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ツール・ド・フランスに揃って出場も?自転車競技を牽引する日本人3選手

2021 3/14 06:00福光俊介
新城幸也Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ロードレース競技の最高峰で戦う3人の日本人選手

オリンピック、FIFAワールドカップと並び、世界三大スポーツの1つと称されることもあるツール・ド・フランス。例年6月から7月にかけて開催されるこのレースは、総距離約3300kmを3週間かけて走破する。

おおよそフランス本土を一周し、パリの目抜き通り「シャンゼリゼ通り」でフィナーレを迎えるのが慣例だが、ときに隣国ベルギーやスペイン、イタリアなどにも足を延ばすこともある。レース関係者やファンが「ツール」と呼べば、ツール・ド・フランスを指しているのだと覚えておきたい。

自転車競技・ロードレース種目は、ツールを頂点に世界各地でいくつものレースが開催されている。日本でも国際・国内問わず数々の大会が開かれているが、この競技の本場はヨーロッパ。ツールにとどまらず、世界最高レベルのレースのほとんどが、ヨーロッパ圏内で行われている。野球であればメジャーリーグ、サッカーであれば欧州四大リーグに相当すると捉えてもいいだろう。

そうした経緯もあり、ロードレース種目トップライダーのほとんどがヨーロッパ勢であるが、近年は国際化が進んでおり、各大陸から実力者が次々と本場へと集まるようになってきている。

日本勢も同様で、これまでも多くのライダーがヨーロッパの最高峰のレースにチャレンジしてきた。そして現在、3人の日本人選手が世界の19チームだけが属することのできる最上位ディビジョン「UCIワールドツアー」を主戦場にする。

これらのチームは国際規定により、ツールなどのビッグレース出場権を自動的に得られるメリットを有しており、彼らにはチーム内争いを勝ち抜いての「ツール・ド・フランス出場」の可能性も大いにあるのだ。

日本のロードレース史上最高の実績を誇る新城幸也

世界の最高峰で戦う3人の日本人選手を紹介しよう。実績で群を抜くのが、現在バーレーン資本の「バーレーン・ヴィクトリアス」で走る新城幸也(あらしろ・ゆきや)だ。

1984年生まれの新城は、高校卒業後にフランスへと渡り、現地のアマチュアチームで活動。その後、フランスを拠点とする日本資本のチームに所属し、当時のトッププロとも好勝負を演じる。その走りが評価され、2009年にフランス資本の「Bボックスブイグテレコム」でプロデビューを果たした。

プロ1年目の同年からツールのメンバー入りし、全21ステージを完走。日本人選手の出場が戦後2人目であると同時に、後述する別府史之とともに「日本人選手初完走」も達成。以後、トップレベルの数チームを渡り歩きながら、ツール出場の常連に。出場回数は日本人選手としてはダントツの7回を数え、2012年と2016年には各ステージ(各日のレースを「ステージ」と称する)で最も果敢に動いたと認められた選手に贈られる「敢闘賞」を受賞している。

その活躍はツールにとどまらず、その年の世界王者を決める戦い「世界選手権」では2010年に現在も日本人選手最高位である9位に。また、フランスの老舗レース「ツール・ド・リムザン」では2012年に個人総合優勝を飾った。

今年行われる予定の東京五輪の同種目日本代表にも内定済み。今年はツール閉幕直後に五輪ロードレースが予定されており、両レースでの好成績が最大の野望だ。

総合力と人間性で世界に認められた男・別府史之

実績の新城なら、別府史之(べっぷ・ふみゆき)は「開拓者」(パイオニア)といえるだろう。

1983年生まれの別府は、国内敵なしだった高校時代を経て、日本のチームに所属しながら武者修行のためフランスへ。そこでの走りが現地関係者に認められ、名門アマチュアチームでプロ入りを目指すこととなる。それからの成長も右肩上がりで、年代別では世界トップレベルに君臨。21歳のとき、当時世界ナンバーワンといわれたチーム「ディスカバリーチャンネル」入りを果たす。

実力者の中で揉まれ鍛えられた別府は2009年、ついにツール出場のメンバー入りを勝ち取る。前述の新城とともに世界最高レースのスタートラインについた。

圧巻は、この大会最終日だった。シャンゼリゼ通りに到達するやいなや、猛然とアタック(急激なペースアップを図って集団から飛び出す作戦)。これに追随した数選手とトップ争いを展開し、最終的に大集団に飲み込まれたものの、この走りが評価され日本人選手初のステージ敢闘賞を獲得。一躍、別府の名が世界に轟いた瞬間だった。

ツール出場はこの1回限りだが、世界の名だたるレースでの上位入賞は数えきれない。30歳前後がキャリアのピークとされるロードレースにあって、37歳(4月に38歳を迎える)となった今も第一線で走ることができるのは、平坦・上り問わず実力を発揮できることと、天性の明るいキャラクター、そして日本語・英語・フランス語を巧みに操るコミュニケーション能力の高さが評価されてのもの。今年から加わったアメリカ資本の「EFエデュケーション・NIPPO」ではチーム最年長だが、主力の1人として2度目のツール出場を目指している。

安定感は日本人選手随一・中根英登

今年、別府とともに「EFエデュケーション・NIPPO」の一員となった中根英登(なかね・ひでと)は、初めてとなるワールドクラスのチームでのシーズンを送っている。

中根が前述の2人と異なるのは、大学卒業まで日本をベースに走っていた点だ。中京大学を卒業してから、ヨーロッパでの競技活動を本格化。一時は日本に活動の基軸を戻したが、2017年から再びヨーロッパへと渡った。

キャリア最高成績は、2020年のツール・ド・ランカウイでのステージ優勝(全日程での所要時間に加えて、各日の順位も競う)。世界のトップチームも参戦するアジア最大のレースで勝利したことで、ワールドクラスの力があることを証明した。

年齢的にも30歳と、まさに今がキャリアのピークに差し掛かっている。好不調の波がない安定した走りは日本人随一で、現チームでも加入早々から主力の1人に数えられている。

日本人選手3人揃い踏みの可能性も十分

ロードレースの世界においては「知らないものはいない」レベルに到達している3選手。この先、同じレースで「日本人選手3人そろい踏み」の可能性も大いにある。

その実現がツール・ド・フランスであれば、これ以上ない喜びだ。新城・別府・中根の動向に注視してほしい。

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