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ツール・ド・フランスは22歳ポガチャルが総合2連覇、東京五輪金メダル候補に

2021 7/21 11:00福光俊介
ツール・ド・フランス個人総合トップ3のヴィンゲゴー、ポガチャル、カラパス
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ⒸA.S.O./Romain Laurent

63年ぶりヤングライダー賞対象選手がワンツー

世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」の2021年大会が、7月18日に幕を閉じた。6月26日にフランス北西部のブルターニュ地方で開幕して以来、3週間をかけて同国を一周。アルプス、ピレネーの両山脈に加えて、今年は隣国アンドラへも足を延ばした。総距離3414.4kmの戦いは、今回もドラマに満ちたものとなった。

全21ステージトータルの走行時間で競う最大栄誉の「個人総合時間賞」は、22歳のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が2連覇を達成。昨年は最終日前日の大逆転で選手・関係者を驚かせたが、今回は大会前半から盤石の走り。第8ステージでトップに立つと、その後は大きなトラブルもなく最後まで走り切った。

ポガチャルが第18ステージ優勝した瞬間

ⒸA.S.O./Charly Lopez


今回、ポガチャルが見せた強さはオールラウンドにわたるものだった。かねてから山岳コースでの群を抜く登坂力は高く評価されてきたが、今回は個人タイムトライアルでの能力向上が顕著になった。

同種目は通常のロードレースとは異なり、1人ずつがコースへと出走してそのタイムを競うため、個人の走力が明確に現れる。平坦や山岳など、特定のコースで力を発揮したり、選手間での駆け引きに長けた選手であっても、ツールのような長丁場の戦いにおいては個人タイムトライアルを攻略できないと頂点に立つのは難しい。その意味では、ポガチャルは穴のない選手になった印象だ。

第5ステージに設定された今大会1回目の個人タイムトライアルで勝利し、総合で好位置に順位を上げると、山岳で満を持して攻撃に出てトップに立つ王道の走り。

勝つべくして勝ったといえるわけだが、彼を支えたUAEチームエミレーツの選手たちも最後まで誰ひとり欠けることなく全ステージを走破。途中ステージでの落車で負傷し苦しんだ選手が何人かいたものの、「ポガチャルを支える」という強い使命で戦線離脱のピンチを乗り切った。

UAEチームエミレーツ

ⒸA.S.O./Aurélien Vialatte


そんなポガチャルに、唯一ともいえるピンチを呼び込んだのが、最終的に個人総合2位となるヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)だった。

今回がツール初出場だったヴィンゲゴーは、当初前回大会2位のプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)のアシスト(サポート役)としてのメンバー入りだった。しかし、ログリッチが大会前半の大クラッシュに巻き込まれた影響でリタイアすると、その代役として一気に躍進。

ポガチャルを苦しめたのは、大会中盤の第11ステージ。過去のツールで名場面が多数生まれている山岳モン・ヴァントゥで攻撃に転じると、暑さに苦しんだポガチャルに対してわずか数キロで1分近いリードを奪ってみせた。その後の下りでポガチャルが猛追したことで、結果的にヴィンゲゴーの逃げ切りはならなかったが、絶対王者のわずかな脆さを示した勇気ある攻撃だった。

ヴィンゲゴーも山岳のみならず、個人タイムトライアルを得意とし、2回あった同種目ステージはともに3位フィニッシュ。上位進出がまぐれではないことを証明している。

22歳のポガチャルと、24歳のヴィンゲゴー。ツールでは25歳以下の選手を対象に「ヤングライダー賞」が設けられているが、その対象選手がワンツーを占めるのは63年ぶりのこと。3位のリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ、エクアドル)も28歳で、これまでキャリアのピークが30歳前後とされてきたロードレースの見方を覆す、若手・中堅選手の活躍が光った大会になった。

シクロクロス出身の2人がツールの主役に

今大会で5年ぶりにステージ優勝を挙げ、その勢いでステージ4勝を挙げたマーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ、イギリス)。2008年から積み上げてきた勝利数は34に達し、エディ・メルクスの持つツールのステージ最多勝に並んだ。

大会最終日のパリ・シャンゼリゼ通りでのスプリント勝負では新記録に挑戦したが3位に終わり、歴史を変えるのは来年以降への楽しみに。それでも、近年はけがや体調不良もありレースに出場しても完走すらできない日々が多かっただけに、観る者にも、そして自身にとっても完全復活を印象付ける大会になった。

大会最終日、シャンゼリゼ通り

ⒸA.S.O./Aurélien Vialatte


シャンゼリゼでカヴェンディッシュらに勝ったワウト・ファンアールト(チーム ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)は、山岳コースの第11ステージ、個人タイムトライアルの第20ステージ、そして最終日と、要素の異なる3つのコースで勝ち星を挙げる離れ業を演じた。

競技の特性上、個々の脚質(走りのタイプ)で得意とするコースは異なるが、ファンアールトに関してはどんな局面にも適応できるマルチぶりが目立った。今大会では早々に総合争いからは遅れたが、関係者の多くが「将来的には総合を狙える選手」と評価しており、今後の走りに期待をもたせる大活躍だった。

ワウト・ファンアールト

ⒸA.S.O./Pauline Ballet


ファンアールトを語るうえで外せないのが、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス、オランダ)。両者は自転車オフロード競技の1つ「シクロクロス」との兼任選手で、現在も同競技の世界王者を争うライバル関係にある。

現世界王者のファンデルプールは、ツールにはこれが初出場だった。それでも第2ステージで勝つと、各ステージ終了時点で総合トップの選手が着用するスペシャルジャージ「マイヨジョーヌ」を6日間着用して大会前半戦を盛り上げた。今後のロードレース界を引っ張るのは間違いない2人が、その予告とばかりにこのツールでは躍動した。

マチュー・ファンデルプール

ⒸPresseSports/Bernard Papon

ツールを盛り上げた選手たちが今度は東京五輪の主役に

ツールを盛り上げた選手たちがそのまま、まもなく開幕の東京五輪へと乗り込むことになる。

男子ロードレースは、大会全体で最初の決勝種目として7月24日に行われる。ツールを走ったうちの50人が各国代表に選出されており、今度は所属チームの垣根を越えて、国の威信をかけた勝負に身を投じる。

東京都府中市をスタートして、神奈川県、山梨県、静岡県とをめぐる244kmのレースは、富士スピードウェイにフィニッシュラインが設けられる。富士山麓のアップダウンが舞台となり、五輪史上最難度との呼び声も高いコースだ。

やはりツールで好調さを見せた選手たちが金メダル候補に挙げられており、ファンアールトやポガチャルが軸になるレースが予想されている。彼らを擁するベルギー、スロベニアともにベストメンバーで挑む。

なお、個人タイムトライアルが28日に実施されるほか、26日に行われるマウンテンバイク・クロスカントリーではファンデルプールが金メダル候補の1人として出場する。

大会最終日、凱旋門

ⒸA.S.O./Charly Lopez


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