社長の一存でスポンサー企業に?
ツール・ド・フランスを頂点に、世界各地で大小さまざまな大会が開催される自転車ロードレース。新型コロナウイルス感染拡大によって、しばらくの間レースの開催延期・中止が相次いだが、ここへきてようやく、本場ヨーロッパでは通常開催に近い状況まで戻ってきた。
ツールをはじめとするロードレース界最高峰の大会がラインナップされるトップディビジョン「UCIワールドツアー」は、国際規定により選ばれた19チームに自動出場の権利が与えられている。
これらチームを支えているのは、スポンサー企業が投資する活動資金である。その額は日本円にして数十億円にのぼり、世界のトップを行く19チームに限れば、年間の活動費は10億円では足りないといわれている。
各チームの資金額ならびにその内訳に関しては公表義務がないため、具体的な金額はほとんど明らかにされていないが、活動費の8割が人件費に充てられていると見られる。チームのほとんどが30人近くの選手を抱えており、1人でも年俸が1億円を超える選手が所属しているとなれば、必要なお金がかさんでくる。
また、選手にとどまらず、チームを指揮する監督や、自転車を整備するメカニック、選手の体のケアを行うマッサージャー、さらには広報担当など専門スタッフも多数在籍するため、彼らへ支払う給与もここに含まれてくる。
残る2割は、レース出場時の宿泊費や開催地への移動費が主だ。UCIワールドツアーはヨーロッパだけでなく、中東やオーストラリアでもレースが開催されるため、シーズンによっては宿泊費だけで年間1億円を超えることもあるという。レースによっては、招集される選手・スタッフだけで30人近くなるチームもあり、その宿泊費用や移動費を考えると、1回の遠征でも多額のお金が必要になってくる。
どのチームも数社から支払われるスポンサーマネーによってチームを動かしていくのだが、その中でも「タイトルスポンサー」と呼ばれる自社名をチームの冠とする企業からの資金が大部分を占める。彼らの目的は、世界トップクラスのチーム力や影響力を利用して広告効果を生み出し、自社の業績アップや組織の士気高揚を図るところにある。
ただ、かかる費用を上回るだけの効果は自転車ロードレースにはないのが実情。サッカーのようにスタジアムの入場料や放映権分配といったシステムがこの競技にはないため、チームは活動資金をスポンサー企業へと求める一方なのだ。こうなると、企業側としても支払うばかりになってしまう。
それでも、このスポーツに資金を投じる企業があるのは、競技に対する愛情から来るところが大きい。自転車ロードレースが大好きな社長が、「好きだから」という一個人の一存だけで決めているケースが実際のところ多いのである。
過酷さの割に他のメジャースポーツより低い平均年俸
では、選手たちがどの程度稼いでいるのか見てみよう。
まず大前提として、競技を統括するUCI(国際自転車競技連合)によって自転車ロードレース選手の最低年俸が定められている。トップディビジョンを走るチームに所属している選手は、正規雇用の場合は4万45ユーロ(日本円約522万円)、個人事業主の場合は6万5673ユーロ(約856万円)となっている。
他競技の平均年俸を例にとると、NHL(北米アイスホッケーリーグ)で約3.3億円、サッカー・イングランドプレミアリーグで約3.7億円、MLB(メジャーリーグベースボール)で約4.9億円、NBA(北米バスケットボールリーグ)で約7.6億円。
こう見ると、過酷な舞台で戦う自転車ロードレース選手の賃金の低さが目立つ。心情的にはもっと高い給与が払われてもよいのでは、と思うところだが、前述のように限られた資金の中から人件費が賄われれていることを考えると、致し方ないことなのかもしれない。
選手の年俸に関しては、他競技同様に選手の実績や経験、近年の成績などを元に決められる。
現在、最も稼いでいる自転車ロードレース選手は、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の約7億2千万円。世界王者になること3回、さらには数々の格式高いレースを勝ってきたロードレース界のスーパースターであり、ナンバーワンの高給取りにふさわしい選手である。
ちなみに、昨年のツール・ド・フランスを制したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)の年俸は、約2億6千万円とされる。「ツールの頂点に立つくらいならもっともらっていても良いのでは?」と思われるところだが、プロ3年目の22歳であることから、キャリアの長い選手たちより金額が低く設定されていると見るのが自然である。
参考までに、現在トップシーンで活躍する選手の年俸ベスト20をまとめておく。
レースで獲得した賞金はチーム内で分配
選手やスタッフにとって、大会ごとに設定される賞金も重要な収入源である。
賞金額は大会によって異なるが、最高峰のツール・ド・フランスであれば賞金総額は約230万ユーロ(約3億円)。競技の特性上、さまざまな賞が設けられているが、やはり個人総合優勝が最も高く、45万ユーロ(約5900万円)が支払われる。2位以下も順位ごとに賞金額が設定されており、91位以下は完走できれば400ユーロ(約5万円)となっている。
そのほか、ステージ優勝(各日のレースで1着となった選手)には1万1千ユーロ(約143万円)や、各日の個人総合首位(初日からの総タイムでトップ)の選手には350ユーロ(約4万5千円)といった設定も。昨年のツールでは、個人総合優勝したポガチャル擁するUAE・チームエミレーツが総額にして62万3930ユーロ(約8千万円)を獲得している。
レースで獲得した賞金をチーム内でいかにして分配するのかも気になるところ。これは選手とチームとの契約内容にもよるが、基本的には各選手の順位にかかわらずメンバー間で均等に分配されることが多いよう。また、選手獲得分の数割がチームスタッフにも支払われるのが通例だ。
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