63年ぶりヤングライダー賞対象選手がワンツー
世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」の2021年大会が、7月18日に幕を閉じた。6月26日にフランス北西部のブルターニュ地方で開幕して以来、3週間をかけて同国を一周。アルプス、ピレネーの両山脈に加えて、今年は隣国アンドラへも足を延ばした。総距離3414.4kmの戦いは、今回もドラマに満ちたものとなった。
全21ステージトータルの走行時間で競う最大栄誉の「個人総合時間賞」は、22歳のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が2連覇を達成。昨年は最終日前日の大逆転で選手・関係者を驚かせたが、今回は大会前半から盤石の走り。第8ステージでトップに立つと、その後は大きなトラブルもなく最後まで走り切った。
ⒸA.S.O./Charly Lopez
今回、ポガチャルが見せた強さはオールラウンドにわたるものだった。かねてから山岳コースでの群を抜く登坂力は高く評価されてきたが、今回は個人タイムトライアルでの能力向上が顕著になった。
同種目は通常のロードレースとは異なり、1人ずつがコースへと出走してそのタイムを競うため、個人の走力が明確に現れる。平坦や山岳など、特定のコースで力を発揮したり、選手間での駆け引きに長けた選手であっても、ツールのような長丁場の戦いにおいては個人タイムトライアルを攻略できないと頂点に立つのは難しい。その意味では、ポガチャルは穴のない選手になった印象だ。
第5ステージに設定された今大会1回目の個人タイムトライアルで勝利し、総合で好位置に順位を上げると、山岳で満を持して攻撃に出てトップに立つ王道の走り。
勝つべくして勝ったといえるわけだが、彼を支えたUAEチームエミレーツの選手たちも最後まで誰ひとり欠けることなく全ステージを走破。途中ステージでの落車で負傷し苦しんだ選手が何人かいたものの、「ポガチャルを支える」という強い使命で戦線離脱のピンチを乗り切った。
ⒸA.S.O./Aurélien Vialatte
そんなポガチャルに、唯一ともいえるピンチを呼び込んだのが、最終的に個人総合2位となるヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)だった。
今回がツール初出場だったヴィンゲゴーは、当初前回大会2位のプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)のアシスト(サポート役)としてのメンバー入りだった。しかし、ログリッチが大会前半の大クラッシュに巻き込まれた影響でリタイアすると、その代役として一気に躍進。
ポガチャルを苦しめたのは、大会中盤の第11ステージ。過去のツールで名場面が多数生まれている山岳モン・ヴァントゥで攻撃に転じると、暑さに苦しんだポガチャルに対してわずか数キロで1分近いリードを奪ってみせた。その後の下りでポガチャルが猛追したことで、結果的にヴィンゲゴーの逃げ切りはならなかったが、絶対王者のわずかな脆さを示した勇気ある攻撃だった。
ヴィンゲゴーも山岳のみならず、個人タイムトライアルを得意とし、2回あった同種目ステージはともに3位フィニッシュ。上位進出がまぐれではないことを証明している。
22歳のポガチャルと、24歳のヴィンゲゴー。ツールでは25歳以下の選手を対象に「ヤングライダー賞」が設けられているが、その対象選手がワンツーを占めるのは63年ぶりのこと。3位のリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)も28歳で、これまでキャリアのピークが30歳前後とされてきたロードレースの見方を覆す、若手・中堅選手の活躍が光った大会になった。