羽生結弦の演技「忘れていた大きな目標」
2018年平昌冬季五輪のフィギュアスケート男子で銀メダルに輝いた23歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)にとって、北京冬季五輪開幕まで1年を切った2021年は「忘れていた大きな目標」を再び追いかける新たな年になる。
2020年12月の全日本選手権(長野市ビッグハット)で圧巻の演技を見せ、合計319.36点をたたき出して5年ぶり5度目の頂点に立った26歳の羽生結弦(ANA)の存在だ。新型コロナウイルス禍で大会の中止が相次ぎ、目標を見失いかけていた中、2022年北京冬季五輪で3連覇の偉業に挑む「絶対王者」の背中が宇野の揺れ動く心に再び火を付けたのは間違いない。
3月の世界選手権へ新たなパワー
悔しさよりも、心の内から湧き出すような喜び。合計34.55点差を付けられたハイレベルな演技に「僕の目標がここにあったんだなと改めて実感できた」と言い切る。
北京冬季五輪出場枠が懸かる3月の世界選手権(ストックホルム)も予定通り開催する方針が決まった。全日本選手権は5連覇を逃して合計284.81点の2位だったが、宇野はスケート人生の最終目標と位置付ける先輩の羽生から新たなパワーをもらったようだ。
自身のユーチューブでもコロナ禍で激動の2020年を「僕としては終わりが良かったので、良い1年だったかなと最後の最後で思うことができた年でした」と総括した。
代名詞の背面滑走、体力測定も公開
2019―20年シーズンは5歳から師事した山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を離れ、異例のコーチ不在でスタートし、グランプリ(GP)シリーズのフランス杯で自己最低の8位というどん底も味わった。
だがそんな絶不調の宇野に手を差し伸べてくれたのが、2006年トリノ五輪銀メダリストで元世界選手権王者のステファン・ランビエル氏である。
スイス・シャンペリーに練習拠点を移し、新天地での静かな環境でスケートに対する向き合い方も「勝つため」から「楽しむため」にシフトできたことも大きかったようだ。
両足を外側に開き、背中を氷面すれすれまで倒して滑走する自身の代名詞でもある「クリムキンイーグル」を積極的にプログラムに組み込むのも自然体で競技を心から楽しもうとする宇野らしさを取り戻した表れだろう。
1月下旬には自身のユーチューブのユニーク企画で「体力測定テスト」も公開した。これは真剣な勝負とはまた違ってユーモアあふれる素顔がのぞく宇野の一面だが、最初の50メートル走は6秒88をマーク。次の立ち幅跳びは2メートル58、続く垂直跳びは50センチとフィギュアのトップ選手としてはちょっと微妙な結果も…。
それでも氷上50メートルは5秒93、氷上50メートルバック走7秒18、最後の片足耐久スケートは16週とスケート靴を履くと、さすがの結果もアピールした。
ランビエル氏と二人三脚で成長するジャンプと表現力
世界の観客を魅了する華麗なジャンプと豊かな表現力を兼ね備えた名選手だったランビエル氏との二人三脚で、宇野は全日本でも着実な成長を証明した。
フリーの演技では序盤からサルコーとフリップの4回転ジャンプでは着氷が流れるように決まって出来栄え点を引き出し、音楽との一体化もより成熟されてきた。動きのメリハリ、手先の使い方にも気を配り、観客を引き込む表現力も一歩ずつ磨かれている。
羽生という大きな背中は「一歩も二歩も先にある」と自覚している。だからこそ、練習の虫でもある宇野は自らと向き合い、黙々と鍛練を重ねる日々だ。
ユーチューブでは今季初戦となった全日本選手権について「こんなに長引くと思ってなくて、本当にイベントが全て中止になり、もしかしたら全日本もないまま僕の1年終わってしまうんじゃないか、と思っていたけど、大会がない中で練習してきたものが少なからず出せたんじゃないかな。もちろん課題はたくさんありましたし、1試合だけと言うことで、なかなか見直せなかった部分とか、たくさんありましたけど、それでもやれることはやったと思うので」と確かな手応えを口にした。
当面の目標は3月の世界選手権。「新年明けましたけれど、世の中は変わることなく、今もすごい大変な思いしている方がたくさんいる」とコロナ禍の状況で複雑な心境も明かした上で「2021年は良い1年と言わず、いつも通りの生活が皆さんに戻るように心から願っている」と彼らしい言葉で静かに胸を高ぶらせている。
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