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【スポーツ×スタジアム】 第2回 スタジアムとクラブ運営の難しさ②

2018 11/9 15:00藤本倫史
スタジアム,Ⓒshutterstock.com
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スタジアム問題のポイント

前回、広島のスタジアムの現状について説明した。それでは、なぜ広島にスタジアムを建設できないのかをまとめていきたい。

まず、前回述べたポイントである、市民やサポーターのスタジアムの建設意義が変わっていない。もしくは、わからないことが大きいのではないか。

スタジアム=ハコモノでは、税金の無駄遣いというイメージしかない。しかし、第1回でも述べたように、スタジアムは経済効果やコミュニティ醸成の地域活性化の手段として、使えるという考えが少しずつ浸透している。Jリーグやクラブもここを必死で訴えているが、なかなかうまくいなかない。

しかし、広島にはすでにマツダスタジアムという成功例がある(これについての詳細は次回で説明する)。サッカーと野球では試合数が違うなど、比較対象としてどうかという意見はあるが、スポーツ場として、地域活性化の重要なツールとなっている。

そうであれば、攻めの行政をしてもいいのではないか。スポーツの街として、他県や世界に売り込むチャンスとして捉え、プロスポーツクラブとシティプロモーションする戦略は決して無駄な動きではない。

市の長期戦略とスポーツ

これを含めて、市の長期戦略としてスポーツをどう位置付けるか。これをはっきりすることが、2つ目のポイントである。確かに今は広島東洋カープがブームであり、経済効果も生んでいる。しかし、苦しい時もカープは広島市のシンボルであり、重要な地域資源でもあった。これを市の総合計画などで、球団と連携し、サンフレッチェ広島など、他のスポーツ団体をどうしていくのかを短期ではなく、長期的に考えなければならない。

さらに、広島市は国際平和文化都市として国内外にPRしている。スポーツは平和の象徴ともいえる。国際平和や国際交流をPRし、その手段としてスポーツを活用するのは理にかなっているのではないか。

だからこそ、スポーツをする場としてだけではなく、国際平和や国際交流としても活用するから、税金をこれだけ使うという道筋をしっかりと付ければいい。

それを付けられるのはリーダーである。本来であれば市長や県知事が担うべきだが、この問題は複雑に入り組んだ印象があるので、積極的には動かない。

プロスポーツクラブは1株式会社か地域の宝か?

しかし、私は上記に述べたように、シンプルな問題ではないかと考える。地域としてスポーツの位置付けをどうするか考え、その価値への対価を決める。そして、その説明責任は自治体の長期戦略に基づいて行えばいいのではないか。

だが、それを誰もやりたがらないのは、リーダーシップを取りたくないと言っているのと同じである。マネジメントは「決断すること」とよく言われる。まさにこれだけ長期化しているのであれば、どこかで決断しなければならない。

地域として、サンフレッチェ広島を1株式会社として見るのか、地域の宝として見るのかである。現在、クラブは公式HPでスタジアムの仮名称を「ヒロシマ・ピース・メモリアル・スタジアム」として、森保日本代表監督によるPR動画や、森崎浩司氏による欧州スタジアムへの視察動画を掲載している。サンフレッチェも1株式会社であるのであれば、このような名称やスタジアム視察を行わないだろう。

やはり、サンフレッチェはJリーグの理念に則り、地域の宝として活動していきたいと考えている。もちろん営利企業なので、利益を追求する必要がある。だが、利益を社会に還元するCSR(企業の社会的責任)やSDGs(開発目標)の活動はまさに、プロスポーツクラブには求められるし、先頭に立って行わなければならない。

そのような部分を踏まえて行政、市民などはもう一度、このクラブについて考えていく必要があるのではないか。また、このような事例を見ながら、スポーツビジネスを志す若者には、スポーツの器であるスタジアムを多面的に考えてほしい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。