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自転車ロードレース史に残る東京五輪での激闘が盛り上がった理由

2021 7/30 11:00福光俊介
リチャル・カラパス,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

男女ともロードと個人TTでは対照的な結末に

東京五輪・自転車競技は7月28日にロード種目が終了した。開会式翌日24日の男子ロードレースを皮切りに、男女計4種目で熱戦が展開された。

激戦が予想された男子ロードレースは、その見立てに違わない五輪ロードレース史に残る死闘が繰り広げられた。東京都府中市をスタートし、静岡県小山町・富士スピードウェイにフィニッシュする244kmで争われたレースは、先のツール・ド・フランスで個人総合3位に入ったリチャル・カラパス(エクアドル)が独走に持ち込み金メダルに輝いた。

同じくツールでステージ3勝を挙げたワウト・ファンアールト(ベルギー)が銀メダル、ツールで個人総合2連覇を達成したタデイ・ポガチャル(スロベニア)が銅メダルを獲得。結果的に、8位までの入賞者すべてツールを走り終えて五輪に乗り込んだ選手で占めた。

25日に行われた女子ロードレースでは、本職が「数学研究者」で論文を多数執筆、現在スイスの大学でポスドク研究員として働くアンナ・キーゼンフォーファー(オーストリア)が大番狂わせを演じ金メダル。かつて1年間だけプロチームに所属したことがあるものの、現在は「私はアマチュア選手」と認める非プロライダーが歴戦の猛者たちを撃破。レース距離137kmの全行程をメインの集団から先行し続け、最後まで逃げ切ってみせた。

もう1つの種目である個人タイムトライアルは、男女ともにロードレースとは対照的な結果になった。どちらも28日に富士スピードウェイを基点とする周回コースで実施され、男子はプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が金メダル。トム・デュムラン(オランダ)、ローハン・デニス(オーストラリア)がそれぞれ銀メダル、銅メダルを手にした。

ログリッチは今年のツール序盤で激しく落車した影響で、大会前半にリタイア。デュムランは、これまで数々のビッグレースでタイトルを獲得してきたが、今年に入り「心身の休養が必要」として戦線を離脱。6月に復帰したばかりだった。デニスは、この種目に賭けてロードレースを出走回避。デュムランとデニスはツールに出場していないことも含め、メダリスト3人は起死回生の好走を演じたのだった。

女子では、ロードレースで銀メダルだったアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が勝利。オランダ代表は、女子ロードで連係ミスがありキーゼンフォーファーを捕まえられず勝てずにいたほか、26日に行われたマウンテンバイク・男子クロスカントリーで優勝が期待されたマチュー・ファンデルプールが落車した影響でリタイア。BMX種目の公式練習中に代表選手がコースに入り込んだ関係者と衝突する事故に見舞われるなど不運続きだったが、この金メダルで流れを変えるきっかけをつかんだ。

なお、日本代表は、男子ロードに出場した新城幸也が35位、増田成幸が84位。女子ロードでは、ラスト5kmまでメダル圏内で争った與那嶺恵理が21位、金子広美が43位。同個人タイムトライアルで與那嶺が22位。ロードレースにおいては出走選手の半数近くが途中でバイクを降りた中、世界のトップシーンで駆ける新城と與那嶺、国内の第一人者である増田と金子、いずれもがしっかりとフィニッシュラインまで走り抜いた。

激戦の背景には五輪へのプライオリティの変化が

過去の五輪と比較しても、東京五輪のロード種目は激闘の連続だった。その背景として、「トップ選手たちの五輪に対するプライオリティの変化」が挙げられる。

ツール・ド・フランスを頂点に世界各地で数多くのレースが開催されている競技性もあり、これまではトップ選手たちにとって五輪は「数あるレースのうちの1つ」といった見方が強かった。ツール後に五輪が開幕するというスケジュール的な要因も関係し、「ツールを走り終えた余波で五輪も走る」といった具合に惰性で臨む選手も少なくなかった。

しかし近年、ロードレースシーンにおける五輪の価値が向上。こと東京五輪に際しては、直前のツールを調整レースに位置付けるトップ選手も現れ、五輪本番に賭ける意気込みが過去のものとは大きく変化してきていることが徐々に示されつつあった。

そんな中で迎えた今大会では、ツールで躍動した選手たちを中心にメダル争いを展開。3年後のパリ五輪は自転車王国フランスでの開催とあり、ヨーロッパが基盤となっているこの種目の盛り上がりは、東京大会以上になることが予想される。

ロードレースの熱狂でSNSトレンド1位に

レースの盛り上がりは、SNSにも大きな影響を与えた。

男子ロードレースが行われた24日のTwitterでは、「#自転車ロード」がトレンドの1位に。日本人金メダリストが続々と生まれている他競技とは異なり、ロードレース種目はテレビ中継が行われず、インターネットのライブ配信に限定。ファンは配信とTwitterをはじめとするSNSでの情報の発信・入手でレースを楽しんだ。

また、新型コロナウイルスの感染者が首都圏を中心に増加している状況を受け、五輪関係者やレースが通過する自治体、サイクルメディアなどが観戦自粛を呼びかけたことも、こうしたムードに拍車をかけた。

ファンの多くがライブ配信でレース観戦に勤しみ、その熱狂をSNSに投稿する、といった構図でトレンドを席巻。サイクルメディアによるテキストライブや、有識者によるオンラインでのレース解説なども好評で、テレビ中継がない分、各々が創意工夫を凝らしてメダル争いの行方を見守った。

もっとも、ロードレース界とSNSとの関係性は、TwitterやFacebookなどが世界的に一般化する前からあり、トップ選手がTwitterの存在をPRしたのをきっかけに、2010年前後には多くの選手がTwitterアカウントを開設。これに、ファンやメディアが追随した経緯がある。

また、アメリカに本部を置くTwitter社がトップチームのスポンサーに就いた実績もあり、ロードレース界においては早くからTwitterによる情報発信がスタンダードになっていた。

それが約10年経って、東京五輪で新たに花開いた形。この動きにはテレビ局も着目し、ウェブサイトを通じて改めてロードレースの魅力を紹介するなど、日本では決してメジャースポーツとは言えないロードレースが世の中を動かしたのだった。

8月2日からはトラック種目がスタート

東京五輪の自転車競技はロード、マウンテンバイク、BMXの一部を消化。8月2日からは、伊豆ベロドロームを舞台にトラック種目が始まる。ロードレースとの兼任選手も多く参加を予定しているほか、ここ数年の強化が実っている日本勢の戦いにも注目が集まる。

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