日本代表の中心選手となった2016年
2016年は日本代表にとって大きな転換期となる年だったのかもしれない。2016年は、それまで不動の存在だった本田圭佑選手や香川真司選手らの北京オリンピックに出場した世代の選手が先発から外れる試合も増え、そこに割って入ったのがロンドンオリンピック世代以降の選手。2015年までと比較し多くの選手が出場機会を掴むようになった。
その中心的存在だったのが清武弘嗣選手。日本代表に初選出されたのは2011年とかなり前で、そしてそこからは監督が変わってもコンスタントに選ばれ続けている「代表の常連」であり、歴代の代表監督から期待されていた存在ではあったものの、ポジションを奪うところまでは至らない。そんな存在の選手だった。
しかし2016年に入ると状況が大きく代わり、2016年の日本代表全10試合中、出場時間は香川選手、本田選手らを抑え、攻撃的ミッドフィルダーの中でナンバーワンとなる550分を記録。出場試合数9、先発試合数7も同ポジションでナンバーワン、得点数4は同世代の原口元気選手の5得点に次ぐ2番目の成績と、完全に日本代表の中心選手となる。
ヨーロッパでも高く評価される事に
2012年から活躍の場をドイツに移した清武選手は、ハノーファー96の2シーズン目には背番号10を与えられチームの看板選手へとなっていく。残念ながらチームが2部降格する事になってしまうが、その際も移籍市場でドイツを始めヨーロッパの数多くのクラブから注目を集める存在となっていた。
その中で清武選手の獲得に成功したのはスペインの強豪セビージャFC。これまでそのスカウティング網と選手を見極める能力で、何人もの選手をセビージャでブレイクさせてきた、世界屈指の敏腕スポーツディレクターとして知られるモンチ氏が清武選手に目をつけ、移籍金650万ユーロで獲得する。
そしてセビージャでのデビュー戦となったのは、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグのチャンピオン同士が対戦するUEFAスーパーカップ、レアルマドリード戦。この試合で先発フル出場を果たすと、シーズン開幕直前に行われるリーグ優勝チームとカップ戦優勝チームによるスーペルコパ、バルセロナ戦のファーストレグでも先発フル出場。
リーグ開幕戦となるエスパニョール戦でも先発フル出場でしかも1得点1アシストと結果を残し、2節にも先発。コンスタントに出場し活躍する姿は、強豪チームでの輝かしい未来が待っているかに思われた。
セビージャで出場機会を失った要因
チームでの状況が変わったのは日本代表の活動を終えてスペインに戻った9月以降。清武選手が日本代表でチームを離れている間に、元フランス代表のサミル・ナスリ選手が加入し、ポジションを奪われる形になる。
ポジションを奪われる事になった要因は、監督の交代や戦術面など様々な要素が複雑に絡み合っていたからだった。
セビージャはシーズン開幕前に、清武選手の加入を喜んでいた監督のウナイ・エメリ氏が、パリ・サンジェルマンからのオファーを受け退団。ホルヘ・サンパオリ氏が監督に就任する。
しかしサンパオリ監督は海外サッカーファンの間では攻撃サッカー信奉者として知られる存在。その中での清武選手のプレーは大きな期待を集めたが、サンパオリ氏はトレーニングの時に通訳が入る事を認めない方針を持っていたため難しい状態に。攻撃的で派手な印象があるスペインのサッカーだが、実は戦術的な約束事やルールが非常に多いサッカーでもあるため通訳がいないその環境は難しいものとなった。
トレーニングに通訳が入る事を認めない方針は日本人からすると意外に感じるかもしれないが、短時間で強度の高い練習を行うヨーロッパでは、強度を保つことが難しくなるとして比較的よくある事。
ただ、そんな時スペイン語を100%マスターしていない外国籍選手らは英語やフランス語など様々な言語を使える選手同士で確認しその細かな約束事を確認しあうという事になるのだが、日本語だとそれが出来ない。
こういった事もスペインリーグで日本人選手が苦労する事が多い一因となっている。
清武選手が希望したセレッソ大阪への復帰
出場機会に恵まれていない清武選手ではあったが、モンチ氏は依然清武選手の能力を高く評価しており、言葉及びスペインサッカーへの適応の問題はあるものの、それは時間をかける事で解決できると判断していた。
しかし2017年1月の移籍期間が始まると、清武選手は日本の、そしてセレッソ大阪への復帰をクラブに対して申し出る。
しかしセビージャにとっても高額な移籍金で獲得し、期待をかけている選手なので無料で放出することは出来ない。この清武選手の希望に答えたのがセレッソ大阪。最終的に500万ユーロと言われる移籍金はJリーグのクラブが獲得に費やした移籍金としては歴代最高クラスとなったが、電撃的な形でセレッソ大阪への復帰が決定した。
この時、セレッソ大阪以外にもJリーグを始め幾つかのクラブが獲得を検討し、またドイツやアメリカのクラブも獲得に際して具体的なアクションも起こしていたとも言われている。しかし今回の移籍はスポーツ面だけでなく家族の事など彼個人の事情があったため、セビージャにとっては清武選手獲得に投じた費用を全て回収できず、そしてセレッソ大阪にとって莫大な出費とも言える金額で両者が決断し、この移籍が決定した。
Jリーグでナンバーワンの価値を持つ選手
この移籍がどれほど大きなものかというと、ヨーロッパを中心とした移籍情報などが幅広くまとめられているサイト「Transfermarkt」の中で以下のように書かれている。
清武選手のマーケットバリューは500万ユーロ。年俸とは別に清武選手を獲得する目安として500万ユーロ・約6億円が必要だとしている。
この金額はJリーグで断トツのナンバーワン。2位はヴィッセル神戸に加入したニウトン選手で350万ユーロ、日本代表の森重選手が180万ユーロとなっているのでその金額の大きさがわかる。
出典:
transfermarkt.de
そして何と言っても清武選手は現役日本代表の司令塔。世界的に評価が高いのは動きながらプレーできるところで、様々なところからチャンスを作り出す事ができる選手。そしてドリブルでボールを運ぶ能力も高く、キックの精度も抜群。現在の日本代表で最もフリーキックが上手い選手でもある。
4年半振りに、Jリーグナンバーワンの価値をもつ選手として帰ってきた清武選手のプレーに注目してみよう!