「走塁のスペシャリスト」から「盗塁王」となるために必要なものとは
近年、プロ野球界では「走塁のスペシャリスト」たちが存在感を増しつつある。各球団ともドラフトの一枠を使い、候補選手を指名することも増えてきた。
その代表格と言えば、ソフトバンクの周東佑京の名がいの一番に挙がるだろう。2017年育成2位でプロ入りすると、2019年に支配下契約を掴み、主に代走としてチームの日本一、侍ジャパンの世界一に大きく貢献。2020年には盗塁王に輝いた、今をときめくスピードスターだ。
ロッテの和田康士朗も、高校野球未経験という異色の経歴から育成でプロ入りし、3年目の2020年には23盗塁をマークした。今後の成長が期待される一人だが、一足先にブレイクを果たした周東との違いの一つに、打力が挙げられる。「走塁のスペシャリスト」から「盗塁王」になるために必要なものを考えてみたい。
盗塁王に求められる打撃成績
かつて「世界の盗塁王」と呼ばれ通算1065盗塁を記録した福本豊は、盗塁のコツなどを聞かれた際に「塁に出ること」と答えたという。その言葉通り、福本は実働20年間で通算2401試合に出場、2543安打、打率.291、出塁率.379と、とにかく塁に出た。さらに208本塁打、長打率.440と長打力も備える強打者だったのだ。
ここで、過去10年間の主な盗塁王の打撃成績を見てみよう。
近年はいわゆる「俊足巧打」タイプの選手が多い印象もあるが、平均をとると打率.282、出塁率.362、長打率.405となっており、打者としても優秀な成績が並ぶ。3度のトリプルスリーを達成した山田哲人の長打力は別格としても、盗塁王をとるには打者として優秀な成績を収め、レギュラーとして試合に出る必要があるのだ。
2020年の周東や、2011年の藤村大介(巨人)のように規定打席未到達でタイトルを獲得した例もあるが、2人とも充分な出場機会を得ていた。
スペシャリストと盗塁王の分かれ目
2019年の周東は102試合、2020年の和田は71試合に出場したが、主に代走での出場で、盗塁を企図する機会自体が少なかった。しかし2020年に打力を向上させた周東は、盗塁するチャンスを飛躍的に増やしたことがタイトル獲得に繋がった。
2000~2010年代には巨人の鈴木尚広が「代走のスペシャリスト」として活躍したが、当然鈴木も若手の頃はレギュラー争いをする一人だった。7年目の2003年に104試合に出場したが、打率.225とレギュラー定着はならず。2008年には105試合で打率.304をマークしたが、途中出場や代走も多く、30盗塁でタイトル獲得には至らなかった。
ちなみに、この年の盗塁王は自身初の規定打席に到達し、打率.320をマークしたヤクルトの福地寿樹(42盗塁)だった。福地も広島時代から走力に定評のある選手だったが、打撃を磨いて2年連続の盗塁王に輝いた。レギュラーとして試合に出続けることができたかどうかが、タイトル獲得の分かれ目だったと言える。
台頭著しい新世代のスピードスターたち
冒頭でも述べたように、近年は「走塁のスペシャリスト」候補をドラフトで指名したり、積極的に育成したりする球団が増えてきた。今シーズンはその候補として、ヤクルトの並木秀尊や中日の髙松渡、DeNAの宮本秀明らの名前が挙がる。
いずれもここまでに盗塁をマークしているが、打力でのアピールはなかなかできていない。まずは代走枠のポジションを掴み取り、レギュラー獲り、盗塁王への足掛かりとしたいところだ。
和田もここまで3盗塁をマークし、存在感を発揮している。打席数は少ないながらも打率5割とバットでも成長の兆しを見せており、ここからレギュラーを奪い取って昨年の周東のようにブレイクの年とできるか。
また、代走枠を飛び越えての盗塁王争いに名乗りを挙げたのが、西武の若林楽人、ヤクルトの塩見泰隆だ。ルーキーの若林は既に10盗塁でパ・リーグトップ。4年目の塩見は、セ・リーグ2位の6盗塁をマークしている。もし盗塁王を獲得すれば、いずれも初のタイトル。新世代のスピードスター誕生となるだろうか。
近年の野球界では、一発や長打で得点を狙うことが増えてきた。それが効率的だということもあるし、何より本塁打は野球の華だ。多いに越したことはない。しかし、そういったパワー野球全盛の今だからこそ、盗塁のような一瞬の勝負、プロの技やスピードに熱狂したいのだ。彼らにはそんな熱狂を生むような、魅力溢れる盗塁王になってもらいたい。
※成績は4月29日終了時点
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