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高校野球の球数制限「1週間で500球以内」は妥当なラインか?

2019 11/14 06:00田村崇仁
甲子園球場ⒸSPAIA
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2020年センバツから試行

日本高野連が投手の負担軽減や障害予防を検討するため設置した有識者会議が11月5日に開かれ、来年春の第92回選抜大会(甲子園)から「1人の投手の投球数を1週間で500球以内」に制限する答申案をまとめた。懸案だった「球数制限」を打ち出すことで故障を未然に防ぐ狙いがある。

一方で米大リーグ、カブスのダルビッシュ有投手が自身のツイッターで「1週間に2試合しかない場合、1試合250球投げられる。子供達の体を守ること、一人でも多くの楽しい思い出を作ることを軸に改革を考えてみないか?」と制度の疑問点を挙げ、元大阪府知事の橋下徹氏も「これ、本当に選手ファーストになっているのか? 甲子園開催ファーストになっていないか?」と私見をツイートするなど、早くも賛否が飛び交っている。

3連戦回避、週1日以上の完全休養日導入

日本高野連と都道府県高野連が主催する全ての大会が対象。これ以上投げれば、けがのリスクが高まるとされる日本臨床スポーツ医学会の提言を根拠にしたもので、各チームが準備する期間を設けるため、選抜を含む春季大会から3年間は罰則のない試行期間としてガイドラインを運用する。

骨子ⒸSPAIA

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連投を防ぐために3連戦を回避する日程の設定も明記し、普段の練習から「週1日以上の完全休養日」の導入や積極的な複数投手の育成も盛り込まれた。ただこれにもダルビッシュ投手は「3日連続試合ってそもそもあるの?」と疑問視。答申案では過剰な練習の回避、正しい投球フォームの理解を求め、野球界全体で取り組むべき課題として指導者のライセンス制の検討も呼び掛けている。

吉田輝星は6試合で881球

近年の甲子園を振り返ると、昨夏の第100回記念大会で準優勝した金足農(秋田)は、エースの吉田輝星(日本ハム)が決勝までの全6試合に登板。決勝以外は1人で投げ切り、投球数は賛否を呼ぶ881球に及んだ。

「1週間で500球」のガイドラインを単純に当てはめれば、吉田が2回戦から1週間で投じたのは592球で完全に制限オーバー。2-1で競り勝った準決勝の途中で500球に届いてしまう計算になる。

1998年、夏の甲子園で優勝した「怪物」横浜の松坂大輔(中日)は、PL学園(大阪)との準々決勝で、延長17回を1人で250球を投げ抜いた。準決勝は試合途中からの登板となったが、決勝ではノーヒットノーランで完投し、大会を通して782球を投げている。1週間最大は5試合で643球の計算だ。

主な投手ⒸSPAIA

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2006年夏に「ハンカチ王子」として一世を風靡した早稲田実の斎藤佑樹(日本ハム)も1回戦からほぼ1人でマウンドに立ち、引き分け再試合となった決勝では駒大苫小牧(南北海道)の田中将大(ヤンキース)との投げ合いを制した。斎藤はこの大会で69回、948球を投げて1大会での最多記録となっている。

今回の指針にあてはめると、6日間の5試合で689球を投げており、いずれも途中降板しなければならなかった。

ヒーロー生まれにくい時代に?

今夏の岩手大会では、最速163キロで注目された大船渡の佐々木朗希投手(ロッテ)が決勝で登板を回避し、高校野球界に衝撃を与えたのは記憶に新しい。故障防止を理由に登板しなかったことは物議を醸したが、一石を投じた形だ。球児の将来を考えれば、投球数制限は必然な時代の流れだろう。

1試合単位での制限は投手の少ない少人数の学校や公立校に不利になると指摘する声もあったが、今回のルール化であれば複数投手育成の後押しになるとの見方もある。

一方、一人でマウンドを守り抜くような熱血エースの奮闘に心を躍らせた高校野球ファンからすれば、今後はヒーローが生まれにくくなるかもしれない。終盤に試合間隔が短くなるトーナメント制の甲子園大会ではなおさらのことだ。

中高生の部活動ガイドライン作成にも携わった早稲田大学野球部の小宮山悟監督は「すべて一律で線を引くことは危険」と指摘した上で「小中学生で肩をこわしてしまう未来の球児も多い。戦前、戦後の軍隊式がよしとされる時代ではない。休養を取らないと運動能力も上がらないし、時が来ればなんともなくなる。みんなが共通認識のもと、新たな時代の流れに対応していければ」と受け止める。

米国は球数制限浸透

米国では故障予防のための投球数制限が浸透している。各年代別のガイドラインに沿って1試合で1人の投手が投げられる球数の上限を決め、投球数に応じて次回登板までに必要な休養日を定めている。

今回の「1週間で500球以内」は1日おきに1試合150球を投げることも理論的には可能。今夏の甲子園では1週間で500球以上を投げた投手は出ておらず、複数の投手を育成するチームも増えているが、球数制限の実効性がどこまであるかは未知数だ。

専門家によると、高校野球は投手が実質1人だけの少人数チームも出場するため、1試合ごとに投球制限をかけられない現状もあるという。まずは初の球数制限で、各校の指導者や選手がけがの予防に対する意識が高まることが期待されそうだ。

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