重要になる。
ロードカナロアは日本競馬界にとって理想の種牡馬だと改めて実感した。そんなロードカナロア産駒の理想がベラジオオペラ。速い時計の中距離での強さは種牡馬として大きな価値になる。このまま無事に競走生活を終え、ロードカナロアのラインをさらに強固にしてほしい。
秋が楽しみなロードデルレイ
2着ロードデルレイは同じロードカナロア産駒だが、どちらかというと、粘るのでなく、末脚を伸ばす形。以前は粘る競馬をしていたが、出世するにつれ、伸ばす形へシフトしていった。決め手の強烈さは前走日経新春杯で証明済みだが、伸ばす形ゆえに直線が短い舞台はちょっと苦手とする。
今回も先にベラジオオペラに抜け出され、セーフティーリードをとられてしまった。それでも差して2着まで来たわけで、こちらもGⅠ級の能力を証明した。真のチャンスは秋だろう。天皇賞(秋)にピークを持ってこられるようローテーションを組んでもらいたい。
接戦の3着争いを制したのはヨーホーレイク。通過順は14-14-14-14だから、阪神芝2000mでは絶体絶命の形だった。これで3着まで伸びてきたわけで、前走で重賞を制した勢いそのままにここに挑めた。決して追い込みスタイルではなく、今回はスタートで躓きかけ、後方から進まざるを得なかった。正常の発馬なら流れに乗った競馬も可能だろう。
昨夏、鳴尾記念を1:57.2で勝っており、速い時計への適性はあった。内回りに限らず、GⅠはわずかな狂いが結果につながる。完璧と言えない序盤を考慮すれば、この3着も価値がある。
5着ホウオウビスケッツは想定していたとはいえ、途中からデシエルトに来られる形は厳しかった。2コーナー手前の引く場面での乱れの影響はあっただろう。それでもベラジオオペラにかわされてからも粘りをみせ、今が充実期であることを示した。引き続き中距離路線で目を離せない。
1番人気シックスペンスは7着。ベラジオオペラと併せる場面で抵抗できなかった。伸びそうな形で進みながらも、案外だったのは、距離だろうか。1800m巧者である可能性は否定できないが、初の関西輸送、これまで経験がない忙しい競馬の影響もあったのではないか。つまり、経験値の差であり、経験を積み上げていくことでその差は埋められるだろう。それだけにある程度の間隔でレースに出走していってほしい。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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