真夏の過密日程で熱中症のリスク増大
新型コロナウイルスの影響で学校が休校になっていることに伴い、「9月入学・新学期」案が浮上し、議論を呼んでいる。世界的には9月入学が大勢を占めており、この機会に日本も変更すべきという意見も多い。まだ実現性は不透明だが、仮に変更された場合、スポーツ界にも少なからず影響が出るのは必至だ。
高校野球の夏の甲子園はどうなるだろうか。例年なら早い地区では6月から地方大会が始まり、8月に甲子園で全国選手権が開かれるが、9月入学になると、大学を目指す3年生は受験勉強の追い込み時期と重なるし、就職する3年生も就活に差し支える可能性がある。
大多数の高校は、2年生と1年生でチームを編成することになるだろうが、一部の強豪校は3年生が卒業間際までプレーし、より実力差が広がるかも知れない。1年で大きく伸びる成長期の高校生の場合、3年生主体のチームと2年生主体のチームが戦うことに不公平感も生まれそうだ。
それなら甲子園を秋開催にしてはどうだろうか。毎年のように問題になるのが、真夏の酷暑の中、過密日程で試合をするリスクだ。梅雨明けから8月にかけての暑さは年々厳しくなっており、グラウンドの選手だけでなく、スタンドで応援する生徒や観戦するファンが熱中症で倒れる例も増えている。
甲子園を9月か10月の開催にすれば、そのリスクは減るし、地方大会は夏休みに入ってから行えるため、休養日を多く設けて連戦を避けることができる。「秋の甲子園」を新3年生による初めての全国大会として開催するのが、ベターではないだろうか。
ネックは阪神が甲子園を明け渡すか
ただ、ここで問題になるのが甲子園球場の使用可否。甲子園は阪神タイガースのホームグラウンドのため、シーズンが佳境に入る時期やクライマックスシリーズ、日本シリーズが開催される時期に、高校野球に明け渡すのは現実的には困難だろう。
京セラドームができてからは「超」のつくような長期遠征はなくなったが、それでも高校野球の期間中は「死のロード」と言われ、毎年、チームの成績は芳しくない。
仮に「死のロード」が9月に移行し、阪神が優勝争いをしていたらどうなるか。雌雄を決する天王山の戦いがことごとくビジターゲームとなり、不利になることは否めない。それを覚悟の上で、阪神球団が高校球児のために甲子園球場を明け渡すかどうかは、「秋の甲子園」実現への最大のネックと言えるだろう。
選抜大会も時期をずらす?
もうひとつは例年3月に開幕する選抜大会だ。現状では秋季大会の成績で選考し、出場校を決めているが、9月入学になれば実施時期などの再考を求められる可能性がある。
仮に「秋の甲子園」が実現すれば、選考材料となる秋季大会を行うことができない。とはいえ、年末年始に全国大会を開催しているサッカーやラグビーと違い、投手以外は運動量の少ない野球は真冬に行うとパフォーマンスが落ち、ケガにつながる危険性がある。
必然的に3月頃に地区大会を行い、5月頃に3年生最後の大会として選抜を開く流れが一番自然なように思える。あるいは選抜と選手権を入れ替え、春に選手権、秋に選抜を開くのもひとつの方法かも知れない。
ただ、当然ながら主催者の思惑もからむ。夏の甲子園は朝日新聞社、選抜大会は毎日新聞社が、高野連とともに主催している。甲子園の存在があまりにも大きくなっているため忘れられがちだが、語弊を恐れずに言えば、甲子園大会は新聞社のイベントのひとつなのだ。大手全国紙の朝日と毎日がお互いの利益ではなく、高校球児や野球界のために手を取り合って歩調を合わせることも必要になるだろう。
ドラフトは高校生&大学生と社会人を分離?
ドラフトの実施時期も問題になってくる。現状は夏の大会を終えた高校生や秋季リーグを戦う大学生がプロ志望届を提出し、10月のドラフト会議で球団が指名。入団合意した選手は翌年1月に入寮し、新人合同自主トレを経て2月の春季キャンプに参加する。
ところが9月入学となると、流れは一変する。指名されても卒業を待ってシーズン途中から合流させることになり、キャンプに参加していないため球団側もいきなり戦力としては使いにくい。そもそも10月の時点では選手として未完成でも、その後、卒業までに大きく伸びる可能性もあるし、逆にケガをするリスクもあり、球団側も指名に慎重にならざるを得ない。
それなら高校生と大学生のドラフトは5月か6月頃に行い、社会人と分離開催にするのも一手だろう。いずれにせよ、9月入学は学生だけではなく、プロ野球界にも影響する。今後どうなっていくのか。推移を見守りたい。
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