挫折を糧にする方法を教えてくれる
背尾匡徳(以下、背尾):金島社長は高校野球やってて良かったことってなんですか?
金島弘樹(以下、金島):俺はリトルリーグからシニアリーグまでレギュラーだった。高校になるときに最初、東海大仰星から声かかって、友達は行ったんだけど文武両道だから偏差値も高い。もともと65以上あった偏差値が、野球ばかりやりすぎて調子に乗ってたらがっつり下がった。野球でも練習でケガしてしまって、その状態でセレクション受けに行ったら全然ダメだった。
もう心が折れてもうて、家から近い商大(大阪商業大学高校)に行ったけど、シニアの取り組み方と商大の取り組み方があまりにも違って。なにより練習中に監督が寝ていたことでモチベーション下がってしまいましたね。それで、最後の夏、僕はベンチにも入れなかった。
ただ、振り返って自分自身について反省したことはその後も活きましたね。先輩からのしごきもそこからの切り返し方とか生きる術として交渉、折衝にも役立ちました。
かみじょうたけし(以下、かみじょう):僕は高校野球までやってないですけど、なにを教えてくれるのかなって考えてみると、先程話にでてきた挫折を糧にする方法を教えてもらえるところなのかなと。
最後まで負けへんチームって1チームしかないじゃないですか。最後まで負けへんって思っても、そこに行くまでにレギュラーになれるかとか、オレは4番張ろうと思ってたけど、結局6番で4番の奴に負けたとか、全部挫折じゃないですか。
勝ち続けた人は、それはそれでいいんでしょうけど、(ほとんどの人が)何らかの挫折を味わうんだろうと思います。そこを腐ってしまうんじゃなくて、そこも引き受けて真剣に声出してやってる子とかみていたら、もし僕が会社経営してたらエースで4番よりもこっちの子をとるな、なんて視点でもみますね。
挫折っていう負けを知ってから自分で考えて。人間が伸びるところはそこからですよね。高校野球はそこを教えてくれるところなのかなって思います。
金島:僕も甲子園での挫折を経験したかったですね。冠試合の始球式でしか投げてないんですよね、阪神の。
ダース・ローマシュ匡(以下、ダース):そっちのほうが少ないんじゃないですか?笑
金島:挫折のレベルがあるじゃないですか。高いところを目指して一生懸命やったから悔しい、と。僕の場合はそこまで一生懸命やるところすらできなかったのが悔しいですね。だから、そこ(甲子園)まで行った人は羨ましいですね。
背尾:挫折でいうと僕は甲子園に出て、挫折しましたね。
かみじょう:凄い奴見てってことですか。
背尾:そうです。上には上がなんぼでもおるなって……。
金島:プロ目指してた?
背尾:目指してましたね。あまり人には言いませんが、正直甲子園に出るまでは頑張ったらいけると思ってました(笑) どちらかというと打つ方だったので、それなりに打てばいけるだろうと。特にそれなりの環境で野球やってると、ピッチャーでもバッターでもこいつすげぇなという同級生にはなかなか出会わないんですよ。それが甲子園にはうじゃうじゃいるので(笑) それである意味区切りはつきましたね。
ダース:そうですね、同級生とかでもなかなかいない。3、4人ほんまにやばいという人がいたりする。こいつは100%プロいくだろうな、という人がいる。
金島:その年でいう凄い3人って、甲子園含めて誰になる?
ダース:田中将大(ヤンキース)、斎藤佑樹(北海道日本ハムファイターズ)、前田健太(ドジャース)。
金島:あー、そうか。

友達と同じことができないのが嫌だった
ダース:僕、春まではドラ1候補だったんですよ。2年生の秋、神宮大会で準優勝した。田中将大の次じゃないですか。で、自分の上は田中しかいないと思ってたんですよ。で、一生懸命がんばってたら怪我したんですよ。春の大会でテーピングぐるぐる巻きにされて、こんなん投げられへんやんというくらい。
それで投げさせられて、坂本勇人(巨人)がいた光星学院(青森)に勝って、次早稲田に負けて、そっからずっと投げてないんですけど、(実戦で)自分の評価見れてないじゃないですか。ネットで一生懸命見てたら秋までドラフト1位候補やったのが、もう入ってないんですよ。
高校生だからドラ1だったらどうする?車何台買っちゃう?なんて調子に乗って友達と冗談言ってたのに、気づいたら誰もその話をしなくなってて。
同級生の上田剛史(ヤクルト)がぽんっと上がってきた。でも上田は自分も周りも気にするタイプじゃなくって、いい意味でアホというか。周りがおまえドラ1じゃが〜!と言っても気にしないし、自慢もしない裏表のない奴だった。そういう上田が羨ましくもあった。
甲子園4回出たんで自転車乗ってても「ダースや!ダースがチャリンコ漕いでる!」って声かけられるじゃないですか。周りの目があるから自転車でも赤信号もちゃんと待つんですけど、一緒に遊んでる高校の友達は行ってしまう。そこで違うんだなと感じてしまうのが、それが嫌でしたね。
自分が特別やとかじゃなくて、高校生だったからみんなと同じことしたかったんで。だから自分は人と違うんだ、という意識もありましたね。
関西高校の江浦監督がスカウトしてくれて1回面談したんですが、高校どうすんねんって言われたときに、まだわからないですというと、俺を甲子園連れてってほしいといわれて、僕が5回絶対連れていきますって約束したんです。でも5回ってなかなか行けないですよね。で、僕が(1年の夏)ベンチ入ってなくて、決勝で負けて行けなかったんですよ。そこから「ああ、1回分嘘ついてしまった」と火がつきました。
僕の父もそういうこと覚えてるんです。インド人だからかわからないですが、言った言葉をすべて覚えていたので「おまえ絶対叶えなあかんぞ!」と叱られましたね。
そこからはとにかく練習しました。学校が終わって練習が始まるのが15時半くらい、そこから21時22時まで練習があるんですが、家帰ってご飯食べて、そこからさらに2、3時間ひとりで素振りしたり、縄跳びをしたりしていました。「絶対に負けたくない、絶対に甲子園行かなあかん」という使命感に追われていましたね。

高校野球には魔法がある
金島:それは1年生のときから?
ダース:そうですね、1年のときはベンチにも入れなくて甲子園も行けなくて、そこからでしたね。あと4回絶対連れていくと。僕、県大会とか中国大会とかめっちゃ成績いいんですよ、でも甲子園では全然ダメでしたね。笑
一同:笑
かみじょう:2年夏、3年春、3年夏とぜんぶ劇的な試合じゃないですか。あんな試合ないっすよね。
ダース:京都外大西戦もやばいです。僕3回か4回くらいから投げて、ずっとロングリリーフで抑えてたんです。8回につかまって9回逆転されるんですよ。それまでなんやったんやと。
かみじょう:6点差くらいあったんですよ、それまで。そこから外大打線が止まらなくなりましたよね。
金島:高校生ってそういうときない?1回集中したら火がつくみたいな。あれってチームワークなんやろうな。プロとはちょっと違うところあるよね。
かみじょう:焦り始めてんねんな、というのも感じましたよ。投げても目に見えないエラー、送球が逸れたりとかそういうのもありましたね。
ダース:それまではまったく逆だったんですよ。バントしたらエラーする、振ったらポテンヒット。そんなんで繋いで繋いで10点までいったんですけど、いきなりそれがガラッと変わって。
金島:勝利の女神がそっちにいったんやな。
かみじょう:高校生や中学生って魔法にかかったように、監督の言葉だったり、術中にはまるじゃないですか。ありえないところから逆転したりとかそういう魔法があんねんなあと。
ダース:ありましたね。魔法にかかって、負けてても逆転するとか、あり得ないところからひっくり返ったりとか、そういうのはありました。
〜 第4弾「10年経っても話題になるぐらい目立ってほしい」に続く