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盗塁は数よりも成功率、ランキングで見る「失敗しない走り屋」

2021 8/13 06:00広尾晃
阪神・中野拓夢とロッテ・岡大海,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

変化した盗塁への考え方

盗塁は19世紀からある古いルールであり、野球にスピード感を加味する魅力的なプレーではあるが、セイバーメトリクス的な評価は高くない。

成功すればチャンスを広げることができるが、失敗すればアウトカウントは1つ増える上に走者もいなくなる。「成功した時より失敗の損失が大きい」とされるので、成功率が低い選手はすべきではないとされる。

だが、日本のプロ野球では長らく「積極走塁」が評価され、失敗を恐れず走ることが良いとされた。1950年代の南海ホークスは「100万ドルの内野陣」で売り出したが、走塁も売りで、1952年などは20盗塁以上が5人、10盗塁以上は8人もいた。

ただ、その一人、堀井数男は23盗塁17盗塁刺、成功率は.575の低さだった。この年のチーム総計では121試合で239盗塁。2020年の12球団最多盗塁は120試合でソフトバンクの99盗塁だから、盗塁に関する基本的な考え方が今と違うことがわかる。

NPBの通算盗塁数ランキングと盗塁成功率は以下の通り。

NPB通算盗塁数ランキング


1位は阪急全盛時代のリードオフマン、福本豊。空前の1000盗塁を記録した。2位は「韋駄天」南海の伝統を継いだ広瀬叔功。福本に抜かれるまでNPB記録保持者だった。3位はV9巨人のリードオフマン、柴田勲。4位の木塚忠助は南海の「100万ドルの内野陣」の遊撃手。5位の高橋慶彦は33試合連続安打も記録した広島の一番打者だ。

10人のうち、平成時代にデビューしたのは9位タイの赤星憲広だけ。盗塁に関しては昭和時代が全盛期だったことが分かる。

なお、日本プロ野球は1941年まで「盗塁刺」を記録していなかったため、9位タイの呉昌征ら、それ以前にデビューした選手は盗塁成功率を算出できない。

盗塁成功率1位は日本ハム・西川遥輝

盗塁成功率で見るとランキングは一変する。NPBで200盗塁以上を記録した選手の盗塁成功率ランキングが下の表だ。

NPB盗塁成功率ランキング


10人のうち6人が平成以降のデビュー、平成以降は「盗塁は成功率が重要」という価値観が浸透したと言ってもいいだろう。

盗塁成功率1位は、日本ハムの西川遥輝。唯一.850を超えている。2位は巨人の「走りのスペシャリスト」鈴木尚広。歴代2位の通算596盗塁をマークした広瀬叔功は3位。広瀬は「数字を稼ぐための盗塁はしない。チームの勝ちに結び付く状況でのみ確実に塁を盗む」というポリシーを持っていたが、それを裏付ける数字だ。

ロッテの荻野貴司は成功率.828で4位。盗塁数1位の福本豊は成功率では10位となっている。

なお、イチローはNPBでは通算199盗塁だが、盗塁刺はわずか33。盗塁成功率は.858となり、西川を上回っている。また、ヤクルトの山田哲人も179盗塁、29盗塁刺、成功率.861と高く、近い将来ランキングに入ってくるだろう。

ざっくり言えば、現代のプロ野球で盗塁成功率は8割程度は欲しいところだ。

今季1位はセが阪神・中野拓夢、パがロッテ・岡大海

では今季前半戦で盗塁企図数10以上の選手の盗塁成功率ランキングをリーグ別に見ていこう。

セ・リーグ盗塁成功率ランキング


セ・リーグでは新人で正遊撃手に抜擢された阪神の中野拓夢が、17回試みて失敗1回と高い成功率を誇る。今季初めてレギュラーになったヤクルトの塩見泰隆ともども、新鋭が上位に来る。

今季前半戦の盗塁数1位は、ヤクルトの塩見と阪神の近本光司の17だ。近本はルーキーイヤーの2019年から2年連続盗塁王。今季も3年連続をうかがう勢いだが、盗塁成功率で見ると

 2019年 率 .706 36盗15盗刺
 2020年 率 .795 31盗8盗刺
 2021年 率 .739 17盗6盗刺

と必ずしも高くない。アウトになっても走らせるのはチームの方針だと思われるが、盗塁王のタイトルをとっても貢献度はそこまで高くないと言えるかもしれない。

パ・リーグ盗塁成功率ランキング


パ・リーグは、ロッテの岡大海が10回走って失敗なしで成功率10割。岡は日本ハム時代も含めて8年の実働で通算76盗塁とそれほど走る選手ではないが、失敗は13だけ。成功率.854と極めて高い。信頼のおける走者だと言える。同僚の和田康士朗は育成上がりの走り屋だが、成功率は極めて高い。

現在、リーグの盗塁王は西武の新人・若林楽人の20盗塁だが、盗塁刺は8、成功率は.714と物足りない。試合を見ていてもやや強引に走るケースが目立った。

昨年の盗塁王はソフトバンクの周東佑京。50盗塁の大台に乗せた上に盗塁刺わずかに6、成功率は.893という高率だった。しかし今季はバッテリーのマークがきつくなり、4盗塁刺を喫している。周東は6月中旬に右手人差し指を骨折して戦線離脱。エキシビションマッチで一軍復帰しており、後半戦で盛り返したいところだろう。

また盗塁成功率歴代1位の西川遥輝は、今季は11盗塁に対し盗塁刺5、成功率.688と信じられない数字になっている。野球界には「足にスランプなし」という言葉があるが、そうではないのだろうか。

巨人の鈴木尚広が現役の頃、試合終盤で原辰徳監督が「代走鈴木」を球審に告げると相手バッテリーに緊張が走ったものだ。鈴木はほぼ確実に次の塁を陥れる。出場する時間は短いが、ゲームチェンジャーとして相手チームの脅威になっていたのだ。

盗塁も単なる積み上げの数字としてではなく、成功率も加味して観ることで新しい面白さが見えてくるのではないだろうか。

※成績は2021年8月12日現在

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