新人特別賞を受賞した佐藤輝明
2022年はトラ年だ。プロ野球セ・リーグでは阪神タイガースの17年ぶりの優勝に期待がかかる。2021年はヤクルトとゲーム差なしの2位という歴史的接戦で優勝を逃しただけに、ファンの思いも募っている。
明るい材料はそろっている。20年ドラフトで入団したルーキー3人が新人特別賞を受賞する活躍。その中でドラフト1位の佐藤輝明内野手(22)が球界に与えたインパクトはすさまじかった。前半戦だけで20本塁打(最終的に24本)。新人王どころか打撃タイトルの期待も高まったが、後半は極端に失速。セ・リーグワーストの59打席連続ノーヒットという記録まで作り、キバの抜けた虎となってしまった。
体の不調も少なからずあったようだが、その“大記録”には、逆に大きな可能性が含まれているような気がしてならない。
佐藤は決して天然素材ではない。近大1年時から名門の主力を任され、2年で日本代表候補に選出されるなど順風満帆。一見華やかではあるが、人知れず苦労と向き合い、そのたび成長してきた。
「ドラ1でプロに行かせる」田中監督の決意
3年春に右肘を故障。3年秋は打率1割8分8厘まで落ち込んだ。4年間のうち、この1年間は最も苦しんだ。打席で表情を曇らせることが多くなった。奈良・生駒にある近大グラウンドを訪れると、薄暗い室内練習場にいつも1人でいた。鏡の前でスイングを繰り返しては首をひねった。
元来、誰よりも打撃が好きな男だ。大学の1学年上には当時のドラフト候補、谷川刀麻外野手(現東芝)がいた。同じ左打ちのスラッガー。共通の趣味は動画サイトでメジャーリーガーの打撃フォームを見ること。佐藤のお気に入りはブライス・ハーパーだった。寮の部屋で、2人は強打者たちの動画を見ながら打撃談義に花を咲かせた。
ちょうどフライボール革命や、バレルゾーン(打球が遠くに飛ぶ角度や速さ)といったキャッチーな言葉が日本球界にも広まりつつあったころ。谷川も後輩に負けじと、大柄ではない体をめいいっぱい使ったスイングを追い求めた。
そんな2人を見て苦笑いしていたのは近大の田中秀昌監督。「もうちょっとなんとかならんのかな…」。大物打ちを狙うような佐藤のスイングは、ここぞで相手の嫌がる一打を出しにくくもあった。もちろん佐藤の一打で勝った試合も多かったが、監督として、主砲には高いレベルの対応力、柔軟性を身につけてほしかった。「あいつは絶対にドラフト1位でプロに行かせる」という自らの目標もあった。
努力家で研究熱心
このころの佐藤は変化球対応に悩まされていた。特に落ちるボールにバットが止まらず、凡退するケースが増えた。リーグ戦ごとに「5本塁打」の目標を立てていたことで「打撃が崩れている」と自己分析もしていた。大学レベルの攻めに苦しむならプロで成功するのは到底難しい。
しかし、田中監督はスイングに手をつけなかった。「飛距離は今まで見た中で1番。こんな選手はいない」とスケール感を削らず、可能性を信じた。佐藤がチーム屈指の努力家であり、研究を怠らない選手であることも分かっていた。監督の期待通り、スイングは次第に洗練され、プロ入りに合わせてマイナーチェンジ。それは前半戦の結果にも表れた。
落差の大きすぎるプロ1年目だった。後半戦の大失速の要因は、もちろん佐藤も阪神球団も解明に努めている。ある程度の「答え」は出ているはずだ。あとは、実際にどこまで対応してくるか。トラ年の躍進が今から楽しみだ。
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