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羽生結弦、戦国無敵の「軍神」上杉謙信の境地で5年ぶり日本一

2020 12/28 17:00田村崇仁
羽生結弦Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

フィギュア全日本選手権で「天と地と」初披露

フィギュアスケートの全日本選手権で冬季五輪2連覇中の羽生結弦(ANA)が新型コロナウイルス禍の苦闘を乗り越え、5年ぶり5度目の日本一に輝いた。

12月26日、長野市ビッグハットで行われた男子フリーで、戦国大名の上杉謙信と武田信玄が戦った「川中島の戦い」を取り上げた大河ドラマ「天と地と」の新演目を初披露。無敵の「軍神」と呼ばれた戦国時代の名将、上杉謙信を自らに重ねた新境地で215.83点をたたき出し、首位発進したショートプログラム(SP)に続いて1位となり、国際スケート連盟(ISU)非公認ながら今季世界最高の合計319.36点で頂点に返り咲いた。

2022年北京五輪の日本の出場枠を決める来年3月の世界選手権(ストックホルム)代表にも決まった。

フィギュア全日本選手権男子総合成績


演技直後のテレビインタビューでは新型コロナ禍で暗闇に入り込みながら自ら競技と向き合い、闘ってきた葛藤を口にした。

「この曲の背景には上杉謙信公がいらっしゃる。謙信公の闘いということに関しての価値観みたいなものに影響された。いまこの世の中、闘わなければいけないことはたくさんありますけど、皆さんの中にも闘っていく芯みたいなものが見えたらよかったかな」と吹っ切れた表情で心境を語った。

5連覇を狙ったSP3位の宇野昌磨(トヨタ自動車)はフリー2位の190.59点を出して合計284.81点で2位。SP2位で17歳のホープ、鍵山優真(神奈川・星槎国際高横浜)はフリー3位で278.79点の3位となった。

10カ月ぶり実戦で4回転全て成功

2月の四大陸選手権(韓国)以来、10カ月ぶりの実戦。羽生は新型コロナ禍で拠点のカナダに戻れず、国内で異例といえる一人の調整を強いられた影響を全く感じさせなかった。

ブライアン・オーサー氏ら指導陣不在の中、冒頭の4回転ループできれいに着氷すると、続くサルコー、トーループの3種類計4度の4回転ジャンプを全て成功。特に冒頭の4回転ループで3.60の出来栄え(GOE)加点、抜群の高さがあったサルコーは驚異的なGOE4.16の加点を稼いだ。

羽生結弦のフリー成績


和服衣装と琴の音色が彩る和のテイストがふんだんに盛り込まれた新ブログラムを圧巻の演技で終えると、勝利を確信するように人さし指を突き立てた。

圧巻の演技構成点

コロナ禍でほぼ自らプロデュースして振り付けた新演目。ステップで一つレベルが3になっただけで、技術点は118.61点。表現力を示す演技構成点は5項目のうち4項目で9点台後半を並べる圧巻の出来で97.22点だった。

フラッシュインタビューでは「ステップ4取りたかったという正直な気持ちと、スピンを丁寧に回れたのでよかった」と苦笑いしつつ「自分の感覚を信じてやりきれたのは大きい」と納得。「きれいに加点がつくループジャンプを跳べたのは僕にとっても久しぶり。サルコーとトーループに関してはすごく自信を持ってやっている」と冷静に自己評価した。

SPでスピン0点も

一方、ロック曲で首位スタートしたSPの新たな演目は人気歌手ロビー・ウィリアムスさんの「レット・ミー・エンターテイン・ユー」。コロナ禍で沈む世の中に明るい話題を届けようと激しく動いて感情を存分に表現したが「初戦ということで力が入りすぎていた部分もあった」と振り返る。足替えシットスピンが必須要素を満たせず、審判団の採点で0点となる珍しいケースもあった。

日本スケート連盟は「足替え前は姿勢が成立しているが、足換え後は2回転連続した姿勢が成立しておらず、ノーバリュー(0点)という認定になった」との見解を説明している。

敗北を糧に世界の天下統一へ

コロナ禍の長いトンネルと苦しみを乗り越えた。ぜんそくの持病があるため、今季の羽生はコロナ禍で感染予防を踏まえてグランプリ(GP)シリーズを全て欠場する苦渋の決断。前人未到のクワッドアクセル(4回転半)完成どころか、練習もままならず、競技への闘志が戻らない時期もあった。

一人で滑りに向き合い続け、自粛期間にはジャンプを主題にした卒論も完成させて、9月に早大人間科学部の通信教育課程を卒業した。今大会も悩み抜いた末の出場だった。

昨年はGPファイナルで米国のライバル、ネーサン・チェンに敗れ、全日本選手権でも後輩の宇野に初めて屈した。そして思いもよらぬコロナ禍であらゆるものが分断された。そんな時に琴線に触れたのが戦国時代の最強武将、上杉謙信の考えだったという。犠牲と葛藤、闘いの美学。天才型の武将にも葛藤があり、最後は出家して悟りの境地を開いたストーリーに何か共感する部分も感じずにはいられなかった。

よみがえったのは純粋に「競技すること、闘うことはやっぱり好き」という感情の発露だった。スケートへの思いと情熱が再燃した。王者としての誇りとプライドも取り戻した。

くしくも長野市の会場は、上杉謙信と武田信玄の激闘で有名な川中島古戦場があった場所からもそう遠くない距離にあった。これまでも幾度となく、逆境を乗り越えてきた王者は、探し求めた闘う理由と意義に答えを出して暗闇から抜けだし、王座を奪回した。

もう一度、天下統一へ。全日本の大一番を終え、次は来年3月の世界選手権に集中する。後輩の宇野や鍵山も偉大な先輩、羽生の演技を見て、新たな目標としてその強さと存在の大きさを再認識しただろう。コロナの変異種が出現して世界各国で猛威を振るう中、どうなるか行く末は分からない。それでも羽生は2017年以来4年ぶり3度目となる世界の天下取りへ突き進む。

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