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【チャーチルダウンズC回顧】ランスオブカオス×吉村騎手、人馬とも底力示す重賞初VでNHKマイルC切符

2025 4/7 11:41勝木淳
2025年チャーチルダウンズカップ、レース結果,ⒸSPAIA

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若き気鋭たちの共演

今年から名称を改められたNHKマイルCトライアルは吉村誠之助騎手騎乗のランスオブカオスが勝ち、人馬ともに重賞初制覇。2着アルテヴェローチェ、3着ミニトランザットと入り、この3頭がNHKマイルCの優先出走権を手にした。

ドバイワールドCデーが例年より一週繰り下がり、今年は4月第一週目が重なった。リーディング上位常連騎手たちがドバイに飛ぶため、騎手は比較的フレッシュな顔ぶれが並ぶ開催になったが、チャーチルダウンズCはその象徴のようだった。

吉村誠之助騎手とともに、1番人気アルテヴェローチェに騎乗した佐々木大輔騎手の気鋭の若手ふたりが魅せた。だが、これはルメール騎手や川田騎手がいないから誕生したコンビではない。

佐々木騎手はアルテヴェローチェで重賞を勝っており、吉村騎手はランスオブカオスで朝日杯FS3着。どちらも自力で結果を残し、ベストパートナーとして重賞出走のチャンスをつかんだ。ドバイがあったからね、という前置きはこの1、2着には決して当てはまらない。


底力勝負で威力発揮するシルバーステートの血

勝ったのはランスオブカオス。朝日杯FSの結果通り、今回もアルテヴェローチェに先着した。勝因はなんといっても直線の進路だろう。好位につけ、道中は馬群のなか。4コーナーで周囲が動いても、仕掛けを待ち、直線では抜け出す進路を落ち着いて見定めた。

吉村騎手は、度胸はもちろん、ヘッドワークも目を見張る。レース全体が見えているというか、流れをつかむことに長けている。本当に2年目のジョッキーなのだろうか。普段から目の肥えたベテランファンを驚かせており、ここでの重賞初制覇も納得。ランスオブカオスのレース内容は吉村騎手の魅力にあふれていた。

下げても外を回っても厳しく、勝つなら好位で我慢させ、馬群を突くぐらいしかない。わかっていてもできないのが競馬のはずで、それをやってのけるから素晴らしい。どうか大きなケガなどせず、この先も大暴れしてほしいところだ。

レースは目立った逃げ馬がおらず、2勝目を逃げ切りであげたモンテシートも内回りから外回りに替わるため、今回はハナを主張せず。遅くなりそうではあったが、そうはならなかった点も評価ポイントだろう。

序盤600m34.4、前後半800mは46.1-46.1、ラスト600m34.2と上下動が少ないイーブンペースだった。息を入れる場面が少なく、結果としてはマイルを最後までスピードにのって走りきる力を求められた。こうなると、実績馬に一日の長がある。ランスオブカオスは人馬ともセンスを感じさせ、イーブンペースで力差もきっちり示した。

父シルバーステートは末脚の爆発力ゆえ、脚元の不安がつきまとったが、産駒は決して切れ味勝負ではなく、どちらかというと持続力に強みをみせるタイプが多い。これは自身の父ディープインパクトより、母系に入るシルヴァーホーク、ロベルトの特徴を受け継いだものだろう。

シルヴァーホークといえばグラスワンダーの父。大舞台で強いのは、ロベルト系にみられる持続力特化ゆえだ。底力勝負で威力を発揮する血がシルバーステートの価値を支えている。ランスオブカオスも攻める吉村騎手と手が合い、この積極性が成績につながった。本番も血の長所と鞍上の魅力をいかんなく爆発させてほしい。


アルテヴェローチェは厳しい流れでこそ

2着アルテヴェローチェはまたもランスオブカオスに先着されたが、こちらも休み明けであり、まして全力で勝ちにいかなくてもいい状況だった。つまりこの敗戦で勝負づけは済んでいない。

こちらは父モーリスなので、グラスワンダーの系統。どちらもシルヴァーホークの血をもっており、イーブンペースになって、底力を問う流れだったのもよかった。母系はセレシオン、クルミナル、ククナとしぶとさを武器とする馬たちが目立つ。アルテヴェローチェも厳しい流れでこそ、力を出す。もう少しハイペースにペースが傾いても面白そうだ。

3着は溜める競馬を選択したミニトランザット。京成杯はペースに乗じて追い込んだ印象も、緩みないマイル戦で好走し、距離適性の幅が出てきた。

母イチオクノホシは桜花賞に出走し、その後は1400m前後で差してくるイメージだった。父ゼンノロブロイっぽくないが、母系に入ったゼダーンやリヴァーマンといったスピードを伝える名血の存在がそうさせた。ミニトランザットも短縮で再浮上のきっかけをつかんだ。こちらも東京の末脚勝負での魅力を感じる。

2025年チャーチルダウンズC、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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