7月以降は打率.177と急降下した佐藤輝明
開幕からの戦いぶりに虎党が歓喜した2021年。早くも関西ローカル局では6月下旬に「あかん阪神優勝してまう」と題された特番が組まれるなど、浮かれムードだった。だが、結果はV逸。それも宿敵・巨人ではなく伏兵・ヤクルトに優勝をさらわれる悔しすぎる結末となった。
後半戦を迎えた時点では阪神と巨人のマッチレースとなる見方が大半だった。両軍ともに戦力的にヤクルトより優位だとする評論家の意見も多かった。
だが、巨人は最終盤に黒星が増え、優勝戦線から脱落。阪神は驚異的な強さを見せたヤクルトと最後まで競り合ったが、両リーグ最多の77勝を挙げながら、ゲーム差なしで2位という何とも理不尽な結末となった。
V逸の原因をルーキーに押し付けることは絶対に有り得ないが、佐藤輝明の失速は痛かった。開幕から6月まで267打数73安打、19本塁打の打率.273だったのが、7月以降は158打数28安打、5本塁打で打率177。9月には2軍落ちも経験した。さらに59打席連続無安打という、投手を含めたセ・リーグのワースト記録も樹立してしまう。
のちに6月後半から左膝に痛みを抱えていたことが判明するが、不振に陥った期間の起用法で世論がざわついた時期もあった。SNS上では虎党の首脳陣批判などにもつながり、ファン同士の論争も勃発した。それだけ佐藤輝の存在が大きいことが浮き彫りになった。
中村紀洋氏が予言していた「プロの壁」
佐藤輝に対しては、中日の打撃コーチに就任する前の中村紀洋氏が気になる発言を残していた。
「久しぶりに見ていて面白いバッター。テレビで試合をチェックしていても、次の打席が気になってしまうんよね。ものすごくいいものを持っているのは確かだけど弱点もある。プロはもうそれを見抜いていると思う。カベはいずれくるよ。それは今年中かもしれないし、来年か、その先かも分からない。その先は騙し合いよ」
言葉通りに今年にあたる2021年にカベを経験した。その後は佐藤輝自身がどう克服し、騙し合いを制していくか。本来は佐藤輝よりも、大山悠輔やマルテ、サンズら主軸の打撃を分析すべきだが、虎党の関心は佐藤輝にあるだろう。阪神優勝のため、より佐藤輝の力を生かすべきなのは誰が見ても明らかだ。
3勝4ホールドに終わった藤浪晋太郎
投手では藤浪晋太郎をキーマンに挙げる。こちらも本来、先発であれば西勇輝の後釜や、スアレスの抜けた守護神の座を論ずるべきかもしれない。だが、あえて藤浪だ。たらればはないが、藤浪がそのポテンシャル通りの活躍をしていれば、2021年の阪神は間違いなく優勝していたはずだからだ。
ここ数年、毎年、今シーズンこそはと期待を受け続けている。特に2021年は開幕投手に抜擢され先発ローテーション投手として、シーズンのスタートを切った。誰しもかつての姿に完全に戻るとまでは期待はしていなかったものの、5割でも6割でもいいと思ったはずだ。
優しい期待を持って見守ったのだが、21試合に登板し6度の先発、3勝3敗4ホールド、防御率5.21の数字は寂しい限りだった。
最終盤の優勝戦線では藤浪は戦力になれていなかったというのが現実だった。197センチの長身から160キロを超える豪球を繰り出す規格外の投手なのにも関わらずだ。投手は打者を抑えてなんぼの仕事。その現実が虚しい。オフには巨人のエース・菅野智之と志願の合同自主トレに臨むが、どれだけそのエッセンスを盗むことができるだろうか。
藤浪を立て直せる指導者は?
ある阪神OBはこう語る。
「藤浪の復活はチームの不沈に関わる大きな課題。それを誰もが分かっているはず。だが、藤浪の出す結果の責任を背負うつもりで、寄り添って使命を果たそうとする指導者が存在するかといえばどうでしょう。課題が分かっていても、どうしても目立つ存在の藤浪を大きく変える勇気を持てる人材が今の阪神にいるかどうかは疑問です」
人気球団の性(さが)と表現すればいいのか。思い切った試みが裏目に出ることを恐れ、事勿れの空気が存在することも事実。もちろん、状況打破するのは藤浪本人に他ならないが、まだ27歳の若者。阪神の歴史を変えるかもしれない逸材を生かすも殺すも、球団フロント、首脳陣の行動にかかっているのだが、責任を背負いたくないのも人の心というものか。
2005年以来のリーグ優勝への条件としては4年連続ワーストの失策数の改善など、課題は数々ある。ただ、2019年の矢野燿大監督就任以来、阪神の成績は伸び続けている。投打の本当の意味の柱を確立することができれば、数年に渡って強い阪神を築くチャンスでもある。
藤浪、佐藤輝の2人は阪神の枠を超えて球界を代表する実力者だ。そこに近本光司、大山、梅野隆太郎や助っ人が加わり、若手では伊藤将司、及川雅貴や西純矢ら投手陣、野手では中野拓夢、井上広大らが成長すれば楽しみなのだが…。
本当の意味での投打の軸と、堅守。これなくしては上を望むことはできない。就任4年目、矢野監督にはV奪回への課題がはっきりと見えているに違いない。
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