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自転車ロードレースの最高峰「グランツール」とは?3週間で約3500kmを走破

2021 5/8 06:00福光俊介
ジロ・デ・イタリア2020年大会で個人総合優勝したテイオ・ゲイガンハート(中央)ⒸRCS
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ⒸRCS

ステージレースの最高峰「グランツール」

新型コロナ禍にあっても競技独自の対策を施し、関係者間での感染拡大を防ぎ続けている自転車ロードレース界。レース開催前に義務付けられているPCR検査で選手やチームスタッフなどから陽性者が出ると、該当者だけでなくチームごと大会から撤退させるなどの対応が今のところ効果を見せている。

その甲斐あって、大きなトラブルなく今シーズンが進行中。5月に入ると、本場ヨーロッパのみならず世界的に「ステージレース」と呼ばれる、複数日にわたるレースが数多く開催されるようになる。

ステージレースの特徴は、各日ごとにフィニッシュまでの順位を競うほか、会期終了時の総所要時間を筆頭に総合成績を争うところにある。1つの大会でもいくつもの賞が設けられ、選手によって狙う目標が変わってくる(後述)。このあたりは、自転車ロードレースにとどまらず、スポーツ界全体を見渡してもユニークな点ではないだろうか。

そして、ステージレースの中でも最高峰の大会を「グランツール」と呼ぶ。今回は、そのグランツールについて詳しく説明してみたいと思う。

21日間・総距離3500kmの過酷な戦い

グランツールに位置づけられる大会は、ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン)の3つ。これらの総称を「グランツール」と呼ぶほか、日本語では「三大ツール」と記すメディアも見られる。

グランツールの呼び方はフランス語から来ていて、グラン(grand)は大きい、ツール(tour)は回遊や一周といった意味を持つ。また、「ジロ(giro)」はイタリア語、「ブエルタ(vuelta)」はスペイン語でそれぞれツールと同じ意味の単語でもある。

ちなみに、関係者同士やファンの間で各大会について話題にするときは、たいてい「ツール」「ジロ」「ブエルタ」と略すので、今後どこかでこれらのレースについて話す機会があれば、各大会の冠だけを述べてみてほしい。それだけで、ロードレース通と思ってもらえるはずだ。

この3大会に共通するのが、開催期間と総走行距離の長さである。現在、競技を統括するUCI(国際自転車競技連合)の規定では、「日程は15日以上23日以内」「競技区間の総走行距離は3500km以内」「会期中2回の休息日を設けること。ただし1回目の休息日は大会8日目以降に設定すること」とされている。

各大会の主催者は異なるものの、この規則に基づいてほぼ共通した大会運営を行っている。レース日数であれば21日間(ブエルタ2020年大会は新型コロナの影響で18日間)とし、総走行距離はおおむね3400km前後、休息日も大会10日目と同15日目を終えたあたりで設けている。

途中2回の休息日があるとはいえ、21日間、つまりは3週間レースを続けなければならず、過酷さは日を追うごとに増していく。また、UCI規定における最大の3500kmを平均すると各日166kmほどを走っている計算。とはいっても、日によっては250km近く走ることもあるなど、21日間の中でレース距離は長短の変化がなされる。そのあたりは、大会を盛り上げたい主催者の腕の見せどころでもある。

そうした中でよい成績を収めるためには、平地・山岳・タイムトライアルといった、要求される能力が異なる種目で総合的な実力を発揮することが絶対条件。この3大会に関しては、他のステージレースと比較してもタフな戦いとなるので、優勝はもとより3週間を完走することだけでも大きな名誉だ。出場チームすべてがベストメンバーを組んで臨むが、チーム内選考を勝ち抜くことは一流選手の証とされる。

最高栄誉の個人総合時間賞、過去にはシーズン2冠も

ステージレースではいくつもの特別賞が設けられ、選手は実力や脚質(走りの特徴)に応じて目標とする賞に向かって走っていく(選手個人またはチームの事情などで特別賞を狙わない選手も多数存在する)。日によって各賞のトップが入れ替わったり、伏兵が突如賞レースをにぎわせたりと、思いもよらない展開になることもこれらレースの魅力である。

とりわけグランツールでの受賞はキャリアを通しての栄光で、なかには自国で生涯年金を付与されるなど人生が劇的に変わった選手もいる。

特別賞はおおむね、以下の4つで構成される。各賞トップの選手は翌日のレースで「リーダージャージ」と呼ばれる、その賞を表すジャージ(ウエア)を着用して走ることが義務付けられている。

グランツールの特別賞


ほかにも、その大会独自の賞が設けられたりと、主催者や大会スポンサーの裁量であらゆる特典が用意される。

特別賞の中でも最高栄誉なのが、「個人総合時間賞」。いわば、大会の頂点である。3週間の戦いを制することは、自転車ロードレース界のトップに君臨していることを意味する。

自転車ロードレースの長い歴史で、グランツール全制覇を成し遂げているのは7人。そのうち、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)とクリストファー・フルーム(イギリス)は現役のトップライダーとして今なお活躍中だ。

また、同一シーズンに2つのグランツールに勝つことを「ダブルツール」といい、これは13人が達成。現役選手ではフルームが2017年にツールとブエルタを制している。

グランツール全制覇とダブルツール、どちらも顕著な記録といえるが、現在のロードレースシーンではダブルツールを達成する方が難しいとの考え方が強い。理由としてレーススケジュールのタイトさが挙げられ、グランツールだけ見てもジロが5月、ツールが6月下旬から7月中旬、ブエルタが8月中旬から9月上旬に例年開催されており、レーススピードの向上や多様化する戦術の中で連戦することは体力的に非常に厳しいというのがもっぱらの見方だ。

それもあり、近年はトップ選手の大多数が3大会のうちどれか1つに集中する傾向で、グランツール以外のレースを捨ててでも目標に全神経を使うスタンスが基本となっている。フルーム以来となるダブルツールは、当面見られることはなさそうだ。

日本人選手も多数出場、完走は当たり前のレベルに

自転車ロードレース界最高レベルの選手たちが集うグランツールだが、このところは日本人選手が出場し、完走を果たすことも当たり前になってきた。

3大会のうち、これまで日本人選手が多く出場したのがジロ。9選手がスタートラインにつき、現在も一線級で活躍する別府史之は出場した4回すべてで完走。新城幸也も3回出場していずれも最後まで走り切っている。

ツールには4選手が出場。この大会では新城の活躍が際立っており、7回出場しすべて完走。初出場だった2009年大会では、第2ステージ(大会2日目)で5位に入り、「ロードレース後進国の日本から新星が現れた」と世界に衝撃を与えた。

ブエルタは、2016年の新城と別府以来、日本人選手の出場はないが、2011年と2012年には土井雪広が当時世界ナンバーワンスプリンターといわれたマルセル・キッテルのサポート役として大きな注目を集めた。

ジロ2021年大会が5月8日開幕

2021年シーズンのグランツールが、いよいよ幕を開ける。

第104回のジロ・デ・イタリアが5月8日にスタートする。今大会は総距離3479.9kmで、3週間をかけてイタリア各地をめぐる。大会後半にはアルプスの山々を走るコースが複数設定され、王者の証である個人総合時間賞をかけた争いが活性化する。

ジロ・デ・イタリア2020年大会の山岳での争い

ⒸRCS


また、勝負が最後の最後までもつれることが多いのもジロの特徴。ここ10年で3回、大会最終日での大逆転が生まれている。同国北部の大都市・ミラノが最終目的地となるのが慣例(例外もある)で、中心部のドゥオーモ(大聖堂)に到達したとき、誰が王座を戴冠するのかが見ものである。

なお、今大会には新城が4度目の出場を果たす。彼が所属するチーム「バーレーン・ヴィクトリアス」には、個人総合優勝候補のミケル・ランダ(スペイン)が控えており、そのサポートという大役を新城が任されることになっている。

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